怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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昔話2 弘の話

犬神 2

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「えー、気を取り直して、それで?」

仕切り直すと、ひろは畳に目を落として、口を開いた。

「最初は無視ぐらいだったので、まあ……そんなものか、と軽く流していました」
「……センセイもだけど、無視ぐらいってなるの?」
「日本の学校において、無視程度ならぶっちゃけ、精神攻撃なだけで、実害がないからねえ。健康なことが大前提だけど」
「そうですね。わたしも、こっち方向以外は健康が取り柄みたいなものなので……むしろノートは貸す側でしかなかったですし」

精神攻撃といっても、別段気にしなければかないぐらいですらある。
学校の先生に二人組だのチームだの作れと言われて余ったって、それは無視する側の落ち度であって、怒られる筋合いも落ち込む筋合いもない。先生は胃が痛かろうが、それも無視する側のせい。
それより何より、物理的損害がないのは大きい。

「結局、こういう家だと大なり小なり、小学校の時点から若干の壁はある……僕は特殊事例重なり過ぎだったけど」
「まあ、ありますよね……親によっては詐欺師だとか吹き込みますからね、今の時代」
「……人間って、やっぱりそうは変わらないんだね」

三者三様でなんだか世知辛い世の中にしみじみしてしまう。

「で、最初はってことはその後は物的損害になってくるか」

無理矢理に話を戻せば、ひろはまた力なく微笑ほほえむ。

「まあ、隠された、は序の口です」
「やる側的には逆っぽいけどさ、壊されるより、隠される方がめんどいよね。壊されたらあきらめればいいけど、隠されたら探さなきゃならない」
「センセイ、面倒くさがりと物持ちの悪さが出てる」
「失礼な、あきらめが良いだけだよ」

あんまり湿っぽくなるのも嫌だったがゆえの本音混じりの軽口だったのだけど、ツッコミへの返事にロビンはあきれと困惑と、僕にははかり知れない眉間のシワという複雑な表情を返してきた。

「でも、ちょっとわかります。校舎裏手の側溝に上履うわばき隠された時は本当に見つからなくて……新しいの買ってから出てきましたからね……」
「あー、授業のノート隠されたのも辛かったなあ。内容は頭に入ってても、成績に響くから、提出の時に隠れて見つからないってのを納得させなきゃいけなかった」
「……つまりセンセイ、納得させたの?」

複雑な表情のままのロビンがそう聞いてくる。
ひろも少しだけ興味がありそうだ。

「納得させたよ、正論だけ繰り返して。そもそも、僕に言葉で勝てるわけないじゃん」
「それはそうだけど……ねえ、センセイ、それって鬱陶うっとうしくなって向こうが折れたって言わない?」

ひどいなあ、と言いながらも、否定はできないので、目は合わせない。
論戦においての僕の戦法は、正論を論理で煮詰めて繰り返すことなので、相手の根負け前提という非常に厄介やっかいなアレである。
というのはドン引きした直くんに言われたことだけど。

「ああ、だから、その、界隈かいわいでの呼び名が……」
「身から出たサビってやつだよね、違う?」
「……本題に戻らない?」

別の意味で目をそらすひろと、僕に対する容赦ない言葉でそのひろとがめたりしないことを表明するロビンにはさまれて、自分で脱線しておきながら、僕は苦笑するしかなかった。
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