怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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昔話2 弘の話

ποτνια θηρων 2

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「僕が確証を持ってるのは、と判断してるからだ」

すでに変質しているのであれば、しかるべき論理に沿えばさらなる変質ができると考えられる。

すでに、です?」
「ロビン、二つ目、の結界越えた時、キミ、犬が見えるって言ったね」
「言った。三つ目を越えた時には犬だらけとも言ったけど……それが変質なの?」

ロビンはすでに僕が気にした点に気付いている。
こればっかりは年季によるツウといえばカア。

「さっきは言わなかったけど、犬神いぬがみはね、本来の伝承上、あからさまに犬と紐づくその名前や成立伝承に反して、姿。つまり、旧態依然とした犬神いぬがみなら、ロビンは犬なんてわからないはずだ。だってねずみ土竜もぐらのような小さな生物として語られるからね」
「……名前に引っ張られた?」

ロビンが眉をひそめてぽつりと言う。
それに対して僕が返せるのは一つだけ。

「たぶん。犬神いぬがみという事象に後から名前や伝承がついたならば、犬神いぬがみ犬神いぬがみたる所以ゆえんは、本来はその成立伝承に依拠いきょしない、と考えていいんだと思う」
「……確かに、それなら、何故、犬神いぬがみなんでしょう?」

目を丸くしたひろが、こてり、と今までと反対側に首をかしげた。
こうして見てると、僕のせいでめちゃくちゃ首の運動させてる気がしてきた。申し訳ない。

「ぱっと考えられるのは二つだね。一つは取りかれた様が犬に通ずるように見えたから。もう一つは、ののしり言葉として、犬畜生いぬちくしょうの犬。もしかしたら、狂犬病とかとの繋がりもあるのかもしれないけど、これは不確定が過ぎるな」
「先程のお話からするなら、御子神みこがみおとしめて犬神いぬがみとした、と?」
「うん。犬は心的距離が人に近く、人にしたがう獣の代表格として、人未満と相手をあざけるための言葉としての側面がある」

言語とは使われる時点で多面体である。
あらゆる側面があり、常にただ一つの意味として処理することはほぼ不可能で、それをさだめるために文脈コンテクストを必要とする。
宇宙空間という文脈コンテクストで月は球体だが、地球上という文脈コンテクストでは月の特定の面しか見えないように。
そうして処理すると、犬は忠節の象徴である一方、その従属性を揶揄やゆされる面がある。

「ロビン、ここまでの説明でキミは犬神いぬがみをどこまで把握した?」
「由来は犬に関わるものが多いのに本来は犬の姿じゃない。犬神いぬがみの存在より、事象が先の後付理屈のための装置。関西以西に多い……ああ、あとセンセイ、女性に受け継がれるって言ってたっけ」

言いながら、ロビンは眼鏡をはずす。
完全に自分の役割をわかっている行動である。助かる。

「というわけで、それだけの前提をインプットした今、キミにはどう見える? ロビン」

ん、と軽い返事をしながら、眼鏡をはずしたロビンはぐるりと部屋を見渡した後、ひろにその青い目を向けた。
ひろはびくりとして、居心地悪そうにしつつもその視線を受けている。

「……女王Queen

ぽつりとつぶやいてから、ロビンは眉間にシワを寄せ、口を閉じたり開いたり、言いにくそうだ。

どうかした?What?

あえて英語で問いかけると、ロビンは見慣れない人からしたら鋭すぎる目つきで、見慣れた僕からすれば、困っているとわかる顔で口を開いた。

彼女が女王She is queen.ただ、蜂とか蟻とかの真社会性におけるHowever, in eusociality, example bee and ant.
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