怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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5-2 夢の浮橋 side B

10 そして互酬的因果への帰結

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「ありがとうございました」

支払いを済ませ、店員の声を後ろに店を後にする。
どことなく周囲がざわついているような、と見渡してみると少しばかり離れたところに立ち入り禁止の黄色いテープと、ブルーシートが張り巡らされている一角があった。
当然、そのすぐそばにはランプが光ったままのパトカーが止まっている。
確かにロビンと話してる間に、サイレンの音がしたような気はしたが。

「何かあったんですかね」
「……ナニかあったよ」

何もわからず、きょとんとしてそれを見ている織歌おりかにロビンはそちらを見ないまま言った。

「ロビンさん?」
「……オリカ、キミ、生霊いきりょうのフィードバックの話で『源氏物語』に触れたよね」

歯にものがはさまったような物言いはロビンにしては珍しい。
何か隠していても、それをあからさまににおわせるような言い方をこの兄弟子あにでしは普通しないのだ。
であれば、それは逆説的に織歌おりかに気付けとうながしていることと何ら変わらない。
そして話の内容から推測して――

「私のせい、ですか?」
「オリカのせいじゃない」

明らかに何かがあったのとは反対方向――実際もと来た道がそうなのだが――に歩を進めながら、ロビンは立ち尽くす織歌おりかに小さく振り返って言った。
生霊いきりょうによるフィードバックで何かが発生した結果があの立ち入り禁止なら、それは生霊いきりょうけがれと認識してどうにかさせてしまった織歌おりかの責任だ。
歩みを止めない、それも急いでその場から離れるように普段よりもやや大股おおまたで歩くロビンに、小走りで追いついて、織歌おりかはその横顔を見上げる。

「あの」
「オリカのせいじゃない」

言い聞かせるようにロビンは繰り返し言う。
そもそも、喫茶店の中でしばし待つ事を選択したのはロビンだ。
その目で何を見て、そう判断したのか。
織歌おりかにはわからない。

「でも」
「アレはのろいが返った結果だ」

吐き捨てるようにロビンは少し固い表情のまま言う。

「……のろい、ですか?」
「言っただろ、あの生霊いきりょうはそもそも負のベクトルでつきまとってたんだ」

きゅっとロビンの眉間にアイロンをかけたいぐらいのシワが寄った。
悪い目つきがさらに凶悪さを増す。

「今回、センセイはリャナン・シーLeannan-sidheとして見た方がコトの運びがラクだろうって判断して、最初からそのつもりだった。だから、ボクもとして扱ったし、として見る努力をした」

その言い振りからするなら、ロビンとしては本来は見えなかったということだ。
自身が余りにも多くのものを見ているせいか、この兄弟子あにでしは何を見たって動じることは少ない。
何を見たかについて、嘘をつく事も、それをいつわりとするために演技をする事も可能とするだけの、織歌おりかにははかり知れない経験値がロビンにはあるのだ。
織歌おりかがついていくのに必死に足を動かしている事に気が付いたのか、ロビンが少し歩くペースを落とす。

「あの、そしたら、ロビンさんには、何が見えてたんですか? さっき、話した以上のものが、見えてたんですか?」

少し上がった息で織歌おりかがそう問えば、ロビンの青い目が、ちらと織歌おりかを見て、それから一度まばたきをした。

「grudge, spite」
「はい?」

唐突な聞き慣れない英単語に織歌おりかは思わず聞き返す。

「ん……悪意、怨嗟えんさ、嫉妬、恨み。そういうものをどんな姿でもつぶやき続けてたよ。魅了するような素振そぶりをしながらね。気分のいいものではないよ」
「……私には、そんな」
すでリャナン・シーLeannan-sidheとしていたし、織歌おりかの認識ではただの生霊いきりょうでしかない。センセイもそこまで見えてはないし、そもそもことの方が想定外だ」

織歌おりかの不安を塗りつぶすようにロビンは早口でそうまくし立てて、苦々しい顔をすると、一度足を止めた。
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