怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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7-2 わたしはあなたの side B

7 ピンと張ったゴムを放したようなもの

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「……終わった」
「お疲れ様、ロビン」

紀美きみがこめかみを揉みほぐすロビンに、ねぎらいの言葉をかけてから、珠紀たまき和音わとに向き直る。

「というわけで、これで晴れて珠紀たまきちゃんと悪魔の間の経路パス道切みちきりも完了した。呪いの効力についても不可逆の物理的なもの以外は消えた、と言えるだろう」

だから、と紀美きみはいつもより固い表情で、珠紀たまき見据みすえた。

むくいは、ちゃんと受けなさい。ここから先は、珠紀たまきちゃんと和音わとちゃんの間の問題で、僕達が口をはさむ資格も、権利もないからね」

少しうつむいて唇を引き結んだ珠紀たまきが、そのまま一つうなずく。
顔色の悪い和音わとも小さくうなずいた。
それを見て、紀美きみは少し表情をゆるめる。
ひろが、リビングのドアを開けた。

「そしたら、もう二人とも帰りなさい。流石さすがに、中学生からお金を取るわけにもいかないしね」
「あの、ありがとう、ございました」
「……ありがとうございました」

珠紀たまきに続いて、顔色が悪いままの和音わとも礼を口にする。
紀美きみは無言でそれを受けながら、少し目を細めている。

和音わとちゃん、顔色悪いし、送るね」
「あ、うん……ありがとう、

勿論もちろん織歌おりかはその変化にすぐに気づいて、二人の様子をうかがう。
驚いたように目を見開いた珠紀たまきは、何かを言いかけて、やめて、立ち上がりながら和音わとに伸ばそうとした腕が、中途半端に空にとどまっている。
一方の和音わとは、少しふらつきながらも立ち上がって、そして、行こう、平良ひらよしさん、ともう一度、珠紀たまきの事を呼んだ。

「……むくいは、ちゃんと、受けなきゃね」

ぽつりとした紀美きみつぶやきが、織歌おりかの耳に届いた。



「これで、良かった、んですよね?」

――珠紀たまきから、おそらくは唯一だったろう友人を奪ってしまった。
その友人ができたのが呪いという手段でこそあれ、その一点が少し織歌おりかの中でもやもやとわだかまっている。

「まあ、織歌おりかの後味としてはそうなるでしょうねえ、これでも比較的円満ですよー?」

暗にもっと後味が悪いのがあるぞ、とほのめかしながら、ひろが冷蔵庫から取り出してきた眼精疲労用目薬をロビンの前に、かっと音を立てて置いた。
ひろの言い分はわかるし、確かにそういう事もあったけれど、珠紀たまきから和音わとへは、害意はどころか好意があったと考えると、今回のケースは複雑である。

「蒸しタオルも用意します?」
「してもらえると、ありがたい……」

うめくような声を上げて、眼鏡をはずしながら目薬を手にするロビンに、ひろはタオルを取りに部屋を出て行く。
右、左、と目薬をしたロビンの目は真っ赤に充血していた。

「あの、大丈夫、なんです、よね?」

持ち込んでしまった織歌おりかとしては、ロビンのこの疲労困憊ひろうこんぱいの様子も、とてもとても胸が痛い。
大丈夫じゃなかったら、流石さすが紀美きみも止めるはずだとは思うけれど、何にしたって織歌おりかがやり切れない。
まぶたを閉じて目頭めがしらを押さえていた手を離したロビンは、疲れ切った表情で、ん、とだけ言ってから口を開く。

「大丈夫、ちょっと疲れるだけだから」

その真っ赤な充血の度合いはちょっと疲れるだけで済むものなのだろうか、果たして、と織歌おりかとしてはツッコみたい。
そんな織歌おりかの心中を察したように、紀美きみが苦笑しながら口を開く。

「一応、本当に大丈夫じゃないものは、ロビン、視界に入れてもとしか認識できないから、ちゃんと読めてただけ大丈夫だよ……まあ理屈上なので、疲れさせるのは本当にすまないと思うけど」
「聖書扱うのはこの中だと、今のところボクが一番適役でしょ……オリカの学校は一応ミッション系だったっけ?」

ロビンの問いに、織歌おりかはこくこくうなずく。
まあ、一応は、そう。
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