Eternal Dear5

１章

１

　夏休みが終わり、９月に入ると新学期になる。

　暑さはまだ残るが学園が始まるのでもうグダグダしていられない。

　二学期最初の登校日。麓ろくは嵐あらしと光ひかると共に教室に入った。

　夏休み前と何ら変わってない…と思った矢先、黒髪美女の姿が目に飛び込んできた。

　そのことに対して興味を持たなかった嵐と光は、すぐに自分の席へ向かった。特に嵐は美女の言動に対して日頃不満を抱いているから、変化があっても近づくことはない。麓はオレンジから漆黒へ髪色を変えた美女────立花たちばなの席へ近づいた。

「おはよう。久しぶりね」

「おはようございます。その髪…どうされたのですか？」

　立花が麓に気付く方が早かった。彼女はセミロングの黒髪を軽くかきあげ、色っぽくほほえんでみせた。こうして見ると昔ながらの日本の女性────大和撫子に見える。

「ふふ。二学期が始まったからイメチェン…ってとこよ。生涯同じ髪色でもつまらないから」

「よくお似合いです」

「ありがと」

　そう交わしてから麓は久しぶりに自分の席に着いた。

「おはよ、麓。これあげる」

「わ…ありがとう」

　露つゆから差し出されたのはお菓子が入った箱。＂○い恋人＂という名前は麓も聞いたことがある。

「ほい」

「え？」

　さらに横から、蔓つるからも差し出される。こちらは＂面○い恋人＂と書かれていた。

「ん～…？」

「こっちはみたらし味や。意外とうまいで～」

「い、いただきます」

　疑いつつ２人からお土産をもらった。その輪はいつしか広がり、恐縮しながらたくさんのお土産をもらった。

　皆、いろんな所から来ているんだ…と実感する。

　ここ、八百万学園は精霊たちが集まる。アマテラスが理事長を務めるこの学園は世界中にあるが、全員が最寄りに棲んでいた…ということはない。

　麓はすぐ近くだが蔓は和歌山、嵐は沖縄、露は＂天＂。

　様々な文化とふれあってほしい、というアマテラスからの願いからなるものだ。

　ちなみに＂天＂と言うのは格が違う精霊で、天上で家族のような関係を築く者たち。風紀委員では蒼がそうだ。

　麓の席の周りにはいつもの嵐、光、蔓、露という顔がそろった。夏休み前と変わらないメンバーだ。

「海か～。いいね」

　話題はもちろん夏休みの出来事。皆、自分の故郷へ帰ったり友人と出かけたりしたそうだ。

　もちろん麓も。故郷である花巻山はなまきざんへ行き、凪なぎの故郷である前波まえなみ────海へ訪れた。

　前波では初めての海にはしゃぎ、バーベキューを堪能して、＂G＂にビビったり歴史を感じたり凪に寿司屋へ連れて行ってもらって…。

（あ～…。変なこと思い出しちゃう…）

　麓はうつむいた。自分でも顔が赤くなっていくのが分かる。それを隠すために周りかは視線をそらした。

　しかし目ざとく見つけた者がいる。

「どうしたどうした？ 夏休み中に展開あったの～？ イケメン風紀委員さんたちと♡」

　嵐の語尾にハートマークがつく言い方に、麓はブンブンと首を振って否定した。

「ない！ ないない！」

「そーお？ 夏休みに海とかお祭りとか恋愛イベント満載じゃん」

「恋愛イベント…」