Eternal Dear5

堂宮ツキ乃

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1章

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「あづ~…」

「いつまでダラけているんですかもう。夏休みは終わったのですよ凪様」

「ンなこたァ分かってらァ…。でも暑いモンは暑いんだよ…」

「11年生にもなってそんなのではいつまでたっても卒業できませんわ! おまけに500歳のくに…」

「歳を言うな歳を!」

 夕方。まだキツい日差しが差し込んでくる1階の食堂。

 凪は早々に席に着き、イスの上でだらけていた。着崩した着流しからのぞく体は、細身からは考えられないほど鍛えあげられている。本人曰くこれと言ったことはしていないらしいが。

「夏休みが終わったんだからよォ、暑さも終わっていいモンじゃねェの?」

「季節は自分の思い通りにできるものではございません。ていうか凪様、あなたは海の精霊なのに夏の暑さがお嫌いなのですか?」

 寮長の言葉で凪はそういえば、というような顔をして体を起こし、テーブルに肘をついた。海の色みたいな深い青髪をサラサラといじる。

「海の精霊とか関係ないんじゃね? それに海イコール夏ってモンでもねェし」

「夏の風物詩かと思っていましたのに…」

「バカヤロー。海は年がら年中そこにあるんだぞ。季節なんざ関係ねェ。それに俺は冬に生まれたって言ってたわ、理事長が」

「アマテラス様が、ですか。凪様が冬生まれねぇ~…。似合いませんわね」

 凪の形のいい耳がピクっと動いた。

 後半、寮長はボソッとつぶやいただけだが、地獄耳にはバッチリ届いたらしい。

「ほっとけや。そういうおめーなんて年齢を言わねェじゃねェか。見た目そこそこでも本当は三十路なんてとうに────」

 直後、ドスッだかグサッとかいう刺突音が後ろから聞こえ、振り向いた先には壁に深々と突き刺さったヘアピン────。

 正面に向き直ると寮長が投球ポーズのまま、冷たい微笑で凪のことを見下ろしていた。胸元にあるはずの2本の銀色のヘアピンは1本に減っていた。

「誰が三十路以上ですか…。ババア扱いしてんじゃねーですわよ…。私は永遠の23歳にございますわ…」

「その設定初耳! だからって凶器投げてんじゃねェ!」

 凪はくわっと起き上がってシャウト。ほぼ毎日繰り返される、ある意味恒例行事であった。

「ただいまー」

 そこで帰ってきたのは風紀委員で最年少のあおい

 水色の彼の髪は、色素が濃かったら凪とキャラ被りしていたかもしれない。

「おかえりなさいませ、蒼様」

 寮長がぺこりと会釈をすると蒼も返し、壁に突き刺さった得物を見つけて引きつった笑みを浮かべた。

「…あれなんですか」

「ヘアピンでございます」

「それは見れば分かります…。もしかしてまた凪さんが言ってはいけないことを言ったとか」

「…ま、そんなとこだ」

 当てられた凪は吐き捨てるわけでもなく、しかめっ面でプイッと横を向いた。

 そんな態度に蒼は指で頬をかいた。

「相変わらずですね~。ってか寮長、そのまま仕留めてしまってよかったのに。そしたら僕が委員長の座を狙えます」

「コルァ! 悪どいこと考えてんじゃねェぞクソガキがァ!」

 自分の立場が危うくなった凪は両手でテーブルをバンッと叩きつけた。

「たっだいま~」

「ただいま」

「おかえりなさいませ。おうぎ様、ルビ様」

 教師コンビも帰ってきた。学園でその日の仕事を終えるとさっさと帰ってくる。その理由は2人とも全く同じ。残業が嫌、というわけではなく。

「「麓ちゃん帰ってる?」」

 ただいまの後の言葉は、打ち合わせをしたかのようにタイミングがそろっている。

「まだでございます。本日はご友人の部屋へ遊びに行かれましたわ」

「なんだよー…。早く帰ってきたのに…」

「扇はいいだろ、担任だからHRで会えるだろう。私なんて今日は3年生の授業はおろか、東校舎に行く用事すら無かったんだからな!」

「ざまーみろ~。担任最高!」

 この2人は教師のくせして生徒である麓のことを恋愛的な意味で狙っている。いや、この2人だけではない────。

「食堂騒がしくない?」

「こっちは真面目に宿題やってんのにー」

 2階からほむらと光が下りてきた。そこまで扇と霞の言い合いが響いていたらしい。

 その内容も簡単に予想がつく。光はぷうと頬を膨らませて手を腰に当てた。

「大方ロクにゃんのことでしょ! ダメだからねずーっと歳上が手を出すなんて! 同年代の僕なら社会的にOKだけどね!」

「じゃ、じゃあ俺も! 2桁しか歳変わらないし… 」

「歳の差だったら僕は焔さんより麓さんに近いです」

「ぐっ…」

 麓のことになるとこの5人は言い争い(?)を勃発させる。寮長は「おもしろいですわね~」とほほえんで見守っている。

 凪は盛大にため息をつくだけ。彼は麓のことをそういった目で見ていない。見る気もない。

 だって彼女は風紀委員の────。

「おいおめーら。るっせーぞ、そんな元気があるなら宿題と仕事終わらせろ」

「凪さんには言われたくありません。それに僕は放課中に終わらせるタイプなので」

「そう言う凪だって宿題やれよ。いい加減卒業しろー」

「…後でやるわ! セクハラ教師には言われたくねェ」

「誰がセクハラ教師だ! まだ手ェ出してないぞ!」

「まだ、ってなんだ」

 うるさい扇の脇腹に手刀をくらわせ、彼は床に倒れ込んだ。そんな姿に凪は哀れむことなく再びイスに座り、テーブルに肘をついて鼻を鳴らした。
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