Eternal Dear 8

堂宮ツキ乃

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3章

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 比較的、いつもと変わらない学園生活。

 光が欠けているのは寂しい。

「今頃、どうしてるんかな…」

「戦ってる」

「や、それは分かるわ。でも常にドンパチしてるわけじゃないやろ? ”天”で休憩することもあるやろ。しっかり休めてるんかな、ケガしてへんかなって」

 他愛もないに耳を傾けながら、麓は窓の外に目を見やった。今日はまだ、雪は降っていない。

 放課ということで、嵐は購買にお菓子を買いに行った。一限目が終わっただけなのに、もうお腹が空いたらしい。

 頭を使い過ぎたからエネルギーが切れた。というのが彼女の言い分。

「麓。会いに行った?」

 不意に露に声を掛けられた。短縮された言葉に麓は一瞬固まったが、竹のことだと気づいてうなずいた。

「目的、果たせた?」

「うん。震さんのこと聞けたよ」

「…よかった」

 露は机の上で手を組み、ゆっくりと口を開いた。

「”天”に戻ることになった」

「へっ?」

「”天”への強制帰還」

「そう…なんだ」

 光に続いて露までいなくなってしまう。さらに寂しくなる。

 麓の瞳は沈んでいく。同時に”天”にいる天神地祇のことを思い出し、心が痛んだ。

「天災地変潰しが本格的になるかも。”天”全員で挑む…大戦争の再来────って思ってた。そしたら”天”はまだ戦わないって。凪先輩が天神地祇だけでいいって」

「そう…」

 凪が戦力の拡大を断る姿は容易に想像できる。犠牲者を増やしたくないからだろう。それが天神地祇のトップ。

 麓は安心したようにほほえんだ。

 凪らしい。それに、圧されることなく戦えているということでもあるんだろう。

「凪さんたちに伝えたいことはある?」

「ううん、大丈夫」

 麓は首を振った。彼らが無事に帰ってくるのをおとなしく待ちたい。伝えたいことは、直接がいい。



 天災地変のアジトの中。

 入り口の雑魚を戦闘不能にした天神地祇は、次の敵と対峙していた。

 目の前に立つのは、長い黒髪を持った娘。天神地祇はその顔を知っている。

立花たちばな…」

 かつて同級生だった光が歯ぎしりをした。全員の脳裏に、1年以上前の忌まわしい記憶がよみがえってくる。

 彼女は麓に、執拗な嫌がらせをした。麓が学園から逃げ出すほど。

「久しぶりね、天神地祇の皆さんに彰さん」

 冷たい笑みを浮かべた彼女は懐からクナイを取り出した。

 彰は彼女よりも冷酷な笑みを浮かべ、拳銃をくるくると回した。

「相変わらずろくに扱えない武器を持っているのか」

「フン。勝手に言ってなさい」

 立花は表情を消す。

 彰は暗黒銃を彼女に向けると、間髪入れずに2発撃った。

 狙ったのは彼女の耳の下。長い黒髪だ。だが彼女はその場で派手に避けず、クナイを持ち上げただけ。弾丸は2発ともクナイに当たり、地に転がった。

「残念だったわね。私はもう、あの時・・・の私じゃないわ。いつかあんたを殺ろうと短い期間に特訓を重ねた。もう弱いなんて言わせない」

 立花は闇を深くした瞳でクナイを放った。空気を切り裂いて飛んだそれは、彰の頬をかすめる。彼は避けようとしたが間に合わなかった。

「アッキー!」

「おめー…クズ相手に何してんだコラ。連れてきてやったのにここで何ヘマやらかしてんだ。強制帰還させるぞ、あん?」

「黙っとけヤンキー。人のこと言う前にてめーもアイツに投げられてみろ。たぶん避けられないぜ、最強と名高いお前でも」

 彰は頬を乱暴に拭いながら歯を見せた。もう傷はない。

 今の所、天神地祇は全員が無傷だ。服が一部敗れているだけで以上はない。

「天神地祇のトップさんも地に堕ちたものね。天敵を仲間に入れたのね。よほど戦力が足りなかったのかしら。情けないわね、天災地変は数知れないのに」

「俺はコイツを仲間だと思っちゃいねェ。戦力なんてコイツがいなくても充分なんだよバカヤロー」

 凪は吐き捨てた。彰のことを指摘されたのがよほど気に食わなかったらしい。

 立花は鼻で笑い、新たなクナイを取り出した。

「まぁ、なんでもいいわ。零様のお考えを邪魔するヤツは排除するだけ。例え誰が来ようとも────」

 彼女の後ろから黒い物体が、怒号を上げながら向かってきた。いつの間に潜んでいたのか。

 再び始まった天神地祇と天災地変の戦い。

 天神地祇も応戦するがヤツらは壁を蹴って空中を跳ね回り、天神地祇の攻撃から逃れる。その動きはまるで忍者だ。

 おまけに飛び道具であるクナイの使い方が雑魚と違う。戦局が不利になっていく。

 立花を始め天災地変は、忍装束のどこに隠しているのか分からないほどのクナイを取り出す。きっとこれは武器化身なのだろう。零からにでも与えられたのか。

 #_異輝星_いきせい__#で敵の目をくらませていた光が、突然よろめいた。近くで炎射線えんしゃせんを発して敵を遠ざけていた焔が、光の身体を片手で抱き留めた。

「大丈夫か!?」

「うん、ごめん。ありがと、ホムラっち」

 光は無理矢理笑うと焔から離れ、黒い塊の中へ飛び込んでいく。

 たった一言しか声を掛けられなかったが、焔も再び目の前の敵に火炎放射をくらわせる。

 光のことも心配だが、ここは戦場。味方のことを気にしていたら自分が殺られる。天災地変のアジトに乗り込むということは、それを意味している。



 その日は結局、天災地変が退いて行ったところで終わった。

 こちらの圧倒的な力を見せつけることができなかったから、ではない。むしろこちらが、天災地変の新たな力を見せつけられた。

「立花とか今日のは中堅だろうね。体さばきもクナイの速度も違う」

 アジトの外で天神地祇は、”天”へ戻ろうと結集した。後は蒼が術をかけるだけ。

 その中で霞の髪型がほんの少し変わっていた。右側の横髪だけ短くなっている。毛先は長さがまばら。投げられたクナイがかすめたのだ。

「ついでにショートカットにすれば? また凪がハサミを持って追い回してくれるよ」

「はぁ!?」

「いいぜ。なんなら今、海竜剣で頭丸めてやるよ。ハサミなんて無いからな」

 言いつつ、凪はブレスレットに手をかけている。これでいつでも召喚できる。

「坊主になれってこと? 断る! 私は襟足10センチないと生きていけないから! 髪は命なんだよぉ!」

「よーし蒼。アホだけ置いてとっとと帰っちまおうぜ」

「了解です」

「蒼く~ん! 私だけ放置やめてー!」

 シカトした蒼は呪文をつぶやき始めた。

「ちょ、マジで置いてくの?」

「カスミンうるさい。アオくんの邪魔しちゃダメだよ」

「うっ…光も冷たい…」

 周りの会話を聞き流しながら呪文を唱える蒼は、かすかに聴覚に引っかかる声があることに気が付いた。

 すぐ近くにいる天神地祇ではない。彼らは騒いでいるだけ。

 聞こえてくる内容は全く分からない。

 しかし次第にそれは、蒼の声と重なってくる。

 蒼が唱えているのは”天”しか知らない、瞬間移動の呪文。

 彼が顔を上げた時にヤツ・・はいた。

 あ、と声を発しようとしたときには、彼は仲間と共に”天”に帰還していた。
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