たとえこの恋が世界を滅ぼしても2

堂宮ツキ乃

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1章

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 春休みは富橋の実家に帰り、夜叉は最初の育ての親であるおじいとおばあとロンに挨拶しに行った。

 今は亡き2人と1匹は夜叉の大事な家族だ。

 お墓の前で手を合わせ、そっと目を閉じる。気を遣ったのか今の育ての親である愛瑠あいる奈津なつと、和馬は先に挨拶を済ませて席を外している。おそらく車内で待っているだろう。柄杓と水桶は回収されていた。

(久しぶりだね…。いつも見守ってくれてありがとう)

 隣で舞花も腰を下ろす気配がした。目を開けて盗み見ると彼女も手を合わせて目を閉じていた。霊体の彼女の場合は宙から下りてきた、が正しいのかもしれない。

(4月からは高2になります。和馬のご飯はおいしいし舞花もいるし、友だちもたくさんできたから心配しないでね。喧嘩屋さんもいるけど根はいいし芯があるから、決して悪い人じゃないから)

 結城のことは念入りにフォローしておいた。彼女は絡まれることが多いだけで自分の学校の生徒には手を出さない。守護神と呼ばれるだけのことはある。

「このお二方はわっちとすー様の恩人でありんす。時を越えた主のことを大切に育ててくれんした」

「うん…」

 おじいとおばあはまだ若いともいえる50代で亡くなった。2人とも持病を患っていた。夜叉も幼いながら、2人が時々苦しそうに咳き込むことを気にしていた。



 お墓参りを済ませて奈津の車に戻ってくると、夜叉が車に触れる前にドアが開いた。

「おかえり、さくらちゃん」

「ただいま」

 家族だけの愛称、「さくら」。愛瑠は未だに夜叉のことを「ちゃん」付けで呼んでいる。

「じゃあご飯でも食べに行こうか。久しぶりに2人が帰ってきたんだから」

「あー俺〇ストがいいな!」

「ファミレスか、たまにはいいね」

「さくらちゃんもそれでいい?」

「うん」

 もう子どもじゃないんだから…と、夜叉は半眼で笑う。

 車内から見る地元の景色が懐かしく感じてしまう。彼女は窓枠に腕を乗せて頭半分で会話に集中した。

「最近はどう、学校は」

「ぼちぼちね。さくらはウチの高校のけんk」

「家庭の授業で和馬が女子力発揮してるけどモテないのが草。大草原」

「余計! 黙っといて!」

 和馬が夜叉に噛みつこうとすると、彼女は隣の和馬の胸倉を掴んで瞳孔を開いた。

「結城のことは内緒ってずっと言ってるでしょうが…後で殴るよ?」

「ごめんて! 最近は普通に仲良くしてるみたいだからいかなって…」

「まぁそうだけど。でもそっから響高に殴り込みに行った話に発展したらめんどくさい」

「そうですね…」

「2人ともどうしたの?」

「何にもないよ」

 夜叉は和馬を開放して助手席の愛瑠に笑って見せる。

 愛瑠も奈津も後部席の不審な動きを見せた2人のことは特に気にせず、和馬がモテない話で盛り上がり始めた。

「まぁいいんじゃない? いつか好きって言ってくれる人が現れるってー」

「別に俺は気にしてないし…」

「ふーん。さくらちゃんはどうなの?」

「私もさっぱりだし、てかどうでもいいし」

「さくらはどっちかというと女子にモテるよね! ウチのクラスの女子もさくらのこと気にしてるみたい」

「へ~。さくらちゃんはお人形さんみたいに可愛いもんね~。高校を富橋で選んで駅前を歩いてたらスカウトされそううだもん」

 愛瑠に「それはない」と首を振ると、後ろで舞花がくすくすと笑うのが聞こえた。不審に思われないように振り向くと、舞花は口元を袖で隠して肩を震わせていた。

「ほんに楽しい、可愛らしい御方…」

 夜叉は誰にも気づかないレベルの角度で口の端を上げた。舞花は愛瑠のことが決行好きらしい。なんでも女郎時代の禿たちのようだと。

「親バカだな…卵かけご飯大好きな女子高生がスカウトされるかっての」

「ギャップがいいんだろ。もし芸能界に行っても応援するよ」

「だから無いって…」

 肩をすくめると隣で和馬もニヤニヤとしている。夜叉は無言でその脇腹に手刀をくらわせた。



 春休み中はそうして富橋の実家に帰る以外にも彦瀬や瑞恵みずえと遊んだり、阿修羅たちの家に遊びに行った。

 いつもいる鬼子母神と、お互いの正体を知らないまま会った毘沙門天びしゃもんてんは不在だった。なんでもまた他の仕事が入ったとかで時代を飛んだり戯人族ので事務作業をしているらしい。

 夜叉は戯人族のに遊びに行くことは無かった。舞花は朱雀の部屋に訪れると懐かしさを感じて居心地がよいらしいが、夜叉はそわそわして早く帰りたいと思ってしまう。まるで年に1,2回しか訪れないような慣れない親戚の家の来たような感覚だ。

 阿修羅はそれを察したのかそこへ夜叉を誘うことはしない。その代わり自宅に呼んだり夜叉に連れられてご飯を食べに行ったり買い物に付き合う。

 転入という形でクラスメイトになった彼も、最初こそ堅物で近寄りがたいとされていたが今では「あーちゃん」と呼ばれるようになってなじんでいる。

 2人で並んで歩いていると鹿島かしま香取かとりに「百合だ…」と手を合わせて拝まれることがある。嬉しくはない。

────百合とはなんですか。やー様が花のように美しいということですか。的を射てますね。

────残念ながら君の予想は的を射てないよ…。

 百合の意味が分からないという阿修羅にオタクの神コンビは丁寧に教え、彼の髪は嬉しそうにぴょこぴょこと動いていた。
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