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1章
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「えーこれで春休みに入るワケですが、前々から伝えている通り明日から3日間は登校禁止です。ウチでロケをやるってことで見に来るのもダメ。おとなしくお家で勉強しよう」
1年生としての登校は今日が最後。夜叉は手元にある配られたプリントを左目だけでチラ見しながら担任の話を聞いていた。
「ねね、やーちゃん! 誰が来ると思う?」
「ロケ? ん~…私芸能人詳しくないんだよな…」
彦瀬に小声で話しかけられて考え、思いついたのは1人だけ。担任はこちらを見てないなと確認してから人差し指を立てた。
「みっつんとか?」
「どっちかと言うと来てほしいんでしょー…」
「まぁそれもあるけど。じゃあ彦瀬は誰だと思うのよ」
「地元のバンドとか? 地元出身の芸能人とか?」
「なるほどねぇ~」
曖昧に彦瀬に相槌を打ってから再び担任の話に集中した。担任を初め教師陣もロケ当日は一部しか出校しないらしい。誰が来るのかも知らせることはない。少しでも生徒が様子を見に来ないようにするための予防線か。
この田舎で一体誰がロケをするのだろう。夜叉は頬杖をつきそうになった腕を引っ込めて窓の外を見た。
(高校生になってから初めての春休みか…)
入学してから1年、授業も友人も弟である和馬との2人暮らしも何もかもが新しいことばかりだった。
地元である富橋の中学に比べたら大きな学校、藍栄高校。
思えば去年の冬から今までの生活が一変してしまった。
夜叉にそっくりな阿修羅が高城付近に出没してSNS上で騒がれ、喧嘩屋である結城と関わるようになった。そのつながりというか過去の一族の因縁で響高の朝来と────
(朝来…)
夜叉は自分の唇にそっとふれた。桃色の唇はつややかだ。
────僕らは遥か昔に禁忌を侵した。それでも僕らは再び巡り合った。
裏切り者の子孫と呼んだにも関わらず夜叉を傷つけることはしない。初対面でキスされて噛まれはしたが。
(あの言葉の意味は?)
朝来とはそれ以前に会った記憶なんてない。彼は誰かと夜叉を勘違いしているんじゃないかと彼女は思った。
そのことを舞花や阿修羅には話していない。
舞花は朝来に夫である朱雀を殺された。阿修羅は戯人族の頭領の1人である朱雀によく懐いていた。朝来のことを軽々しく口にしたらいい顔をされないに決まっている。
「よう帰ってきんした…」
「勝手に行ってごめんね」
朝来に連れられて時代を飛び、阿修羅によって連れ戻された。
朝来が似合うと言った着物はもう着ておらず、いつもの制服に戻っていた。
出迎えた舞花は涙を浮かべていた。さらわれた娘を本当に心配していたらしい。その様子に夜叉は罪悪感を覚えた。
一族の仇とも言える男といて楽しいとすら思ってしまっていた。あともう少し…とすら。
「探すのに苦労しました…ヤツはやはり気配を消すのがうまいですね。やー様、何も危害を加えられませんでしたか」
戯人族の間。いつもの派手な着物からシンプルな着物に着替えた阿修羅は、朱雀の部屋で夜叉と舞花と正座をして向かい合った。
「うん…朝来とは何も。小旅行的な?」
「はぁ…?」
答えたら阿修羅には特に怪訝な顔をされた。
「あ、ごめん。名前で呼ばない方がいいよね…」
気まずく顔をそらしたら阿修羅は眉根を寄せて視線を下げた。
「…ヤツは悪魔だと考えられています。どうか心を奪われないようにお気を付けください」
「はーい…」
間延びした返事をすると舞花に「これ」と煙管を頭にコツンと当てられた。普段は霊体だが今は実際にさわられた感覚がある。
「青龍様も鬼子母神様も心配していらっしゃいんした。後で挨拶しに行きんすよ」
「ほいほーい」
「だから主は…」
「まぁ、よいではないですか。やー様らしくて…自分は安心しております」
その後は2人に連れられて青龍の元へ顔を出した。
彼は同じ青龍一族の少女を膝に乗せていたが、慌てて少女を帰して何もない風に取り繕っていた。…まぁ実際何も無いだろう。ただ愛でていただけだろう。
夜叉の顔を見ると安心したようにほほえんだが、どこか後ろめたさを隠したような心からのほほえみではなかった。
「もしかしてあの女の子との邪魔をされたからご機嫌斜めなんですか」
「私はそんな子どもではないよ…。ちょっと気になることが、ね」
「はぁ…」
「君たちは気にしないでくれ」
「そうおっしゃるんだったら」
夜叉はそれ以上ツッコむことはなく、人間界に帰ろうかとあっさりと2人に声をかけた。
戻ってくるとやはりと言うべきか時間は進んでおらず、調整されていた。この調子だと自分だけ1年が365日以上になりそうだ。
1年生としての登校は今日が最後。夜叉は手元にある配られたプリントを左目だけでチラ見しながら担任の話を聞いていた。
「ねね、やーちゃん! 誰が来ると思う?」
「ロケ? ん~…私芸能人詳しくないんだよな…」
彦瀬に小声で話しかけられて考え、思いついたのは1人だけ。担任はこちらを見てないなと確認してから人差し指を立てた。
「みっつんとか?」
「どっちかと言うと来てほしいんでしょー…」
「まぁそれもあるけど。じゃあ彦瀬は誰だと思うのよ」
「地元のバンドとか? 地元出身の芸能人とか?」
「なるほどねぇ~」
曖昧に彦瀬に相槌を打ってから再び担任の話に集中した。担任を初め教師陣もロケ当日は一部しか出校しないらしい。誰が来るのかも知らせることはない。少しでも生徒が様子を見に来ないようにするための予防線か。
この田舎で一体誰がロケをするのだろう。夜叉は頬杖をつきそうになった腕を引っ込めて窓の外を見た。
(高校生になってから初めての春休みか…)
入学してから1年、授業も友人も弟である和馬との2人暮らしも何もかもが新しいことばかりだった。
地元である富橋の中学に比べたら大きな学校、藍栄高校。
思えば去年の冬から今までの生活が一変してしまった。
夜叉にそっくりな阿修羅が高城付近に出没してSNS上で騒がれ、喧嘩屋である結城と関わるようになった。そのつながりというか過去の一族の因縁で響高の朝来と────
(朝来…)
夜叉は自分の唇にそっとふれた。桃色の唇はつややかだ。
────僕らは遥か昔に禁忌を侵した。それでも僕らは再び巡り合った。
裏切り者の子孫と呼んだにも関わらず夜叉を傷つけることはしない。初対面でキスされて噛まれはしたが。
(あの言葉の意味は?)
朝来とはそれ以前に会った記憶なんてない。彼は誰かと夜叉を勘違いしているんじゃないかと彼女は思った。
そのことを舞花や阿修羅には話していない。
舞花は朝来に夫である朱雀を殺された。阿修羅は戯人族の頭領の1人である朱雀によく懐いていた。朝来のことを軽々しく口にしたらいい顔をされないに決まっている。
「よう帰ってきんした…」
「勝手に行ってごめんね」
朝来に連れられて時代を飛び、阿修羅によって連れ戻された。
朝来が似合うと言った着物はもう着ておらず、いつもの制服に戻っていた。
出迎えた舞花は涙を浮かべていた。さらわれた娘を本当に心配していたらしい。その様子に夜叉は罪悪感を覚えた。
一族の仇とも言える男といて楽しいとすら思ってしまっていた。あともう少し…とすら。
「探すのに苦労しました…ヤツはやはり気配を消すのがうまいですね。やー様、何も危害を加えられませんでしたか」
戯人族の間。いつもの派手な着物からシンプルな着物に着替えた阿修羅は、朱雀の部屋で夜叉と舞花と正座をして向かい合った。
「うん…朝来とは何も。小旅行的な?」
「はぁ…?」
答えたら阿修羅には特に怪訝な顔をされた。
「あ、ごめん。名前で呼ばない方がいいよね…」
気まずく顔をそらしたら阿修羅は眉根を寄せて視線を下げた。
「…ヤツは悪魔だと考えられています。どうか心を奪われないようにお気を付けください」
「はーい…」
間延びした返事をすると舞花に「これ」と煙管を頭にコツンと当てられた。普段は霊体だが今は実際にさわられた感覚がある。
「青龍様も鬼子母神様も心配していらっしゃいんした。後で挨拶しに行きんすよ」
「ほいほーい」
「だから主は…」
「まぁ、よいではないですか。やー様らしくて…自分は安心しております」
その後は2人に連れられて青龍の元へ顔を出した。
彼は同じ青龍一族の少女を膝に乗せていたが、慌てて少女を帰して何もない風に取り繕っていた。…まぁ実際何も無いだろう。ただ愛でていただけだろう。
夜叉の顔を見ると安心したようにほほえんだが、どこか後ろめたさを隠したような心からのほほえみではなかった。
「もしかしてあの女の子との邪魔をされたからご機嫌斜めなんですか」
「私はそんな子どもではないよ…。ちょっと気になることが、ね」
「はぁ…」
「君たちは気にしないでくれ」
「そうおっしゃるんだったら」
夜叉はそれ以上ツッコむことはなく、人間界に帰ろうかとあっさりと2人に声をかけた。
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