たとえこの恋が世界を滅ぼしても2

堂宮ツキ乃

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1章

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 そして4月。夜叉たちは2年生になった。

 クラスメイトの顔ぶれはほぼ変わらなかった。夜叉はいつも通り、バスから降りた彦瀬と瑞恵と校舎に向かって歩いてた。

「担任誰かなー」

「さぁね~。楽しみ?」

「うん。担任発表おもしろいじゃん」

 ここまで歩いてきた和馬とは分かれ、彼はすばるに絡まれている。昴は背中に白いギターケースを背負っている。

「やーちゃん、和馬は早瀬君と仲いいの?」

「私も最近知ったけど和馬に恩があるんだって」

「へー。不思議なとこで縁があるもんだね」

 教室に入ると妙にざわつていた。教室の真ん中で大きな輪があり、周りにちらほらと塊が散らばっている。

「何々?」

「おはようございます、やー様」

 いつも夜叉より朝早く登校しがちな阿修羅が腰を折った。

「それが…どうやら春休み中にロケをしているところをのぞきに行った者がいるようで」

「マジで? ダメって言われてたのに…」

 やっぱりやるヤツはやるのか…と呆れ、輪の中心になっている人物の顔を一目拝もうと入り込んだ。

「本当だって! でもそんな人はいなかったよ」

「見たことない顔だ…」

翠河みどりかわさんだよ。前に合同で体育があった時に同じチームになったことがある」

 瑞恵の説明もそこそこに、翠河さんとやらの話に耳を傾けた。周りの生徒も興味深げに聞いている。

「おっきいワゴン車がぞろぞろとグランドに入って機材を下ろしたり、ミーティングしてたみたいだけど芸能人ぽい人は誰もいなかったんだよ。後から高級車で現れることもなかったし」

「撮影前だから地味な格好してただけじゃね?」

「芸能人なら独特なオーラがあるでしょ! そんなの誰にも感じなかったもん」

「それは翠河が鈍いだけだって」

「言ったな!?」

 翠河がその男子に噛みつくと笑いが起きた。

 彼女は自分がロケ日にのぞきに行ったことはくれぐれも黙っておいてくれ…ユダがいたら全員道連れだかんなと念押しし、始業式のためにアリーナに向かった。



「今日から担任になる神崎かんざきです。皆大好き爽やかこうちゃん先生と同い年の国語担当教師だ。去年教科担当を受け持った生徒もちらほらいるが…とりあえず1年よろしく」

 無造作ヘアに気だるげな表情、話し方にも芯は入っているようには聞こえないが低くてよく響く。そこそこ身長があることだけが取り柄のような神崎と名乗った男は、出席簿片手に後頭部をかいた。

「名前は…大体分かるな。キラキラネームがいなくて何より。自己紹介だけしてもらおうか」

 彼はランダムで名前を呼んで、順番に立たせて自己紹介させた。

 好きな教科だとか最近ハマっていること、2年生で楽しみにしている学校行事など。そろそろ自分も呼ばれる頃かな、と夜叉が話すことを考えていると阿修羅が指名された。

青川あおかわあしゅら…阿修羅? 強い名前だなオイ。しかも女子か」

「よろしくお願い致します」

 阿修羅は肯定はせずにスッと立ち上がって一礼した。

「今年もやー様と同じクラスになれて嬉しく思います」

「やー様…? 翠河か」

「違います。夜叉様です」

 阿修羅は夜叉を手で示しながら座った。ちょっと何言ってんの、というのは後で個人的に直接伝えるとして。1年生の時に別のクラスだった者はなんだなんだとざわめきだす。

 翠河というさっきの女子も「や」から始まるのかと彼女を見ながら、神崎に指名されて立ち上がった。

「えー…。2年生では修学旅行があるので楽しみです。北海道でカニが食べたいですね」

「おう…。お前たちの関係が気になるがまた聞くとするか…」

 それからも自己紹介は続き、今日は午前中で下校ということで合わせて帰りのホームルームも行われた。

(明日からは授業があるな…教科書重くてつら)

 1つの教科につき教科書、ノート、ワークや資料集などの副教材…。特に日本史世界史となると教科書自体が厚い。

 夜叉は背中と肩にくる重みを想像して渋い顔になった。

「…と、連絡事項はここまで。気を付けて帰るように。あと翠河、お前は後で俺ンとこ来いよ」

「はいぃっ!?」

「呼ばれる理由は分かっているはずだ。それでは解散」



 バスで帰る彦瀬と瑞恵と分かれ、夜叉は阿修羅と2人で歩いていた。この後は阿修羅の家で昼ご飯をごちそうになる予定だ。

「やー様、修学旅行とはなんですか」

「んー。読んで字のごとく学を修める旅行だよ。2年生全員で3泊4日出かけるの。ウチの学校は毎年北海道に行くんだ」

「蝦夷ですか。名称が変更されてからは行ったことがないので楽しみです」

「私は行ったことすらないなー」

 マンションでは鬼子母神と毘沙門天が昼ご飯を用意して待っていた。水色髪の2人は夜叉をニコニコと出迎えた。毘沙門天の愛犬のハニーも尻尾を振って喜んでいる。

「いいね、北海道。食べ物はおいしいし土地は広大だし、いい経験になると思うよ」

「6月なら旅行のオフシーズンだから比較的空いてると思うわ。梅雨もないしね」

「楽しみだなー」

 合い挽きのミンチと長ネギのチャーハンを食べながら夜叉はまだ見ぬ地に思いを馳せた。

 正直、乳牛や海産物ばかり楽しみにしていたが観光地も気になってきた。帰ってから和馬と調べようかと思い始めた。その和馬は男友だちとラーメンを食べに行った。

「夜叉様。そろそろ申し上げようと思っていたのですが、戯人族としての訓練をしませんか。蝦夷の地は海沿いの地形が跳躍の訓練に最適です。修学旅行の合間にどうでしょう」

「なるほどねー。いいんじゃない? 私も阿修羅みたいに跳べるようになりたい」

「これなら遅く起きても学校に間に合うなんて…」

「思ってないよ! 考え過ぎだよ舞花!」

「夜叉ちゃん…それ図星じゃない」

 宙で煙管片手に半眼で夜叉のことを見下ろした。当の本人は汗を垂れ流しながらチャーハンをかき込み始めた。
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