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3章
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「あ」
「あ…」
「さくら?」
ある日曜日。夜叉は和馬と共にスーパーに買い物に来た。和馬がカートを引き、夜叉は彼に言われた食材をカートに乗せたカゴに入れていく。その下には赤いマイバスケット。
買う物は全て入れたというところでレジに並んだのだが。
「梶原君!」
「樫原だ! カジ〇ックじゃねぇんだ」
スーパーの店名が入ったオレンジのエプロンをつけたアルバイトであろうおぼしき高校生は、夜叉に指を差されて声を張り上げた。買い物中の主婦や家族連れが何事かと振り向く。
樫原は気まずそうに咳払いをしてカゴを引き寄せ、商品を持ち上げてはバーコードを読み取っていく。
「何々? さくらの知り合い?」
「うーん。1回ぶっ飛ばしたことがあr…」
「はい!? すみません! ウチのさくらがとんでもない非礼を!!」
和馬が腰を90度に追ってひたすら頭を下げると、樫原は少しだけ苦笑いをして夜叉に視線で助けを求めた。
「そもそもこちらがケンカを吹っ掛けたのが悪いんだ…。お前の彼氏か?」
「ううん、弟。それよりバイト? 私らはよくここに買い物に来るけど最近入ったの?」
「結構前からだ。お前たちのこともよく見てた。そっちが気づかなかっただけだ」
「そうだったんだ。バイトお疲れ」
おう、と小さくつぶやくように返事をした樫原の手つきは素早く無駄がない。豆腐のパック、肉や魚の入ったトレーをポリ袋に入れる作業もスムーズだ。
よくよく彼のことを見たら派手に跳ねさせた茶髪は落ち着き、服装もピシッと着こなしている。心を入れ替えるきっかけでもあったのだろうか。
「解散したんだっけ。結城から聞いた」
「あぁ、影内さんたっての希望で。もうウチから喧嘩屋は生まれない」
本人の口から聞いて本当の意味で安心できた気がした。実は制服姿で響高校の生徒とすれ違う度に絡まれやしないかとヒヤヒヤしていた。
「藍栄の守護神にも伝えておいてくれ。今まで済まなかったと…。今後ウチのモンが喧嘩ふっかけたら俺がシめるから言ってくれ」
「それはどうもどうも。なんだかまるで最年長みたいな物言いね」
「事実最年長だ」
その後、樫原は高3であることが発覚したが夜叉の態度とタメ口が変わることはなかった。その様子に和馬が再び大袈裟なほど謝った。
「で? 君は彼女の家に行ったと? ついでに手料理まで食べたと?」
「正確には桜木さんと弟の家で、弟の手料理なんですけども…」
響高校の昼休み。ある者は教室に残り、ある者は校庭、中庭へ。
3年生のとあるクラスの窓際の席に2人はいた。
椅子に座って足を組んでいるのはかつて響高校で不良連中をまとめあげた男────影内朝来で、留年して今年も3年生。去年2年生でサブリーダー的な存在であった樫原と同じクラスになった。
樫原が久しぶりに夜叉を見たとのことでいろいろと聞き出したところ、聞き捨てならない話まで出て来た。
朝来は女にも見える美しい顔で口元を引きつらせながら組んだ腕に力をこめた。
「ふ~ん…いつの間にそんなに親密な仲になったことやら…」
「誤解です。食事に誘って来たのは弟の方です。せめてものお詫びの印にって…」
「まぁいいや。彼女の家の様子はどうだった?」
「どうって至って普通だと思いますけど。大抵の家事は弟に任せっきりでした」
「お姫様みたいな娘だな…」
「はい?」
「気にしないでくれ」
朝来は軽く手を振って窓の外に顔を向けた。力を入れないと頬がゆるみそうだった。
「藍栄の守護神と歩いている所を報告してから桜木さんのことばかりですね」
「そうかい?」
「好きなんじゃないかと思うくらいには」
「僕が彼女を好き?」
人を好きだなんて想う心はとうの昔に無くなった。
大切な愛する人を失ったと同時に自分の心も一度死んだのだ。そんな感情が再び芽生えることはない。きっとこれからも。
「冗談はよしてくれ」
「…失礼しました」
教室の片隅で樫原は平謝りをした。朝来はそれほど気にしてないからと言う風に立ち上がって窓際によって校庭を眺めた。グランドの周りには弁当を持ち寄ったであろう生徒のかたまりが複数ある。
朝来は正体と体質のため人間のように食べ物を摂る習慣がない。時々建前で食べることもあるが、生徒は立ち入り禁止の屋上で昼休みの間に寝ていることが多い。今では不良連中のたまり場となっていた所は春休み仲に撤去されたので、今は1人で自由にいられる場所は屋上だけだ。
「話を聞かせてもらって悪かったね。早く昼ご飯食べなよ」
「あっはい。影内さんこそ…」
「どうも、適当に買ってこようかな」
朝来は樫原のことをわずかに振り返りながら教室を出た。
「あ…」
「さくら?」
ある日曜日。夜叉は和馬と共にスーパーに買い物に来た。和馬がカートを引き、夜叉は彼に言われた食材をカートに乗せたカゴに入れていく。その下には赤いマイバスケット。
買う物は全て入れたというところでレジに並んだのだが。
「梶原君!」
「樫原だ! カジ〇ックじゃねぇんだ」
スーパーの店名が入ったオレンジのエプロンをつけたアルバイトであろうおぼしき高校生は、夜叉に指を差されて声を張り上げた。買い物中の主婦や家族連れが何事かと振り向く。
樫原は気まずそうに咳払いをしてカゴを引き寄せ、商品を持ち上げてはバーコードを読み取っていく。
「何々? さくらの知り合い?」
「うーん。1回ぶっ飛ばしたことがあr…」
「はい!? すみません! ウチのさくらがとんでもない非礼を!!」
和馬が腰を90度に追ってひたすら頭を下げると、樫原は少しだけ苦笑いをして夜叉に視線で助けを求めた。
「そもそもこちらがケンカを吹っ掛けたのが悪いんだ…。お前の彼氏か?」
「ううん、弟。それよりバイト? 私らはよくここに買い物に来るけど最近入ったの?」
「結構前からだ。お前たちのこともよく見てた。そっちが気づかなかっただけだ」
「そうだったんだ。バイトお疲れ」
おう、と小さくつぶやくように返事をした樫原の手つきは素早く無駄がない。豆腐のパック、肉や魚の入ったトレーをポリ袋に入れる作業もスムーズだ。
よくよく彼のことを見たら派手に跳ねさせた茶髪は落ち着き、服装もピシッと着こなしている。心を入れ替えるきっかけでもあったのだろうか。
「解散したんだっけ。結城から聞いた」
「あぁ、影内さんたっての希望で。もうウチから喧嘩屋は生まれない」
本人の口から聞いて本当の意味で安心できた気がした。実は制服姿で響高校の生徒とすれ違う度に絡まれやしないかとヒヤヒヤしていた。
「藍栄の守護神にも伝えておいてくれ。今まで済まなかったと…。今後ウチのモンが喧嘩ふっかけたら俺がシめるから言ってくれ」
「それはどうもどうも。なんだかまるで最年長みたいな物言いね」
「事実最年長だ」
その後、樫原は高3であることが発覚したが夜叉の態度とタメ口が変わることはなかった。その様子に和馬が再び大袈裟なほど謝った。
「で? 君は彼女の家に行ったと? ついでに手料理まで食べたと?」
「正確には桜木さんと弟の家で、弟の手料理なんですけども…」
響高校の昼休み。ある者は教室に残り、ある者は校庭、中庭へ。
3年生のとあるクラスの窓際の席に2人はいた。
椅子に座って足を組んでいるのはかつて響高校で不良連中をまとめあげた男────影内朝来で、留年して今年も3年生。去年2年生でサブリーダー的な存在であった樫原と同じクラスになった。
樫原が久しぶりに夜叉を見たとのことでいろいろと聞き出したところ、聞き捨てならない話まで出て来た。
朝来は女にも見える美しい顔で口元を引きつらせながら組んだ腕に力をこめた。
「ふ~ん…いつの間にそんなに親密な仲になったことやら…」
「誤解です。食事に誘って来たのは弟の方です。せめてものお詫びの印にって…」
「まぁいいや。彼女の家の様子はどうだった?」
「どうって至って普通だと思いますけど。大抵の家事は弟に任せっきりでした」
「お姫様みたいな娘だな…」
「はい?」
「気にしないでくれ」
朝来は軽く手を振って窓の外に顔を向けた。力を入れないと頬がゆるみそうだった。
「藍栄の守護神と歩いている所を報告してから桜木さんのことばかりですね」
「そうかい?」
「好きなんじゃないかと思うくらいには」
「僕が彼女を好き?」
人を好きだなんて想う心はとうの昔に無くなった。
大切な愛する人を失ったと同時に自分の心も一度死んだのだ。そんな感情が再び芽生えることはない。きっとこれからも。
「冗談はよしてくれ」
「…失礼しました」
教室の片隅で樫原は平謝りをした。朝来はそれほど気にしてないからと言う風に立ち上がって窓際によって校庭を眺めた。グランドの周りには弁当を持ち寄ったであろう生徒のかたまりが複数ある。
朝来は正体と体質のため人間のように食べ物を摂る習慣がない。時々建前で食べることもあるが、生徒は立ち入り禁止の屋上で昼休みの間に寝ていることが多い。今では不良連中のたまり場となっていた所は春休み仲に撤去されたので、今は1人で自由にいられる場所は屋上だけだ。
「話を聞かせてもらって悪かったね。早く昼ご飯食べなよ」
「あっはい。影内さんこそ…」
「どうも、適当に買ってこようかな」
朝来は樫原のことをわずかに振り返りながら教室を出た。
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