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3章
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「美百合! いる?」
「ここよ」
高層マンションの植物がたくさん置かれた広いテラス。その中心で植物に囲まれながら空を見上げていた彼女は、返事をしながら振り向いた。傍らにはパラソルと小さなテーブルと椅子が2つ。
長い白髪を頭の後ろでたばね、銀糸にも見える髪は横にも広がっている。金色の切れ長の瞳は彼女の名前を呼んだ本人を見て優しく細められた。
「どうしたの?」
同じくテラスに出て来たセミロングの白髪に黄金の瞳を持つ彼女は、パンツスーツ姿でスマホを握ってほほえんだ。
「今回のシングルはオリコン3位だったよ。着々と上げてるね」
「あら…そう」
「大して嬉しくない?」
「えぇ。聴いてくれる人がいるだけでいいの」
美百合と呼ばれた彼女は片目をとじてみせ、再び空を見上げた。
「ここまで来るのに長かったね…」
「そうかしら。あまり気にしたことがないわね」
「美百合は気が長いのかもね」
彼女は「それもあるかもしれないけど」とつぶやきながら腕を広げて勝ち誇ったようなすがすがしい笑みを浮かべた。
「私はこの仕事が好きだわ。辛かったことなんてない。サラはどうだった?」
「私も今の仕事が好きだよ。こんなに多くの人と関われる仕事はしたことがなかったから…」
「それに好きな人の近くにもいられるしね? またミツモリに妬かれるわよ」
「もうっ。それは余計だよ」
サラ────もとい摩睺羅伽は美百合をにらむように頬を膨らませた。一応彼女より歳上で人間界での経験も豊富ではあるが、時々どうもおちょくられているフシがある。
美百合は木でできた椅子を引いて腰掛け、再び空を見上げた。長い髪が陽光を受けてきらきらと輝く。彼女の髪は特に美しいと称されていた。
「この前の学校での撮影はおもしろかったわね。とても大きかったわ」
「あー、あの学校は周辺で1番大きいらしいよ。美百合は学校に行くのは初めてだった?」
「えぇ」
摩睺羅伽も椅子に腰かけ、テーブルに肘をついた。
「そう。学校に通うような仕事をやるのもアリかもね」
「そうかしら? そうしたら歌手の仕事がやりづらくならないかしら…」
「その時は活動休止かなー」
「それは頂けないわね…」
美百合はあごに手をやって思案顔になった。彼女は生きることから歌を切り離したくないのだ。
「学校と言えばクリオネが通っていたかしら」
「うん────って、その呼び方やめてあげたら…? 本人毎回すっごく微妙な顔してるじゃん。嫌って言わないだけで」
「沈黙は受け入れたと受け取るわ」
「もーう…」
最近は会っていない、紅緋の髪を持つ彼。あまり笑わず口数も少なく、見た目の割にはおとなびている。真面目で仕事も早い。
美百合も仕事に対する姿勢は真面目だが他では気が抜けているところがある。特に何をするでもなくこうしてテラスに出て空を見上げたり、ソファに寝転んでうとうとしたり。
街へ出ればスマホ片手にポケットに手をつっこんでいる若者をよく見るが、美百合は周りの景色を見ているだけのことが多い。もちろん彼女もスマホを持ってるが必要以上に触っているところを見たことがなかった。電話には出てくれる。
「美百合、今日は午後からオフだしご飯でも食べに行かない? 気になってるハンバーガー屋さんがあるんだけど」
「いいわよ。大方、相田光守がロケで行ったとかでしょ」
「なんで分かったの…なんにも言ってないのに」
「録画よ、録画。この間サラがいなくて退屈だから見てたの」
「あぁそう…」
自分からテレビを見ることなんてあるんだ…。摩睺羅伽と一緒に見ることはあるが自発的に見るところは見たことがなかった。
「それより行きましょうよ。私も気になってたしお腹が空いたわ」
「分かった分かった。久しぶりに車を出すかー」
2人して立ち上がって椅子を戻し、太陽の眩しさに目を細めた。日が一番高い所まで登っている。ちょうどお昼時だ。
「ここよ」
高層マンションの植物がたくさん置かれた広いテラス。その中心で植物に囲まれながら空を見上げていた彼女は、返事をしながら振り向いた。傍らにはパラソルと小さなテーブルと椅子が2つ。
長い白髪を頭の後ろでたばね、銀糸にも見える髪は横にも広がっている。金色の切れ長の瞳は彼女の名前を呼んだ本人を見て優しく細められた。
「どうしたの?」
同じくテラスに出て来たセミロングの白髪に黄金の瞳を持つ彼女は、パンツスーツ姿でスマホを握ってほほえんだ。
「今回のシングルはオリコン3位だったよ。着々と上げてるね」
「あら…そう」
「大して嬉しくない?」
「えぇ。聴いてくれる人がいるだけでいいの」
美百合と呼ばれた彼女は片目をとじてみせ、再び空を見上げた。
「ここまで来るのに長かったね…」
「そうかしら。あまり気にしたことがないわね」
「美百合は気が長いのかもね」
彼女は「それもあるかもしれないけど」とつぶやきながら腕を広げて勝ち誇ったようなすがすがしい笑みを浮かべた。
「私はこの仕事が好きだわ。辛かったことなんてない。サラはどうだった?」
「私も今の仕事が好きだよ。こんなに多くの人と関われる仕事はしたことがなかったから…」
「それに好きな人の近くにもいられるしね? またミツモリに妬かれるわよ」
「もうっ。それは余計だよ」
サラ────もとい摩睺羅伽は美百合をにらむように頬を膨らませた。一応彼女より歳上で人間界での経験も豊富ではあるが、時々どうもおちょくられているフシがある。
美百合は木でできた椅子を引いて腰掛け、再び空を見上げた。長い髪が陽光を受けてきらきらと輝く。彼女の髪は特に美しいと称されていた。
「この前の学校での撮影はおもしろかったわね。とても大きかったわ」
「あー、あの学校は周辺で1番大きいらしいよ。美百合は学校に行くのは初めてだった?」
「えぇ」
摩睺羅伽も椅子に腰かけ、テーブルに肘をついた。
「そう。学校に通うような仕事をやるのもアリかもね」
「そうかしら? そうしたら歌手の仕事がやりづらくならないかしら…」
「その時は活動休止かなー」
「それは頂けないわね…」
美百合はあごに手をやって思案顔になった。彼女は生きることから歌を切り離したくないのだ。
「学校と言えばクリオネが通っていたかしら」
「うん────って、その呼び方やめてあげたら…? 本人毎回すっごく微妙な顔してるじゃん。嫌って言わないだけで」
「沈黙は受け入れたと受け取るわ」
「もーう…」
最近は会っていない、紅緋の髪を持つ彼。あまり笑わず口数も少なく、見た目の割にはおとなびている。真面目で仕事も早い。
美百合も仕事に対する姿勢は真面目だが他では気が抜けているところがある。特に何をするでもなくこうしてテラスに出て空を見上げたり、ソファに寝転んでうとうとしたり。
街へ出ればスマホ片手にポケットに手をつっこんでいる若者をよく見るが、美百合は周りの景色を見ているだけのことが多い。もちろん彼女もスマホを持ってるが必要以上に触っているところを見たことがなかった。電話には出てくれる。
「美百合、今日は午後からオフだしご飯でも食べに行かない? 気になってるハンバーガー屋さんがあるんだけど」
「いいわよ。大方、相田光守がロケで行ったとかでしょ」
「なんで分かったの…なんにも言ってないのに」
「録画よ、録画。この間サラがいなくて退屈だから見てたの」
「あぁそう…」
自分からテレビを見ることなんてあるんだ…。摩睺羅伽と一緒に見ることはあるが自発的に見るところは見たことがなかった。
「それより行きましょうよ。私も気になってたしお腹が空いたわ」
「分かった分かった。久しぶりに車を出すかー」
2人して立ち上がって椅子を戻し、太陽の眩しさに目を細めた。日が一番高い所まで登っている。ちょうどお昼時だ。
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