たとえこの恋が世界を滅ぼしても2

堂宮ツキ乃

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5章

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 やまめと夜叉の交遊は地味に続いており、たまに一緒に帰ることもある。

 やまめもバスで高城駅から電車で帰る組だが、その日は夜叉と高城を回りたいと2人で歩いていた。

「ねぇ、やまめちゃんって神崎先生と付き合ってるの?」

「ファッ!?」

 何気なく聞いた夜叉にやまめは飛び上がり両手を顔の前でブンブンと振った。

「なわけないし! どっからそんな発想になるの!?」

「やっぱり2人って仲いいなーて。そのうち神崎先生の隠れファンから体育館裏にワンチャン呼ばれるんじゃ…」

「そういうのやめて!」

 夜叉は”あっはっは”と乾いた笑い声でさして気に留めておらず、やまめに胸倉を掴まれて泣きつかれたがへらへらとした表情で顔をそらした。

「あの人のファン本当にいるからね!? たまに廊下であの人と話してる時とか職員室で仕事手伝ってる時に視線を感じるときあるもん! 大抵そこに女子生徒いるもん!」

「はいはい…てか、ふーん。あの人って呼ぶんだ」

「え? うん、まぁ…」

「なんだか特別を感じる」

「なんで?」

「名前を呼ぶのが恥ずかしい、みたいなにおいがぷんぷんする」

「もうっやーちゃんおちょくりすぎ!」

 2人は(というより主にやまめが)ギャーギャー騒ぎながら広い遊歩道に出ると、他校の高校生や中学生の姿が現れ始めた。同じように学校帰りなんだろう。お揃いのジャージ姿の複数人で走っている学生はおそらく部活。そういえばあのジャージは阿修羅と走っている時にも見るな、と夜叉は彼らが走り去るのを眺めた。

「俺の高校になんか用?」

「え?」

 聞きなれない声にやまめと振り向くと、見慣れない男子高校生が立っていた。

「やまめちゃんの知り合い?」

「ううん。やーちゃんも違うの?」

「知らない人」

 お互いに顔に?を描くと男子が首を傾けて人の好さそうな笑顔を浮かべた。

「僕はかなで高校のモンなんだけど…君かい? 藍栄の守護神の仲間ってのは」

 藍栄の守護神。その通り名を持つのは結城しかいない。彼女と響高校に乗り込んだことのある夜叉と、彼女の存在をあわよくば小説のネタにしたいと目論んでいるやまめは顔を合わせて顔に緊張感を走らせた。

 結城を話題にするなんてまさかこの男も喧嘩屋────? やまめは夜叉の後ろに回り込んで身を硬くし、背中越しに不安げな視線を送った。

「何か用?」

 硬い表情でやまめの前で手を広げた夜叉は目を細めて臨戦態勢に入った。久しぶりのこの感覚。きっと舞花も姿を見せずとも構えていてくれるはず。

 男子は手を叩いて軽く笑い、制服のズボンのポケットに手を突っ込んだ。

「やめてよ、ケンカ吹っ掛けてるとかじゃないんだから。噂のお仲間さんによく特徴が似ていたから…へぇ、噂以上に美人なんだね」

「それはどうも…」

 ただの興味本位らしい。夜叉は体の力を抜いて息をついた。ムダに殺気を放った自分が恥ずかしい。

「ところで君たちは藍栄の三大美人の伝説って知ってる?」

「そりゃまぁ在校生だから知ってるけど…それが何か?」

「三大美人の祝福を受けた男子生徒に奇跡が起きるって、具体的になんなのか気になってるんだ」

「あ! それ私も知りたい!」

 背中から飛び出したやまめが手を挙げた。夜叉は2人の様子を交互に見て首を振った。

「残念ながら私も知らない…ここ数年では誰も祝福を受けてないらしい。やまめちゃん、今度神崎先生に聞いておいてよ」

「はぁなんで!? 気になるならやーちゃんが聞けばいいじゃん!」

「そこはやっぱり仲いいやまめちゃんが行かなきゃ。神崎先生ってそこそこ古参者ぽいし」

 真っ赤な顔のやまめと、しれっとした顔でからかいがちな夜叉をにこにこと見つめるセンターの男は”ありがとう”と言ってあごに手をやって興味深そうにやまめにほほえみかけた。

「君おもしろいね…。やまめさんって言うんだ」

「そうですけど…」

「俺は奏高校の住吉すみよし。君とはまた会うかもしれないね」

 住吉と名乗った男は片手を振って踵を返した。

 夜叉とやまめはそれを見送ってから顔を見合わせる。

「何だったんだろうね、今の」

「さぁ…。他校の人も三大美人のことを知ってるんだね」

「うん。やまめちゃんにも興味があるみたいだったけど」

「そうかぁ?」

「だって名前を確認していたじゃない」

 何はともあれ喧嘩屋相手じゃなくてよかった。花の香りが漂い、夜叉はやまめに気づかれない程度のほほえみを浮かべた。

 その後2人は歩き続けてファミレスに入り、デザートとドリンクバーをお供に話に花を咲かせて暗くなる前に解散した。
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