たとえこの恋が世界を滅ぼしても2

堂宮ツキ乃

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5章

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 奏高校は高城市に位置する高校のひとつ。喧嘩屋はいないがはみだし者ならちらほら。2年生である住吉もその1人で、藍栄の守護神とはいつか手合わせしたいと思っていた。かと言って彼はケンカが強いというわけではない。ただ一度、暴れてみたいだけ。

 藍栄の守護神の仲間と言われている片目の女子高生は美人だったが、凶暴さや喧嘩屋の迫力は感じられなかった。

「影内朝来が本気になった女子高生か~」

 住吉はバカでかいとも言える独り言にくすりと笑った。

 留年して今年も3年生の影内が夜叉にぞっこんではないのかという噂も有名だ。あの男を堕としたくらいだから実は力を秘めているのだろう。あの長い手足が繰り出す技は確かに勢いがありそうだ。

 それよりも今回興味を持ったのはやまめという女子高生。夜叉に比べたら存在感は劣るが、教師の話題を振られた時の彼女の言動が気になった。明らかな動揺ぶりはまるでその教師と付き合っているかのような。

(ちょっとおもしろそう…また会えるといいな)

 女子高生と教師の恋愛はワンチャンありえる。住吉の高校でも過去にそういった事例があるのは有名だ。




 夜叉が自宅に着くと夕飯は既にテーブルに並べられていた。エプロン姿の和馬がサラダのボウルを持って夜叉を出迎えた。

「おかえり、さくら」

「ただいま」

 荷物を自室に置いて部屋着に着替え、リビングで和馬と2人して手を合わせた。

「翠河さんと仲良くなったんだ。よかったね」

「うん。あのコはおもしろい。神崎先生のこととなるとえらく」

「今でもそうなんだ。神崎先生が絡むと翠河さんって可愛くなるよね」

 1年生の時は他クラスの生徒のことなんて興味無かったのだと思い知った。だから今年から新しくクラスメイトになった生徒の顔は分かっても名前は知らなかった。

 夜叉がハンバーグをつつくとほどよい肉汁が流れ出て来た。時々サラダや白米を挟みながら和馬の手作りハンバーグを味わう。和馬が将来結婚するなら婿ではなくいい嫁になりそうだ。

「そういえばさくら、今度の日曜日に早瀬君が富橋駅で路上ライブをやるから来ない? だって」

「お、いいね。行こ行こ。彦瀬たちも誘おうかな」

「ぜひ大勢で来てって言われてるから早瀬君も喜ぶと思うよ」

 以前から昴のバンドの存在は知っていたしライブも見に来てと言われていた。いつも学校に白いギターケースを背負って登校してくる彼にはやはりファンが大勢おり、SNSのフォロワー数も高校生にしては多い。

「阿修羅も誘えば来るかな…何が好きなのかよく分からないんだよね…」

「よく一緒にいるさくらでも? イメージだけどゆめかわいいもの好きそうだね」

「まぁ見た目は可愛いからね…」

「ん? あぁ、中身は凛としててかっこいいよね」

「そゆこと…」

 今日は私生活が謎の阿修羅と夕方のランニングはしなかったが夜はまた跳躍の練習がある。その後の空腹はなかなかつらい。やっぱり成長期だから動いたらお腹が空くもの体ができているのだろうか。

 練習後にコンビニに立ち寄りたい欲が湧き上がってくるが格好と年齢で憚られる。なんせ派手な和服にブーツ、しかも日付を越えた真夜中だ。お腹を鳴らしながらこっそりとベランダから帰宅してベッドに入り、朝ごはんをガッツリ食べるのが練習を始めた最近の日課。

 不思議なことに夜中にどんだけ暴れ回って睡眠時間が以前より短くなっても、朝起きるのがつらくなったり昼間に睡魔に襲われることはなかった。中学生の頃はよく朝起きるのを渋っては母親の愛瑠あいるにフライパンとフライ返しの騒音で起こされたものだ。昼間の授業中もうつらうつらとしながらよだれを垂らしそうになっては先生につつかれていた。

 いつの間にか食べ終えていた和馬はおかわりのご飯を茶碗によそって座り直した。

「とりあえず俺は鹿島かしま君と香取かとりさんを誘おうかな。富橋はよく行くみたいで好きなんだって」

 道連れ仲間がたくさんできそうだ。富橋に帰るのは春休み以来だし友人と遊びに行くということも少ないので週末にいい楽しみができた。夜叉は止まっていた箸を再び動かして夕飯を食べ進めた。
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