20 / 30
5章
4
しおりを挟む
この日、夜叉のクラスでは化学の授業があった。担当は小野寺だ。
授業が終わってからバラバラと生徒が教室に戻っていく中、白衣姿で片付けをしている小野寺に夜叉は声をかけた。
「先生の奥さんって三大美人だったんですか?」
「カオのこと?」
小野寺の表情がただの夫になった。カオというのは小野寺の奥さんでもあり教え子。校内でも有名な話だ。
彼は気恥ずかしそうにわざとらしい咳払いをして首を振った。
「ううん。ウチの奥さんは違うよ」
「そうですか…ちなみにどう選ばれるとかは知ってますか? 職員会議とか開いてるんですか?」
「どうだろう? ちょっと分からないな…」
困った笑顔を浮かべた彼に”変なことを聞いてすみません”とだけ会釈をして化学室を出た。
やまめにはあぁ言ったが自分でも調べようとは思っていたので、わりと話しかけやすい小野寺を選んだ。
この学校で教鞭をふるって10年近く経つ彼でも三大美人については謎なのか。ますます気になってくる。
教室に戻ると彦瀬と瑞恵が机の上に次の授業の準備をして談笑していたが、夜叉に気づくと彼女の机に寄ってきた。
「やーちゃーん。遅かったねぇ」
「あ、まぁね」
夜叉は椅子に腰かけつつ机から教科書やノートを引っ張り出しながら答え、彦瀬が身を乗り出して話すのを聞いた。
「さっき廊下で聞こえたんだけど、早瀬君のバンドが今度路上ライブやるんだって。すごいねー」
「それなんだけど一緒に行かない? 和馬経由で誘われたんだ」
「おー行きたい! 実は行ってみたいとは思ってたんだよね」
「じゃあ決まりね。阿修羅もせっかく誘われたなら、って行くことにしたし皆で遊ぼ。なんならカラオケも行こうよ」
そして週末。高城駅から向かうメンバーが揃って電車に乗った。
休日ということもあり全員が私服姿。中でも目を引いたのが神七のゴシックを感じさせるワンピース。ゴスロリとは言い切れないが派手な可愛さを持った服だ。
阿修羅の私服も負けておらず、花柄をあしらったワンピースに毛先を巻いたおさげ姿は制服とはまた違う清楚さを醸し出している。
さすが男の娘…。休日でも可愛いもので固めている。誰も阿修羅が実は男子じゃないか、なんて疑わないわけだ。夜叉はひとりでうなずいた。
ガヤガヤと富橋駅に到着すると彦瀬も瑞恵もすでに改札の外で待っていた。
「皆おはよう!」
「おはよう、彦瀬にみーちゃん。やっぱり富橋駅は人多いね…」
「この辺だとそこそこ大きい駅だからね。もちろん人は集まるよ」
まだ早瀬のライブまでは時間があるからと、お昼まで少し早いがハンバーガーショップに入った。
中学生まで富橋に住んでいたから富橋駅にはよく遊びに来たし、この店にも友人と何回も訪れた。今日も当時からお気に入りのえびカツのバーガーを頼んでアイスティーと一緒に食べた。時々和馬から大盛りのポテトをつまみながら。
「もうっ、さくらも頼めばよかったじゃん」
「数本食べれば満足だから。一口あげるから許して」
夜叉が自分のバーガーを和馬の目の前に差し出すと彼は仕方なく笑いながらかぶりついた。あまりにも自然な恋人のような流れの動きに一同は固まって眺めていた。
「ん、何?」
和馬と、彼のバーガーにかぶりついた夜叉は目をパチクリして首をかしげた。若干顔を赤くした鹿島は落としそうになったコーラを持ち直して2人のことを指さした。
「2人は付き合っているの…? 禁断の愛?」
「は?」
「仲良すぎない? って思って…ねぇ?」
「だからって禁断の愛はないでしょうよ。これくらい普通にあるよ、姉弟なんだからさ」
夜叉と和馬は顔を見合わせて同時に首をかしげた。
授業が終わってからバラバラと生徒が教室に戻っていく中、白衣姿で片付けをしている小野寺に夜叉は声をかけた。
「先生の奥さんって三大美人だったんですか?」
「カオのこと?」
小野寺の表情がただの夫になった。カオというのは小野寺の奥さんでもあり教え子。校内でも有名な話だ。
彼は気恥ずかしそうにわざとらしい咳払いをして首を振った。
「ううん。ウチの奥さんは違うよ」
「そうですか…ちなみにどう選ばれるとかは知ってますか? 職員会議とか開いてるんですか?」
「どうだろう? ちょっと分からないな…」
困った笑顔を浮かべた彼に”変なことを聞いてすみません”とだけ会釈をして化学室を出た。
やまめにはあぁ言ったが自分でも調べようとは思っていたので、わりと話しかけやすい小野寺を選んだ。
この学校で教鞭をふるって10年近く経つ彼でも三大美人については謎なのか。ますます気になってくる。
教室に戻ると彦瀬と瑞恵が机の上に次の授業の準備をして談笑していたが、夜叉に気づくと彼女の机に寄ってきた。
「やーちゃーん。遅かったねぇ」
「あ、まぁね」
夜叉は椅子に腰かけつつ机から教科書やノートを引っ張り出しながら答え、彦瀬が身を乗り出して話すのを聞いた。
「さっき廊下で聞こえたんだけど、早瀬君のバンドが今度路上ライブやるんだって。すごいねー」
「それなんだけど一緒に行かない? 和馬経由で誘われたんだ」
「おー行きたい! 実は行ってみたいとは思ってたんだよね」
「じゃあ決まりね。阿修羅もせっかく誘われたなら、って行くことにしたし皆で遊ぼ。なんならカラオケも行こうよ」
そして週末。高城駅から向かうメンバーが揃って電車に乗った。
休日ということもあり全員が私服姿。中でも目を引いたのが神七のゴシックを感じさせるワンピース。ゴスロリとは言い切れないが派手な可愛さを持った服だ。
阿修羅の私服も負けておらず、花柄をあしらったワンピースに毛先を巻いたおさげ姿は制服とはまた違う清楚さを醸し出している。
さすが男の娘…。休日でも可愛いもので固めている。誰も阿修羅が実は男子じゃないか、なんて疑わないわけだ。夜叉はひとりでうなずいた。
ガヤガヤと富橋駅に到着すると彦瀬も瑞恵もすでに改札の外で待っていた。
「皆おはよう!」
「おはよう、彦瀬にみーちゃん。やっぱり富橋駅は人多いね…」
「この辺だとそこそこ大きい駅だからね。もちろん人は集まるよ」
まだ早瀬のライブまでは時間があるからと、お昼まで少し早いがハンバーガーショップに入った。
中学生まで富橋に住んでいたから富橋駅にはよく遊びに来たし、この店にも友人と何回も訪れた。今日も当時からお気に入りのえびカツのバーガーを頼んでアイスティーと一緒に食べた。時々和馬から大盛りのポテトをつまみながら。
「もうっ、さくらも頼めばよかったじゃん」
「数本食べれば満足だから。一口あげるから許して」
夜叉が自分のバーガーを和馬の目の前に差し出すと彼は仕方なく笑いながらかぶりついた。あまりにも自然な恋人のような流れの動きに一同は固まって眺めていた。
「ん、何?」
和馬と、彼のバーガーにかぶりついた夜叉は目をパチクリして首をかしげた。若干顔を赤くした鹿島は落としそうになったコーラを持ち直して2人のことを指さした。
「2人は付き合っているの…? 禁断の愛?」
「は?」
「仲良すぎない? って思って…ねぇ?」
「だからって禁断の愛はないでしょうよ。これくらい普通にあるよ、姉弟なんだからさ」
夜叉と和馬は顔を見合わせて同時に首をかしげた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる