たとえこの恋が世界を滅ぼしても2

堂宮ツキ乃

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6章

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 その日の帰り、授業後のランニング前に阿修羅に誘われてお茶をした。その場には毘沙門天と鬼子母神とハニーの姿も。もっとも、ハニーは夜叉にお尻をくっつけておとなしく座っていたが。

「先日、青龍様から夜叉ちゃんの初めての仕事が下されたわ」

「え、仕事…」

 アメリカ生活が長かった鬼子母神にしては珍しく日本茶とせんべいを出され、それをぼりぼりとやっていたら真面目な話になった。

 正直バイトさえやったことのない高校生だ。やろうと思ったこともない。それなのにここで仕事デビューか…と夜叉は頭半分で他人事のように聞いていた。それを察したのか舞花に煙管で”これ”と小突かれたが。

「あなたも跳躍訓練で着々と力をつけてきているし申し分ないと思う。ここいらで実力テストってところかしら」

「実力テスト…。何をやればいいんですか。レジ打ち?」

「よくある高校生のバイトじゃないよ…。君は時々変なことを言うね」

 毘沙門天に苦笑いされたところで本題に入ると、内容はまさに今日の授業中にも話題になったことだった。夜叉はどちらかというとその話題よりもやまめと神崎の絡みをおもしろがっていたのだが。

「ゴールド・シュラインとは一体何者なのでしょう? 愉快犯でしょうか」

「さぁ。ただ人間には手を追えなくて私たちが捜査にあたることになったから、きっとただ者ではないんでしょうね。彼だか彼女の目的も分からないし」

 未だに彼らの言葉はただの御伽噺で現実味がないと感じることがあるが今日もそれだった。夜叉は食べかけのせんべいを持ったままポカーンとしそうなのをこらえ、目の前で起きていることは現実だと時分に言い聞かせた。

「ゴールド・シュライン…金色の神社ですかね? 神社関係者の怪盗?」

「それだったら骨董品を狙うのもなんとなく分かりますね」

「夜叉ちゃん冴えてるわね~。これなら初仕事も心配ないわね。阿修羅がついてるから安心して行ってらっしゃい」

「とりまがんばります…」

 戯人族としての初仕事は怪盗を追っかけること。目的を聞き出し奪われた骨董品を取り戻す。

 夜叉は阿修羅からもらった小さなメモに怪盗の見た目や手口、狙う場所の特徴を全て書き込んだ。これも戯人族の能力なのか最近は人の話を一字一句聞き逃すことなく文字にすることができるようになった。授業中に船を漕いで”ノート写させて!”と泣きついた彦瀬や、ノートチェックを行うと言って集めた教科担任には驚かれた。授業内容を録音して後から再生して一時停止しつつ書き写したのではないかと疑われた。

「怪盗は足が速いんですね。お金持ちの家とか美術館の警備員に追いつかれることもなく逃げちゃうのか…」

「見た目年齢は20代近く。監視カメラは怪盗が映る前に破壊されて警備員しか目撃者がいないから、画像や映像として記録は残っていない」

「予告状は出さないわ。狙うのは名のある骨董品を持っていると公言している家や美術館。高城に突然現れて次は高城博物館じゃないかと言われている。ただあそこには来ない気がするのよね…」

「なんで? 女の勘か」

「半分はそれだけど」

 濁らせた表情で立ち上がった鬼子母神はキッチンから透明なガラスポットを持って来て、夜叉の湯飲みにお茶を注いだ。

「あそこにあるのって本当に郷土の出土品や文献資料ばかりじゃない。骨董品っていうよりは地域の歴史を知るための展示資料でしょ」

「確かに怪盗が狙うのはいつも名のある品ばかりだったな…」

 隣で毘沙門天が立ち上がり、自室からノートパソコンを持って来て開いた。その両隣から阿修羅と夜叉がのぞきこんだ。

 例の怪盗のことを検索すると有名なニュース記事では取り扱われていなかったが、SNSでの投稿や個人のブログ、掲示板で大きく騒がれていた。これは阿修羅が高城に出没してSNSで動画が拡散された時と似ている。

「現実味がなくてどこも取り扱わないのかな…。ニュース番組がおもしろがって取り上げそうな気もするんだけどね」

「ですよねー。バズってる動画のリプ欄にたまにテレビ局のアカウントがいますもん。画像も動画もないから真実味がなくてスルーしてんのかな」

 怪盗について考察している人もいたがどれもおもしろ半分で書き上げたものばかり。古物オタクだとか古物商がコレクションとして収取しているのだともっともらしく、意気揚々と語っていた。

「夜叉ちゃん的に思うところがあるなら探してごらん。何かしら見つかることはあるかもしれない」

「そうですか…とりあえずやってみます」

 夜叉はじっと見つめる阿修羅とうなずき合って、とりあえず今日はこれで走りに行くかと準備を始めた。
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