たとえこの恋が世界を滅ぼしても2

堂宮ツキ乃

文字の大きさ
25 / 30
6章

しおりを挟む
「さくらが博物館に行きたいなんて珍しいね」

「たまにはねー。これも勉強だよ」

 初仕事を任命された日の週末、夜叉は阿修羅と和馬と共に例の高城博物館に訪れた。学生証を見せれば入館料は無料ということで忘れずに持ってきた。

 来館者はさほど多くはなく、他人が視界に映りこむことなく展示物をじっくりと観察できるくらいの空き具合だった。

 和馬は1人だけ大きなリュックを背負っており、中にはこの日のお弁当が入ってる。もちろん和馬お手製。見学し終わった後に3人で食べようと朝から用意したものだ。夜叉も少しだけ手伝った。

「縄文時代から現代まで、この地で見つかった物が多く展示されているのですね…」

「こっちに引っ越してきてから2年目だけど初めて来た。こんなに広いんだねぇ」

 身軽なポシェットや小さなハンドバッグの阿修羅と夜叉は、郷土資料が展示されたガラスケースに近づいてはじっくり眺めていた。

「鬼子母神さんの言った通り、あんまり高価そうなものは見当たらないね…」

「えぇ」

 その後も阿修羅と並んで展示品とにらめっこしたが特に何も思い当たらず。

 途中から夜叉は飽きたのか展示品を立ち止まって見ることはせず、比較的サクサクと歩き進めて流し見しながら現代のゾーンに突入した。

 その当時流行ったおもちゃや文房具、携帯電話や機械。どれも夜叉たちが懐かしいと思える物ばかりだった。

 壁には大きな年表があり、時代の動きが分かるような新聞記事や写真がパネルとなって掲示されている。

「こんなこともあったかねー。まだこれ小学生の時じゃない?」

「本当だ。クラスでこの話をしていた気がする」

「真似しすぎて禁止令も出たよね」

「あっはは、あったあった! 小学生の時って流行りすぎて授業中にもやるから禁止とかよくあったなー。下ネタを売りにしてる芸人のモノマネなんてご法度だった」

「和馬はそういうのやらないタイプでしょ」

「そうなんだけどさ…そん時大人数でじゃんけんして、一番最初に負けた人が一番最後に勝った人にモノマネをさせるっていうゲームがクラスで流行っててさ…。俺もそれで遊んでて下ネタと受け取れる言葉の羅列を弾き語る芸人をやらされた」

「ぶはっ…!」

 思った以上に大きな笑い声が出そうになり、夜叉は吹き出した口元を押さえた。このゾーンには夜叉たちしかいないが、来館者が少ないため静かな展示室に響きそうだった。腰を折って小刻みに肩を震わせると、和馬は照れたように口を尖らせた。

「…そんなに笑わなくても」

「…ふふっ。漢気おとこぎじゃんけんって流行ってたなと思って。そーかそーか、和馬もあれの餌食になっていたか!」

「なんでそんなに楽しそうにしているの…俺がやってから一斉にクラスで流行って先生に怒られたんだからね? めちゃくちゃ理不尽だよ…」

 2人で話している間も阿修羅は展示物を眺め、時々夜叉と和馬が話している姿を羨望の眼差しで眺めていた。




 博物館の敷地内には広い公園があり、散歩をしたりランニングをしている人が行き交っている。

 3人は芝が植えられた木陰にシートを敷いた。和馬がリュックから取り出したのはおにぎりや卵焼きやウインナーなど、定番のおかずがそれぞれ詰め込まれたタッパーとサラダが小分けされた小さなタッパーだ。

「ちゃんと紙皿と割りばしもあるよ。あとウェットティッシュね」

「恐れ入ります」

 夜叉がそれぞれ配ると3人で手を合わせて弁当をつつき始めた。

 展示品や刑事されたものを眺めて読んで頭を使ったせいか、いつもの昼休憩より早い時間ではあるがお腹が空いた。最初の10分くらいは全員無言でパクパクと食べ進めていたが、やがて少しずつお腹が満たされると話す余裕ができてきた。

「おいしいです。やはり料理が上手なのですね」

「えへへ…ありがとう」

「確かに今日のミニハンバーグはかなりおいしいね。いつも以上にがんばったな?」

「そりゃそうでしょ! 夜叉だけならともかく人様が召し上がる時は普段よりも気を遣わないと」

「正しいこと言ってるけど若干腹立つ」

 夜叉はムッとした表情で和馬の脇腹をつついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら

普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。 そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...