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6章
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「さくらが博物館に行きたいなんて珍しいね」
「たまにはねー。これも勉強だよ」
初仕事を任命された日の週末、夜叉は阿修羅と和馬と共に例の高城博物館に訪れた。学生証を見せれば入館料は無料ということで忘れずに持ってきた。
来館者はさほど多くはなく、他人が視界に映りこむことなく展示物をじっくりと観察できるくらいの空き具合だった。
和馬は1人だけ大きなリュックを背負っており、中にはこの日のお弁当が入ってる。もちろん和馬お手製。見学し終わった後に3人で食べようと朝から用意したものだ。夜叉も少しだけ手伝った。
「縄文時代から現代まで、この地で見つかった物が多く展示されているのですね…」
「こっちに引っ越してきてから2年目だけど初めて来た。こんなに広いんだねぇ」
身軽なポシェットや小さなハンドバッグの阿修羅と夜叉は、郷土資料が展示されたガラスケースに近づいてはじっくり眺めていた。
「鬼子母神さんの言った通り、あんまり高価そうなものは見当たらないね…」
「えぇ」
その後も阿修羅と並んで展示品とにらめっこしたが特に何も思い当たらず。
途中から夜叉は飽きたのか展示品を立ち止まって見ることはせず、比較的サクサクと歩き進めて流し見しながら現代のゾーンに突入した。
その当時流行ったおもちゃや文房具、携帯電話や機械。どれも夜叉たちが懐かしいと思える物ばかりだった。
壁には大きな年表があり、時代の動きが分かるような新聞記事や写真がパネルとなって掲示されている。
「こんなこともあったかねー。まだこれ小学生の時じゃない?」
「本当だ。クラスでこの話をしていた気がする」
「真似しすぎて禁止令も出たよね」
「あっはは、あったあった! 小学生の時って流行りすぎて授業中にもやるから禁止とかよくあったなー。下ネタを売りにしてる芸人のモノマネなんてご法度だった」
「和馬はそういうのやらないタイプでしょ」
「そうなんだけどさ…そん時大人数でじゃんけんして、一番最初に負けた人が一番最後に勝った人にモノマネをさせるっていうゲームがクラスで流行っててさ…。俺もそれで遊んでて下ネタと受け取れる言葉の羅列を弾き語る芸人をやらされた」
「ぶはっ…!」
思った以上に大きな笑い声が出そうになり、夜叉は吹き出した口元を押さえた。このゾーンには夜叉たちしかいないが、来館者が少ないため静かな展示室に響きそうだった。腰を折って小刻みに肩を震わせると、和馬は照れたように口を尖らせた。
「…そんなに笑わなくても」
「…ふふっ。漢気じゃんけんって流行ってたなと思って。そーかそーか、和馬もあれの餌食になっていたか!」
「なんでそんなに楽しそうにしているの…俺がやってから一斉にクラスで流行って先生に怒られたんだからね? めちゃくちゃ理不尽だよ…」
2人で話している間も阿修羅は展示物を眺め、時々夜叉と和馬が話している姿を羨望の眼差しで眺めていた。
博物館の敷地内には広い公園があり、散歩をしたりランニングをしている人が行き交っている。
3人は芝が植えられた木陰にシートを敷いた。和馬がリュックから取り出したのはおにぎりや卵焼きやウインナーなど、定番のおかずがそれぞれ詰め込まれたタッパーとサラダが小分けされた小さなタッパーだ。
「ちゃんと紙皿と割りばしもあるよ。あとウェットティッシュね」
「恐れ入ります」
夜叉がそれぞれ配ると3人で手を合わせて弁当をつつき始めた。
展示品や刑事されたものを眺めて読んで頭を使ったせいか、いつもの昼休憩より早い時間ではあるがお腹が空いた。最初の10分くらいは全員無言でパクパクと食べ進めていたが、やがて少しずつお腹が満たされると話す余裕ができてきた。
「おいしいです。やはり料理が上手なのですね」
「えへへ…ありがとう」
「確かに今日のミニハンバーグはかなりおいしいね。いつも以上にがんばったな?」
「そりゃそうでしょ! 夜叉だけならともかく人様が召し上がる時は普段よりも気を遣わないと」
「正しいこと言ってるけど若干腹立つ」
夜叉はムッとした表情で和馬の脇腹をつついた。
「たまにはねー。これも勉強だよ」
初仕事を任命された日の週末、夜叉は阿修羅と和馬と共に例の高城博物館に訪れた。学生証を見せれば入館料は無料ということで忘れずに持ってきた。
来館者はさほど多くはなく、他人が視界に映りこむことなく展示物をじっくりと観察できるくらいの空き具合だった。
和馬は1人だけ大きなリュックを背負っており、中にはこの日のお弁当が入ってる。もちろん和馬お手製。見学し終わった後に3人で食べようと朝から用意したものだ。夜叉も少しだけ手伝った。
「縄文時代から現代まで、この地で見つかった物が多く展示されているのですね…」
「こっちに引っ越してきてから2年目だけど初めて来た。こんなに広いんだねぇ」
身軽なポシェットや小さなハンドバッグの阿修羅と夜叉は、郷土資料が展示されたガラスケースに近づいてはじっくり眺めていた。
「鬼子母神さんの言った通り、あんまり高価そうなものは見当たらないね…」
「えぇ」
その後も阿修羅と並んで展示品とにらめっこしたが特に何も思い当たらず。
途中から夜叉は飽きたのか展示品を立ち止まって見ることはせず、比較的サクサクと歩き進めて流し見しながら現代のゾーンに突入した。
その当時流行ったおもちゃや文房具、携帯電話や機械。どれも夜叉たちが懐かしいと思える物ばかりだった。
壁には大きな年表があり、時代の動きが分かるような新聞記事や写真がパネルとなって掲示されている。
「こんなこともあったかねー。まだこれ小学生の時じゃない?」
「本当だ。クラスでこの話をしていた気がする」
「真似しすぎて禁止令も出たよね」
「あっはは、あったあった! 小学生の時って流行りすぎて授業中にもやるから禁止とかよくあったなー。下ネタを売りにしてる芸人のモノマネなんてご法度だった」
「和馬はそういうのやらないタイプでしょ」
「そうなんだけどさ…そん時大人数でじゃんけんして、一番最初に負けた人が一番最後に勝った人にモノマネをさせるっていうゲームがクラスで流行っててさ…。俺もそれで遊んでて下ネタと受け取れる言葉の羅列を弾き語る芸人をやらされた」
「ぶはっ…!」
思った以上に大きな笑い声が出そうになり、夜叉は吹き出した口元を押さえた。このゾーンには夜叉たちしかいないが、来館者が少ないため静かな展示室に響きそうだった。腰を折って小刻みに肩を震わせると、和馬は照れたように口を尖らせた。
「…そんなに笑わなくても」
「…ふふっ。漢気じゃんけんって流行ってたなと思って。そーかそーか、和馬もあれの餌食になっていたか!」
「なんでそんなに楽しそうにしているの…俺がやってから一斉にクラスで流行って先生に怒られたんだからね? めちゃくちゃ理不尽だよ…」
2人で話している間も阿修羅は展示物を眺め、時々夜叉と和馬が話している姿を羨望の眼差しで眺めていた。
博物館の敷地内には広い公園があり、散歩をしたりランニングをしている人が行き交っている。
3人は芝が植えられた木陰にシートを敷いた。和馬がリュックから取り出したのはおにぎりや卵焼きやウインナーなど、定番のおかずがそれぞれ詰め込まれたタッパーとサラダが小分けされた小さなタッパーだ。
「ちゃんと紙皿と割りばしもあるよ。あとウェットティッシュね」
「恐れ入ります」
夜叉がそれぞれ配ると3人で手を合わせて弁当をつつき始めた。
展示品や刑事されたものを眺めて読んで頭を使ったせいか、いつもの昼休憩より早い時間ではあるがお腹が空いた。最初の10分くらいは全員無言でパクパクと食べ進めていたが、やがて少しずつお腹が満たされると話す余裕ができてきた。
「おいしいです。やはり料理が上手なのですね」
「えへへ…ありがとう」
「確かに今日のミニハンバーグはかなりおいしいね。いつも以上にがんばったな?」
「そりゃそうでしょ! 夜叉だけならともかく人様が召し上がる時は普段よりも気を遣わないと」
「正しいこと言ってるけど若干腹立つ」
夜叉はムッとした表情で和馬の脇腹をつついた。
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