たとえこの恋が世界を滅ぼしても2

堂宮ツキ乃

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7章

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 結局怪盗の正体は分からず、夜叉の初仕事は失敗に終わった。

 あの後2人が(正確には阿修羅が夜叉を抱えて)派手な音がした現場に向かったが時すでに遅く、監視カメラは壊され展示品は盗まれた後だった。盗まれたのは和馬に見せてもらったブログの通り、舟の絵の壺。ガラスケースは割られて床に破片が飛び散り、気づかずに近づいてブーツで踏んでしまった。

 情報収集したまではよかったが盗まれてしまったのなら意味がない。阿修羅や鬼子母神たちが「初めてなんだから気にすることはない」と励ましていたがしばらくの夜叉は落ち込んでいた。

 あの時だだをこねずに阿修羅にくっついたままでも、例の壺がある展示室へ行くべきだった。もしかしたら怪盗と鉢合わせしたり、現れる前に壺の前で立ちはだかって盗みを阻止できたかもしれないのに。

 あれから怪盗が現れることも話題になることもなくなった。高城からは撤退したのかもしれない。だとしたらこれ以上はもう調査のしようがない。

「桜木姉、名前書き忘れてたぞ」

「あ…」

 国語の小テストを返された時、神崎に渡されたのは満点ではあるけど記名が無い解答用紙。”いつもちゃんとやってるから今回は許す。今度からは気をつけろよ。定期テストだったら点数はやれないから”と神崎から慈悲をもらったが浮かない顔で会釈することしかできなかった。




「あのコに仕事を与え始めたって本当?」

「はい。つい先日から」

 戯人族の。青龍の部屋には珍しい客が来ていた。

 短いチャイナドレスの少女が2人の前にお茶の入った、青地に赤や白で細かく花が描かれた茶椀を置いた。少女は見慣れぬ客人である金髪碧眼の少女の姿をチラと見てからそそくさと部屋を出た。

「舞花さんは何も言わなかったの」

 青龍の守備範囲内に入りそうな少女もとい、立派な時の神様である運命さだめは白いコートを羽織っており、長いタイトスカートの足を組んだ。

「娘がやる気なら止めはしない、と」

「そう」

「あなたはつくづくあの親子を気にかけるね」

「神様としてお願いされたんだから当然でしょ」

 彼女は熱いお茶をすすった。眉間にしわを寄せているがわざと作っている。青龍はほほえんでしまいそうなのをこらえて同じく茶碗を持ち上げた。あの親子を見守ることに彼女は満更でもないんだろうな、と青龍は心の中でほほえんだ。

「夜叉ちゃんはやっぱり頭領の娘だ。初めての仕事はしくじったとは言え、これからは戯人族として成長していくと思うよ。近くには阿修羅たちが教育係として控えているし」

「英才教育ってとこかしら…」

「将来の大事な二代目朱雀族だからさ。もしかしたら夫婦でって可能性もあるけど…」

 話の途中で運ばれてきた中華風の揚げ菓子をつまみながら情報交換をした。途中で白虎が顔をのぞかせたり、青龍の部下が書類を持ってきたり終わった仕事を報告しに来た。

 お茶のおかわりをしたところで青龍は手を拭き、仏頂面をしていることが多い彼女の横顔を見つめた。10代半ばの年頃の見た目だが大人びており時に疲れているように見える時もある。

「今ではあなたのことを知ってる人間も少なくなったね。昔はたくさん祠があったのに」

 時の女神である運命は時に人間の願いを叶えてきた。今では死神と共に人間界に干渉して彼をサポートしていることが多い。時々彼女から戯人族に人間やそうでない者を斡旋されることもある。

 彼女は組んだ膝の上で手を組み、横向きで息を吐いた。

「災害や戦争があれば破壊されて無くなるわ。再生されることも無いし。宗教だって増えたんだから忘れ去られる神もいるわよ。あなたたちだってそうでしょう」

「そうだねぇ…人間界を時々回してはいるけど、今では正体を話さずに人間たちにとけ込んで仕事をするのか当たり前になったからね。このご時世で正体を明かしたからイタいヤツとして見られるかネットで晒されるかのどちらかだから」

「言えてる」
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