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7章
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話すことは話したし今日は帰ろうかと思い始めた運命だったが、引き止めるように青龍が話し始めた。
「ところで影内朝来のことについて伺いたいんだが」
「あいつ? 私もよく知りはしないわよ。私の村を襲ったことくらいしか」
「そうか」
「気になることでも? 正直あいつのことは死神もよく知らないわよ。邪悪さが良心を勝っていた時の魔王よりも厄介だし。あいつが私の周りを嗅ぎ回っていても勘づく自信はない」
運命が肩をすくめると、青龍は”やっぱりか”という困った顔で笑った。
「そもそもあいつのことに1番詳しいのはあなたたちでしょう。何を今さら」
「────ウチの一族とヤツが繋がっていたら」
「何よそれ。あなたが実は熟女好きなのを隠すためにロリコンを演じているって話より笑えないわよ」
「例えがえぐい…。ま、まぁ、証拠ならある」
彼は机の鍵がついた引き出しを開けてボロボロの紙を取り出した。朱雀の部屋で見つけた手紙だ。そっと運命に渡すと彼女は訝し気な表情でそれを受け取り、蛇腹折りのそれを打ち付けるように開いた。
瞳が上下に素早く動き、重要な箇所を読んで鬼の顔で青龍を睨みつけた。
「…よくもとんでもないことを黙っていてくれたわね」
「私もそれを見つけたのはつい最近だ。そもそもこれが真実だとは限らない」
「でも朱雀がしょうもない冗談をいちいち書いて残すようなことはしないでしょ。字が下手だから手紙を書くのは苦手で書き渋っていたじゃない」
彼女は不機嫌さを色濃くして手紙を机に置いた。青龍はその場から早く消し去りたいと言わんばかりに手紙を引き出しにしまって再び鍵をかけた。運命と向き合うと手を不自然な形に広げて首を傾けた。
「それもそうだが…その手紙を当時と照合すると合致する部分はある。調べ直したら新たに分かることがあるかもしれないし我々が端から間違っていたのかもしれない。再調査を部下に依頼したばかりだ」
「東京にいるあのコ?」
「いいや。鬼子母神と毘沙門天だ」
「あのバカップル…」
運命は鼻で笑った。元FBI勤めと公安勤めのカップル。よく長く続いているものだ。
「あの2人は優秀だから心強いわね」
「君があっさりと他人を褒めるのは珍しいな」
「何か?」
ふん、とあごを持ち上げると”あ、いや…”と青龍は体の前に両手を出して苦笑いをした。
「ところで紗良は元気かしら。もう長いこと会っていない気がするわ。無気力人間だったあのコは生きがいを見つけられたのかしら」
「楽しそうにやってるよ。芸能界の仕事は肌に合ってるみたいでね。」
「それを聞いて安心した。あのコは最推しと結ばれたとんでもシンデレラガールだし、きっと幸せにやってるわよね」
そう言ってほほえむ運命の顔は見た目年齢を越えた母親のような顔をして遠くを見つめていた。
初めて会った時はまだ紗良は人間で、とても死の宣告を受けた20代の女性だとは思えなかった。それを抜きにしても彼女には若さゆえのキラキラとしたものは感じられず、落ち着いているというよりは冷めた印象があった。
そんな彼女でも好きなアニメや芸能人がいて旅行が好きで、それに浸っている時はいかにも人生を謳歌しているように見えた。
生きることに執着がなく死ぬことに未練を感じない彼女だからこそ戯人族へ斡旋した。それを伝えたばかりの時は不満げではあったが今ではそんなことを忘れて生き生きとしているのかもしれない。
(あんたの初仕事は大成功だった…。内容が懐かしいわね。あのコのことだから赤子だった彼の様子を今でも見に行っているのかもしれないわね)
そろそろ死神のところに戻る、また何か分かったら呼んでとだけ残して彼女は戯人族の間を去った。
「ところで影内朝来のことについて伺いたいんだが」
「あいつ? 私もよく知りはしないわよ。私の村を襲ったことくらいしか」
「そうか」
「気になることでも? 正直あいつのことは死神もよく知らないわよ。邪悪さが良心を勝っていた時の魔王よりも厄介だし。あいつが私の周りを嗅ぎ回っていても勘づく自信はない」
運命が肩をすくめると、青龍は”やっぱりか”という困った顔で笑った。
「そもそもあいつのことに1番詳しいのはあなたたちでしょう。何を今さら」
「────ウチの一族とヤツが繋がっていたら」
「何よそれ。あなたが実は熟女好きなのを隠すためにロリコンを演じているって話より笑えないわよ」
「例えがえぐい…。ま、まぁ、証拠ならある」
彼は机の鍵がついた引き出しを開けてボロボロの紙を取り出した。朱雀の部屋で見つけた手紙だ。そっと運命に渡すと彼女は訝し気な表情でそれを受け取り、蛇腹折りのそれを打ち付けるように開いた。
瞳が上下に素早く動き、重要な箇所を読んで鬼の顔で青龍を睨みつけた。
「…よくもとんでもないことを黙っていてくれたわね」
「私もそれを見つけたのはつい最近だ。そもそもこれが真実だとは限らない」
「でも朱雀がしょうもない冗談をいちいち書いて残すようなことはしないでしょ。字が下手だから手紙を書くのは苦手で書き渋っていたじゃない」
彼女は不機嫌さを色濃くして手紙を机に置いた。青龍はその場から早く消し去りたいと言わんばかりに手紙を引き出しにしまって再び鍵をかけた。運命と向き合うと手を不自然な形に広げて首を傾けた。
「それもそうだが…その手紙を当時と照合すると合致する部分はある。調べ直したら新たに分かることがあるかもしれないし我々が端から間違っていたのかもしれない。再調査を部下に依頼したばかりだ」
「東京にいるあのコ?」
「いいや。鬼子母神と毘沙門天だ」
「あのバカップル…」
運命は鼻で笑った。元FBI勤めと公安勤めのカップル。よく長く続いているものだ。
「あの2人は優秀だから心強いわね」
「君があっさりと他人を褒めるのは珍しいな」
「何か?」
ふん、とあごを持ち上げると”あ、いや…”と青龍は体の前に両手を出して苦笑いをした。
「ところで紗良は元気かしら。もう長いこと会っていない気がするわ。無気力人間だったあのコは生きがいを見つけられたのかしら」
「楽しそうにやってるよ。芸能界の仕事は肌に合ってるみたいでね。」
「それを聞いて安心した。あのコは最推しと結ばれたとんでもシンデレラガールだし、きっと幸せにやってるわよね」
そう言ってほほえむ運命の顔は見た目年齢を越えた母親のような顔をして遠くを見つめていた。
初めて会った時はまだ紗良は人間で、とても死の宣告を受けた20代の女性だとは思えなかった。それを抜きにしても彼女には若さゆえのキラキラとしたものは感じられず、落ち着いているというよりは冷めた印象があった。
そんな彼女でも好きなアニメや芸能人がいて旅行が好きで、それに浸っている時はいかにも人生を謳歌しているように見えた。
生きることに執着がなく死ぬことに未練を感じない彼女だからこそ戯人族へ斡旋した。それを伝えたばかりの時は不満げではあったが今ではそんなことを忘れて生き生きとしているのかもしれない。
(あんたの初仕事は大成功だった…。内容が懐かしいわね。あのコのことだから赤子だった彼の様子を今でも見に行っているのかもしれないわね)
そろそろ死神のところに戻る、また何か分かったら呼んでとだけ残して彼女は戯人族の間を去った。
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