14 / 21
4章
4
しおりを挟む
自分しかいない和室で麓は布団を敷き、そこで横になってタオルケットをかけた。
お風呂掃除をしている寮長もそのうち帰ってくるだろう。彼女は仕事が早い。
「はぁ…」
1人になった瞬間にため息が出て、なぜか慌てて口元を手で押さえた。誰かに聞かれているワケでもないのに。
(扇さんって…?)
入浴中に考えていたことがまた頭に浮かんできた。
髪にキスされたり頬をつつかれたり。
あんなことをさりげなく、突然するというのはもしかして本当はごく普通の行動なのだろうか。ただ自分が何も知らないだけで。
(いや…ない、それはない)
麓は頭をふるふると振った。もしそうだったら凪があんなに怒ることはない。それに彼が扇のようなことをするなんて。
(…あった)
頭を押さえつつ、凪の行動を思い出して顔が熱くなった。
ここへくる電車に乗る前、指を唇でふれられた。アイスをくわえた勢いでつい、が正解だが。
(気にしすぎ、か…)
麓はふわぁとあくびをして丸くなり、まぶたが重くなってきたと思った瞬間に眠りの世界へ旅立っていた。
初めての土地で慣れていないハズなのに、あっさりとなじめたらしい。
「隣、静かだね。麓はもう寝たかな」
「かもね。ロクにゃん、疲れちゃったかな」
「Gにバッタリ、でダメージだいぶ受けたせいじゃないですか」
隣の男部屋は各々の布団に寝転がって雑談していた。まだ麓のようにスヤァと寝付けそうになかった。
「さっきねー、ホムラっちがロクにゃんにだけ高いアイス買ったんだよ」
「ちょっ、光!?」
「何っ!? ハー〇ンダッツ?」
「ううん。大きい白く〇アイス」
霞に光が首を振ると、焔は顔を真っ赤にさせた。
「光余計なこと言うなァ!」
「だってホントのことだも~ん。僕がロクにゃんの分を買おうと思ってたのに…」
「光てめぇ!!」
シャウトした焔は勢いに任せてガバッと起き上がり、自分の枕を持ち上げて前の光に投げつけた。
「ぶっ!?」
「どうだコラ!」
「やったな…うりゃぁっ!」
光は負けじも可愛いかけ声を上げて枕を投げつけた────だが枕が向かった先は霞。その拍子に彼の眼鏡が吹っ飛び、部屋の隅に転がってただでさえ視力が低い彼の視界が奪われた。
「あ゛ーっ! 私の眼鏡ェ! どこ、どこ行ったァ!」
霞が起き上がって四つん這いになり、必死になって辺りを手のひらでぺたぺたと眼鏡の捜索を始めた。
「あ…。ごめんカスミン…」
その姿に光は素で謝った。
「ごめんじゃないよ全くもー! 壊れたらどうするんだ!」
怒って必死こいている霞に対し、大爆笑の嵐が起きる。
すると霞は隣の扇の布団に侵入し、うつ伏せになっていた扇の背中にも手を当てていく。
「だーっ! くすぐってェよ! こっちは眼鏡ないから来んなし!」
「だったら扇も探して! …うわっ」
霞がコケ、扇の上に折り重なるよあに倒れたのを見かねた凪が、霞のことを勢いよく蹴り上げる。
「ぐぎゃぁ!」
「キモい絵ヅラ晒してんじゃねェ! 誰得だこんなモン!」
「甘いぞ凪。世の中にはな、腐女子という人がいて何でもない男性間の行動を意味深にとらえてカップリングとやらを作ってるんだよ…。だからアヤしい方が実は需要があったり────」
「最もらしいような分析してんな白髪! つかこんなメタ発言してたら需要もクソもねェだろ…」
凪は自分の枕をとりあえず扇の顔に投げつけておく。蕎麦殻の枕を怪力の凪が投げたので、その威力は尋常ではない。
「いったぁ! コレ絶対顔へこんだって…」
「フン。その内戻るんじゃね? …っと」
凪は視界に飛び込んで来た枕を反射神経で抱きとめ、投げられた方向を睨みつける。
それはすぐ隣。黒いほほえみを浮かべ、投球ポーズを取ったままの蒼。
「…何しやがんだてめェ」
「不意打ちです。なのに反応しやがってこんちくしょー」
「こんちくしょーじゃねェてめコルァッ!」
凪は蒼からの枕をそっくりそのまま────否、威力を何倍にもしてくらわせた。蒼は"うわっ"と言って仰向けに倒れた。
「あ。 眼鏡あったー! はぁ…これでやっと見える。光覚悟!」
「おう!」
霞はさっきのお返しと言わんばかりに枕を投げ飛ばし、油断している焔に扇も投げつけ、凪と蒼は威嚇し合う。
枕が空中でポンポンと飛び交う中────
「何していらっしゃるのです?」
お風呂掃除を終えたらしい寮長が、障子を開けて真顔で立っていた。長い茶髪を下ろし、寝巻きの胸ポケットにはいつものシルバーのヘアピンが2本。
全員、しまったと言いたげな顔で硬直した。それは修学旅行で枕投げを担任に見つかったような現場。凪が真っ先に焔のことを指差した。
「焔から始まって枕投げしてた」
「枕投げですか。こうして大勢で泊まる時の定番行事ですわね、ぜひ私も混ぜて下さい────ってバカァ!」
突然、寮長が怒声を上げて鬼の形相になった。風紀委員たちは一斉に肩をビクッと震わせる。
「毎年やるなと口を酸っぱくして言っているでしょうが! 学習しなさい全く! 特に蕎麦殻の枕なんですから破れたら掃除が大変でしょうが! 余計な仕事増やさないで下さい!」
「…や、まだ枕壊してねェけど」
「まだ、にございますか! 冗談じゃありません、やめて下さいね!?」
「あーわかったわかった。もうやんねェよ…チッ」
凪は横を向いてかすかに舌打ちした。すると、耳元で風を切る音がしてとっさに手でつかんだ。
それは当然、というべきか寮長のヘアピン。
「ここで投げんな! 襖に突き刺さるだろうが!」
「ふふ…凪様がキャッチすると思い投げたのでよいのです…」
寮長は冷たいほほえみを浮かべて手を差し出し、凪は無言でそれを渡した。
「それでは皆様、おやすみなさいまし。くれぐれも! 騒がしくしないこと。もしもの場合はもれなく…分かってますわね?」
全員コクコクとうなずき、寮長はスーッと障子をしめた。
お風呂掃除をしている寮長もそのうち帰ってくるだろう。彼女は仕事が早い。
「はぁ…」
1人になった瞬間にため息が出て、なぜか慌てて口元を手で押さえた。誰かに聞かれているワケでもないのに。
(扇さんって…?)
入浴中に考えていたことがまた頭に浮かんできた。
髪にキスされたり頬をつつかれたり。
あんなことをさりげなく、突然するというのはもしかして本当はごく普通の行動なのだろうか。ただ自分が何も知らないだけで。
(いや…ない、それはない)
麓は頭をふるふると振った。もしそうだったら凪があんなに怒ることはない。それに彼が扇のようなことをするなんて。
(…あった)
頭を押さえつつ、凪の行動を思い出して顔が熱くなった。
ここへくる電車に乗る前、指を唇でふれられた。アイスをくわえた勢いでつい、が正解だが。
(気にしすぎ、か…)
麓はふわぁとあくびをして丸くなり、まぶたが重くなってきたと思った瞬間に眠りの世界へ旅立っていた。
初めての土地で慣れていないハズなのに、あっさりとなじめたらしい。
「隣、静かだね。麓はもう寝たかな」
「かもね。ロクにゃん、疲れちゃったかな」
「Gにバッタリ、でダメージだいぶ受けたせいじゃないですか」
隣の男部屋は各々の布団に寝転がって雑談していた。まだ麓のようにスヤァと寝付けそうになかった。
「さっきねー、ホムラっちがロクにゃんにだけ高いアイス買ったんだよ」
「ちょっ、光!?」
「何っ!? ハー〇ンダッツ?」
「ううん。大きい白く〇アイス」
霞に光が首を振ると、焔は顔を真っ赤にさせた。
「光余計なこと言うなァ!」
「だってホントのことだも~ん。僕がロクにゃんの分を買おうと思ってたのに…」
「光てめぇ!!」
シャウトした焔は勢いに任せてガバッと起き上がり、自分の枕を持ち上げて前の光に投げつけた。
「ぶっ!?」
「どうだコラ!」
「やったな…うりゃぁっ!」
光は負けじも可愛いかけ声を上げて枕を投げつけた────だが枕が向かった先は霞。その拍子に彼の眼鏡が吹っ飛び、部屋の隅に転がってただでさえ視力が低い彼の視界が奪われた。
「あ゛ーっ! 私の眼鏡ェ! どこ、どこ行ったァ!」
霞が起き上がって四つん這いになり、必死になって辺りを手のひらでぺたぺたと眼鏡の捜索を始めた。
「あ…。ごめんカスミン…」
その姿に光は素で謝った。
「ごめんじゃないよ全くもー! 壊れたらどうするんだ!」
怒って必死こいている霞に対し、大爆笑の嵐が起きる。
すると霞は隣の扇の布団に侵入し、うつ伏せになっていた扇の背中にも手を当てていく。
「だーっ! くすぐってェよ! こっちは眼鏡ないから来んなし!」
「だったら扇も探して! …うわっ」
霞がコケ、扇の上に折り重なるよあに倒れたのを見かねた凪が、霞のことを勢いよく蹴り上げる。
「ぐぎゃぁ!」
「キモい絵ヅラ晒してんじゃねェ! 誰得だこんなモン!」
「甘いぞ凪。世の中にはな、腐女子という人がいて何でもない男性間の行動を意味深にとらえてカップリングとやらを作ってるんだよ…。だからアヤしい方が実は需要があったり────」
「最もらしいような分析してんな白髪! つかこんなメタ発言してたら需要もクソもねェだろ…」
凪は自分の枕をとりあえず扇の顔に投げつけておく。蕎麦殻の枕を怪力の凪が投げたので、その威力は尋常ではない。
「いったぁ! コレ絶対顔へこんだって…」
「フン。その内戻るんじゃね? …っと」
凪は視界に飛び込んで来た枕を反射神経で抱きとめ、投げられた方向を睨みつける。
それはすぐ隣。黒いほほえみを浮かべ、投球ポーズを取ったままの蒼。
「…何しやがんだてめェ」
「不意打ちです。なのに反応しやがってこんちくしょー」
「こんちくしょーじゃねェてめコルァッ!」
凪は蒼からの枕をそっくりそのまま────否、威力を何倍にもしてくらわせた。蒼は"うわっ"と言って仰向けに倒れた。
「あ。 眼鏡あったー! はぁ…これでやっと見える。光覚悟!」
「おう!」
霞はさっきのお返しと言わんばかりに枕を投げ飛ばし、油断している焔に扇も投げつけ、凪と蒼は威嚇し合う。
枕が空中でポンポンと飛び交う中────
「何していらっしゃるのです?」
お風呂掃除を終えたらしい寮長が、障子を開けて真顔で立っていた。長い茶髪を下ろし、寝巻きの胸ポケットにはいつものシルバーのヘアピンが2本。
全員、しまったと言いたげな顔で硬直した。それは修学旅行で枕投げを担任に見つかったような現場。凪が真っ先に焔のことを指差した。
「焔から始まって枕投げしてた」
「枕投げですか。こうして大勢で泊まる時の定番行事ですわね、ぜひ私も混ぜて下さい────ってバカァ!」
突然、寮長が怒声を上げて鬼の形相になった。風紀委員たちは一斉に肩をビクッと震わせる。
「毎年やるなと口を酸っぱくして言っているでしょうが! 学習しなさい全く! 特に蕎麦殻の枕なんですから破れたら掃除が大変でしょうが! 余計な仕事増やさないで下さい!」
「…や、まだ枕壊してねェけど」
「まだ、にございますか! 冗談じゃありません、やめて下さいね!?」
「あーわかったわかった。もうやんねェよ…チッ」
凪は横を向いてかすかに舌打ちした。すると、耳元で風を切る音がしてとっさに手でつかんだ。
それは当然、というべきか寮長のヘアピン。
「ここで投げんな! 襖に突き刺さるだろうが!」
「ふふ…凪様がキャッチすると思い投げたのでよいのです…」
寮長は冷たいほほえみを浮かべて手を差し出し、凪は無言でそれを渡した。
「それでは皆様、おやすみなさいまし。くれぐれも! 騒がしくしないこと。もしもの場合はもれなく…分かってますわね?」
全員コクコクとうなずき、寮長はスーッと障子をしめた。
0
あなたにおすすめの小説
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
悪魔な義理弟《ボディーガード》~ヤンキー校最凶犬男子の独占欲が強過ぎる~
Kore
恋愛
「余計なこと考えさせないくらい愛せば、男として見てくれる?」そう囁く義弟の愛は重くて、危険で、究極に甘い。
———勉強が大の苦手であり、巷で有名なヤンキー高校しか入れなかった宇佐美莉子。そんな義理姉のボディーガードになるため、後追いで入学してきた偏差値70以上の義理弟、宇佐美櫂理。しかし、ボディーガードどころか、櫂理があまりにも最強過ぎて、誰も莉子に近寄ることが出来ず。まるで極妻的存在で扱われる中、今日も義理弟の重い愛が炸裂する。———
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる