Eternal Dear4

堂宮ツキ乃

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4章

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 自分しかいない和室で麓は布団を敷き、そこで横になってタオルケットをかけた。

 お風呂掃除をしている寮長もそのうち帰ってくるだろう。彼女は仕事が早い。

「はぁ…」

 1人になった瞬間にため息が出て、なぜか慌てて口元を手で押さえた。誰かに聞かれているワケでもないのに。

(扇さんって…?)

 入浴中に考えていたことがまた頭に浮かんできた。

 髪にキスされたり頬をつつかれたり。

 あんなことをさりげなく、突然するというのはもしかして本当はごく普通の行動なのだろうか。ただ自分が何も知らないだけで。

(いや…ない、それはない)

 麓は頭をふるふると振った。もしそうだったら凪があんなに怒ることはない。それに彼が扇のようなことをするなんて。

(…あった)

 頭を押さえつつ、凪の行動を思い出して顔が熱くなった。

 ここへくる電車に乗る前、指を唇でふれられた。アイスをくわえた勢いでつい、が正解だが。

(気にしすぎ、か…)

 麓はふわぁとあくびをして丸くなり、まぶたが重くなってきたと思った瞬間に眠りの世界へ旅立っていた。

 初めての土地で慣れていないハズなのに、あっさりとなじめたらしい。



「隣、静かだね。麓はもう寝たかな」

「かもね。ロクにゃん、疲れちゃったかな」

「Gにバッタリ、でダメージだいぶ受けたせいじゃないですか」

 隣の男部屋は各々の布団に寝転がって雑談していた。まだ麓のようにスヤァと寝付けそうになかった。

「さっきねー、ホムラっちがロクにゃんにだけ高いアイス買ったんだよ」

「ちょっ、光!?」

「何っ!? ハー〇ンダッツ?」

「ううん。大きい白く〇アイス」

 霞に光が首を振ると、焔は顔を真っ赤にさせた。

「光余計なこと言うなァ!」

「だってホントのことだも~ん。僕がロクにゃんの分を買おうと思ってたのに…」

「光てめぇ!!」

 シャウトした焔は勢いに任せてガバッと起き上がり、自分の枕を持ち上げて前の光に投げつけた。

「ぶっ!?」

「どうだコラ!」

「やったな…うりゃぁっ!」

 光は負けじも可愛いかけ声を上げて枕を投げつけた────だが枕が向かった先は霞。その拍子に彼の眼鏡が吹っ飛び、部屋の隅に転がってただでさえ視力が低い彼の視界が奪われた。

「あ゛ーっ! 私の眼鏡ェ! どこ、どこ行ったァ!」

 霞が起き上がって四つん這いになり、必死になって辺りを手のひらでぺたぺたと眼鏡の捜索を始めた。

「あ…。ごめんカスミン…」

 その姿に光は素で謝った。

「ごめんじゃないよ全くもー! 壊れたらどうするんだ!」

 怒って必死こいている霞に対し、大爆笑の嵐が起きる。

 すると霞は隣の扇の布団に侵入し、うつ伏せになっていた扇の背中にも手を当てていく。

「だーっ! くすぐってェよ! こっちは眼鏡ないから来んなし!」

「だったら扇も探して! …うわっ」

 霞がコケ、扇の上に折り重なるよあに倒れたのを見かねた凪が、霞のことを勢いよく蹴り上げる。

「ぐぎゃぁ!」

「キモい絵ヅラ晒してんじゃねェ! 誰得だこんなモン!」

「甘いぞ凪。世の中にはな、腐女子という人がいて何でもない男性間の行動を意味深にとらえてカップリングとやらを作ってるんだよ…。だからアヤしい方が実は需要があったり────」

「最もらしいような分析してんな白髪! つかこんなメタ発言してたら需要もクソもねェだろ…」

 凪は自分の枕をとりあえず扇の顔に投げつけておく。蕎麦殻の枕を怪力の凪が投げたので、その威力は尋常ではない。

「いったぁ! コレ絶対顔へこんだって…」

「フン。その内戻るんじゃね? …っと」

 凪は視界に飛び込んで来た枕を反射神経で抱きとめ、投げられた方向を睨みつける。

 それはすぐ隣。黒いほほえみを浮かべ、投球ポーズを取ったままの蒼。

「…何しやがんだてめェ」

「不意打ちです。なのに反応しやがってこんちくしょー」

「こんちくしょーじゃねェてめコルァッ!」

 凪は蒼からの枕をそっくりそのまま────否、威力を何倍にもしてくらわせた。蒼は"うわっ"と言って仰向けに倒れた。

「あ。 眼鏡あったー! はぁ…これでやっと見える。光覚悟!」

「おう!」

 霞はさっきのお返しと言わんばかりに枕を投げ飛ばし、油断している焔に扇も投げつけ、凪と蒼は威嚇し合う。

 枕が空中でポンポンと飛び交う中────

「何していらっしゃるのです?」

 お風呂掃除を終えたらしい寮長が、障子を開けて真顔で立っていた。長い茶髪を下ろし、寝巻きの胸ポケットにはいつものシルバーのヘアピンが2本。

 全員、しまったと言いたげな顔で硬直した。それは修学旅行で枕投げを担任に見つかったような現場。凪が真っ先に焔のことを指差した。

「焔から始まって枕投げしてた」

「枕投げですか。こうして大勢で泊まる時の定番行事ですわね、ぜひ私も混ぜて下さい────ってバカァ!」

 突然、寮長が怒声を上げて鬼の形相になった。風紀委員たちは一斉に肩をビクッと震わせる。

「毎年やるなと口を酸っぱくして言っているでしょうが! 学習しなさい全く! 特に蕎麦殻の枕なんですから破れたら掃除が大変でしょうが! 余計な仕事増やさないで下さい!」

「…や、まだ枕壊してねェけど」

「まだ、にございますか! 冗談じゃありません、やめて下さいね!?」

「あーわかったわかった。もうやんねェよ…チッ」

 凪は横を向いてかすかに舌打ちした。すると、耳元で風を切る音がしてとっさに手でつかんだ。

 それは当然、というべきか寮長のヘアピン。

「ここで投げんな! 襖に突き刺さるだろうが!」

「ふふ…凪様がキャッチすると思い投げたのでよいのです…」

 寮長は冷たいほほえみを浮かべて手を差し出し、凪は無言でそれを渡した。

「それでは皆様、おやすみなさいまし。くれぐれも! 騒がしくしないこと。もしもの場合はもれなく…分かってますわね?」

 全員コクコクとうなずき、寮長はスーッと障子をしめた。
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