Eternal Dear4

堂宮ツキ乃

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5章

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 まどろんでいた意識が少しずつ覚醒してきた。

「ん…」

 麓はわずかに声を上げ、タオルケットを被ったまま反対側を向く。目はまだ閉じたまま。

 外からは鳥のさえずる声に加え、ザザーンという何度も繰り返す音が聴こえた。昨日、聴き慣れた波音だ。

(…あ、そっか。海に来たんだっけ…)

 ここがどこなのか思い出す。かすかに潮の香りを感じた気がした。ついでにご飯が炊けるにおいも。寮長はとっくに起きて朝食の準備をしているらしい。

 まだ目を開けることができず、麓は視覚と味覚以外で状況を判断していた。隣の和室では話し声が聴こえる。

「ホムラっち、朝ごはんまだらしいから散歩して来よ」

「だな。食前の運動的な」

「いいなソレ、俺も行こっと。蒼も行く?」

「ぜひ。お腹空かせに行きたいです」

「んじゃ決まりだな。凪はどうするー?」

 扇が声を張り上げた。凪だけ別の場所にいるらしい。

「あー…。俺はパス。寮長に朝メシの準備手伝わされてるから」

「手伝わされてる、とはなんですか。言い方を考えて下さい」

「じゃあ…手伝ってやってる」

 直後、バシッと叩く音がして凪が"いてっ"と棒読みな声を上げた。寮長にはたかれたのだろう。

「…わかった。じゃあしばらく4人で歩いてくるよ」

「行ってらっしゃいませ~」

 寮長の声に見送られ、4人はワイワイと縁側からサンダルを履いて外へ出て行ったようだ。その間にこんな会話を交わしていた。

「そういや…霞さんはどこだ?」

「さぁ…? もう起きてはいるでしょうけど」

「僕たちが知らない間にどっか行ったんじゃない? それにカスミンって朝シャンしてそうなイメージが」

「イメージじゃなくてガチ。アイツ、夏場は毎朝シャワー浴びてるよ。もしかしたら今もそうかも」

 そして静かになった。

 4人の会話をしばらく聞いて楽しんでいた麓は、自分もそろそろ起きようと目を開いていく。霞がいないことを気にしつつ。

「ふぁ…」

「おはよ、麓ちゃん。寝顔も可愛いね」

「へっ!?」

 麓は小さなあくびをした時に正面で声がし、口元を手で押さえて目を見開いた。

 目の前には朝シャンに行ってる説が浮上していた────

「霞さんっ!? なんでここに…」

 変態眼鏡野郎だった。彼は麓の正面で肘をつき、彼女のことを細い目で見つめていた。同じ布団の上で。

「あはっ。来ちゃった」

「来ちゃったって…。意味が分かりません!」

 驚いて身を引く麓に、霞は悪びれることなく笑った。

「どうした、起きたのか? っつーかさっさと起きろや、おめーが1番最後…ん゛ん゛!?」

 麓の声が聞こえたのかどうなのか、凪が話しながら近づいてくる足音がした。

 障子をスパンッと開けた凪が、布団の上の麓と変態のことを二度見して硬直した。

「凪様ー? 何そんな所で固まっていらっしゃるのです? もしかして麓様の着替え中…えぇ!?」

 軽口を叩きながら近づいてきた寮長も目を見開き、隣の凪とうなずき合い────怒りのオーラを爆発させた。

「「何しとんのじゃあァァァ!」」

「ふぎゃあ!!」

 寮長は霞の顔の輪郭スレスレにヘアピンを投げつけ、その速さに劣らないダッシュで凪は霞を蹴り上げ麓から離れさせた。

「…何もされてねェか」

「…はい。ありがとうございます」

 その後、霞は寮長と凪にガミガミ怒られて彼だけ朝食を2時間お預けさせられた。



 朝食後、麓は食器洗いを手伝っていた。

「あの、今日はいろんな所を散歩してきてもいいですか?」

 麓が最後の食器を水切り台に置くと、寮長は深ーくうなずいた。

「もちろん。山とは違う景色がたくさんありますから、存分に楽しんでいらして下さいませ。案内人に凪様をパシってもよいですわよ」

「パシ…。そんなこと言ったら怒られるだけでは済まないです…」

「大丈夫です。私共が全力で阻止致しますから!」

 寮長はケラケラと笑いながら布巾で手を拭いた。

 そこは足音と同時に凪がキッチンへ、かがめて顔をのぞかせた。長身であるため入口は彼にとって低い。

 その手にはお菓子がたくさん入っていそうなコンビニの袋。凪は麓のことを見て袋を軽く掲げた。

「悪ィんだけどさ、午後から沖田家に行ってくれねェか? 沙奈と麻緒────あのハゲジジイの孫娘2人がおめーと会って話したいってさ」

「わ…! 行きたいです」

「ならよかった。人間とふれあういい機会になるな」

「はい!」

 嬉しそうにうなずく麓のことを、寮長はニコニコと見ていた。

「よかったですわね麓様。お散歩を一緒にするのもアリかもしれませんわね」

「でも緊張します…」

「なぜです?」

「まだたくさんの人間と話したことがないので」

 今まで話したことがある人間は寮長とブティックのニューハーフ店長、カフェを営んでいる恵里えり

 人間と精霊。種が違うからためらってしまうのだろうか。

「別にいんじゃね?」

 せっかくの明るい表情が曇ってしまった麓を遮るように、凪がキッチンに入って彼女に袋を渡した。

「誰とだろうがそんなの気にするこたァねェよ。人間だ精霊だ言ってもよ、いろんなヤツがいることには変わりねェし。違うのは寿命と治癒能力ぐれェだよ」

 確かに、一緒にいて話していても違和感はない。凪の言う通りな気がした。

 めったにない彼の長文を聞いて安心感が湧いてきた。

「…それに。俺が言うのもなんだが沙奈も麻緒も変なヤツじゃねェ。そこだけは保証する」

「…ふふ。ありがとうございます。凪さん、午後からよろしくお願いします」

「わかった。アイツらにも伝えておく」

 凪はわずかだが口の端を上げてほほえみ、キッチンを出た。
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