Eternal Dear4

堂宮ツキ乃

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3章

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 荷物の運び出しは既に終わっており、寮長の車で来た男共は縁側でボーッとしていた。凪もゆっくりするか、と考え彼らの隣に腰掛けた。

「あ! ナギリン! …どうやってここまで来たの?」

「まさか歩いて来たんスか?」

「ちげーよ、血迷ってもそんなことしねェ。海斗が偶然車で西小室井にいたから送ってもらった」

「へー。よかったですね。ところで麓さんは?」

「アイツなら波打ち際で…って早」

 そう聞かれるだろうとずっと考えていた凪は、海を指差した────瞬間、5人は海に向かって駆け出していた。

 なんとも言えない異様な光景。凪はため息をついて後ろ手をついて目を細めた。

「…アホらし」

 アホ共のことを鼻で笑った。それはともあれ、やっとゆっくりできるなと息をつく。

 この別荘は凪が不在の間は沖田家が管理・清掃している。

 元は物置だったのを凪が片付け、沖田家の男手によって改築し、凪の住まいとなった。

 凪が八百万学園に通うようになって天神地祇が生まれると、ここは別荘と呼ばれるように。

 何度か建て直しもしているが、愛着があるここへ帰ってくると寮とは違う心地良さを感じる。

 今年はここでどのように過ごすことになるのか────。麓という新人がいるから例年と全く違うものになるだろう。

 無意識に彼の口元が優しくなった。



 麓が波打ち際で遊んでいると、名前を呼ぶ声がした。

 階段の上の方を見ると凪以外の風紀委員がそろっている。ずっと凪と2人だったので、彼らに会うのはずいぶん久しぶりな気がした。

「海だー! イェー!」

「光さんはしゃぎすぎです。転ばないで下さいよ」

「アオくん保護者みたい。大丈夫、転ばないよ~」

 光は真っ先に勢いよくビーチサンダルを脱ぎ捨て麓の元に駆け寄った。そして彼女の顔を心配そうにのぞきこんだ。

「ロクにゃん、頭痛くない? 気持ち悪いとかもない? ホントにごめんね」

 言われて出発前のことを指していると分かり、安心させるようにほほえんでみせた。

「大丈夫、なんともないよ。実は扇さんが頭をかばってくれてたから」

「そうだったの? オウちゃんの行動にはちょっと複雑だけど、ロクにゃんが無事ならよかった。脳震盪じゃなくてよかったよホント…」

 光は胸をなで下ろした後、波を蹴ってはしゃぎ出した。その様子だとずっとうずうずしていたのだろう。学園のイベントとはまた違う明るい表情をしていた。

 光のことを見つめていたら横に焔と蒼がそろった。彼らも遊ぶ気満々らしく、ズボンの裾を折り曲げていた。

「麓めっちゃウキウキしてんね。海にそんなに来たかったんだな」

「はい、こうして来ることができて嬉しいです」

「寝言でつぶやくほど、ですね」

「蒼君?」

 麓と焔がキョトンとすると、蒼は優しくほほえんだ。

「麓さんの看病中、スポーツドリンクを持って行った時に"海"ってつぶやいていたんですよ。凪さんとバッチリ聞きましたよ」

「ホント…!? なんか恥ずかし…」

 麓が頬を赤らめて足元の波をパシャパシャさせていると、蒼の優しい声が降ってきた。

「そんなことないですよ。可愛いじゃないですか」

「か、かわっ…」

 彼女があとずさりかけると、その腕を蒼が軽くつかんで引き寄せた。

「あお…蒼君!」

 彼が腕を離す気配はない。ただ黙ってほほえみ、麓の瞳をじっと見つめる。むしろ腕をつかむ手に力がこもったような。

 すると黙っていられなかったらしい焔が、蒼の頭に手刀をくらわせた。

「いだっ」

「くぉるぁ蒼! 離しなさい麓がビビってるでしょーが」

「急になんですか…。ヤキモチでも妬いたんですか?」

「な゛っ…」

 蒼は離した手で頭をさすりながら目を細め、焔のことを見上げた。

 麓と交代のように顔を赤らめた焔は、思わず図星な態度を取ってしまった。それを見逃さなかった蒼は、年下とは思えない意地悪いサディスティックな笑みを浮かべた。

「…るっさいよ全く! 可愛げがないな蒼は!」

「結構です。僕は腹黒キャラとして生きていきますので」

 反論するのがダメなら…と焔は、次は自分の番と言わんばかりに空を見上げた。

「そういえば今日の天気、これから崩れるって聞いたな~。大荒れの天気で大雨どころか雷も鳴るらしいよ~?」

 蒼は一瞬だけ顔を引きつらせ、肩をビクッと震わせたがすぐに急繕いな冷静を装う。

「ゆ、夕立のことですか? 焔さん、よく考えてみて下さい…遥か昔に比べたら最近なんてほっとんど夕立なんてないじゃないですか。ご存知ないんですか?」

「じゃあ聞くけど蒼はゲリラ豪雨ってのを聞いたことないのか?」

「…はっ! 僕はお先に失礼します!」

 ピューンと飛ぶように別荘へ駆け出した蒼を見届けてから、焔は吹き出した。

 麓も思わず笑った。いつしかの雷雨の日を思い出して。

 ひとしきり笑い合うと、今度は焔の頭に手刀が振り下ろされた。蒼と違って同時に2つ。

「いった!」

 それなりの威力があったらしく、焔は涙目で頭を押さえながら顔を上げた。そこには当然、と言っても過言ではない男が2人いた────扇と霞だ。2人も裸足になっている。

「焔君よォ~。ウブのクセに何してんだよ。口説いてたのか?」

「…ンなワケないでしょ!」

「こやつめ…」

「ちょっやめっ! 水かけんのはやめて下さい!」

 はしゃぎ始めたのかいじめ始めたのか、とりあえずにぎやかな3人のことをクスリと笑い、麓は別荘に戻ることにした。こうして海に浸かるのは、ここにいる間ならいくらでもできる。

 濡れた足のままでサンダルを履くのは気が引けるため、麓はトングサンダルの緒を持ち上げて階段を上がり始めた。

「ストーップ麓ちゃん」

「…?」

 そこを誰かの手につかまれて引き止められる。

 振り向くと霞がいた。焔が横から出てきて麓の手からトングサンダルを持ち、なぜかうなずいた。

「素足のままそっちへ行くのは危ないよ」

「でも今サンダルを履くのは…ひゃっ!?」

「こらこら落ちるよ。私の首につかまって」

 軽々と持ち上げられ────お姫様抱っこをされていた。麓は言われるままに霞の首に腕を回した。上目遣いで控えめに彼の顔を見ると、満足気にうなずいた。

「それでよし、と。別荘に行くまでガラスとか金属の破片が落ちてる時があるから。足が切れると嫌だろうら? だからおとなしくこうされなさーい」

「あ…はい。でも今度からはちゃんと拭く物を持ってきます」

「えっ!? どして!?」

「だって霞さんだって素足ですよ。もしお怪我をされたら…申し訳ないです」

 心配そうに言う麓に対し、霞はフッと笑って階段を上がり始めた。

「そんなこと気にする必要はないよ。君の代わりなら、私はいくらでも怪我をしよう」

 麓は何か言う気力がなくなり、黙ってうつむいて顔を赤くした。

 おいしい所を持っていった霞がその後、海に戻って水攻めされたことは言うまでもない。
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