Eternal Dear4

堂宮ツキ乃

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4章

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 バーベキューが終わって少し涼しくなってきた頃。 

 頭のてっぺんで髪をお団子にした麓は、首を縮めてあごまで浸かった。

 本当ならもっとゆっくりとしていたが、今日はそうもいかない。

 別荘には風呂が1つ。それはごく当たり前だが、いつもは各々の部屋の浴室を使っているのでここにいる間は交替制だ。

 麓は風呂場の白い壁をじーっと見つめながら物思いにふけった。少しくらいだったら考え事をしていても許されるだろうか。

 相当前から建っているらしい別荘だが綺麗にされており、風呂場やキッチンには最新の機器が揃っている。

「ふぁ…」

 なんだか眠くなってきて欠伸が出てしまった。その拍子にサイドの髪がはらりとこぼれ、湯船の水面で泳いだ。この髪はさっきの────

(扇さん…。何がしたかったんだろ)

 脳裏には瞳を優しく細めてほほえむ扇の姿。

 あの後────髪にキスされた後、彼はそれ以外に何をするでもなく行こっか、とだけつぶやいた。

 突然のスキンシップに麓は目を白黒とさせ、頬を熱くした。涼しい海風でも火照りが収まらないくらい。

 正直、よく分からない。あんなことをされた理由と、自分が異様にドキドキとしている理由が。

 ふざけたことばかり言ってるかと思いきや、急きあんな風に甘くほほえんでみせたり突然迫るようなことをしたり。

 彼の行動パターンが全く読めない。こちらは常に惑わされているようだ。

(そろそろ出よ…)

 考え過ぎたのと思ったより湯の温度が高いせいかのぼせてきた。立ち上がり、近くに置いたバスタオルを手に取って体に巻き付け、豊かな胸の前で留める。

 浴室を出て洗面所の前で髪をほどき、梳かそうと櫛を手に取ろうとしたら────その表面には麓が見たことのない生物が、長い触覚をゆらしていた。

 色はこげ茶、羽らしきものがついてて…

「いやぁぁぁ!」

 脱衣所は麓の叫び声で満たされ、それはグータラしている他の者たちの耳にも届いた。



 和室はいくつかあり、1番広いものが男部屋になった。

 特にやることもなく、寮長に命じられて布団を敷いた。

 ここには6つ、他の和室には2つ。もちろん男女で分けた。

「あーあ…。男だらけで狭苦しい所なんかじゃなくて、麓ちゃんの隣でゆったりと寝たいぃ~…」

 霞は敷き終わった布団の上でゴロンとうつぶせになり、不満げな声をもらした。

 その隣に凪も敷いて腰を下ろし、霞の額にデコピンをくらわす。霞はイタッと棒読みで声を上げて額を押さえるマネをした。

「バカ言ってんじゃねェよ。アイツが真っ先に断るだろ」

「え~? それは凪の考えであって本当は違うかもよ? 慣れない場所で寝られないんです…。霞さん、一緒に寝て下さい…って。うん、もち! てかむしろ別の意味でも寝…いだだだだっ!」

 凪は無言で霞の髪を引っ張った。今度はさすがに本気で痛いらしく、悶絶している霞は涙目だ。

「黙っとけド変態。おめーの見苦しい妄想晒してんな」

「別に夢見たってよくない?」

「それは夢とは言わねェ。おめーの醜い欲望という」

 凪はため息をつきながら立ち上がり、隅に置いた小さなちゃぶ台の上にあるリモコンを手に取って、設定温度を低くした。

 布団を敷き終わったらしい光と焔が、財布を手に持って部屋を出ようとした。

「凪さん、コンビニに行ってきてもいいスか?」

「おーいいぞ。何、アイス買ってくんの?」

「そ! お風呂上がりのアイス最高だから~。んじゃ行ってきまーす」

 そう言い残して2人は廊下に出た。

「蒼は行かないのー?」

 復活した霞は台所に向かって声をかけたが、蒼の声だけが返ってきた。

「今寮長の手伝いしてますのでー」

「あ…なるほど。偉いね、麓ちゃんの代わりか」

「お、部屋ん中涼しいじゃん」

 すると扇が縁側から戻ってきた。しばらく外で涼んでいたらしい。

「布団敷けば? 私たちは終わったよ」

「あー分かった…って狭っ!」

「ずっといなかった扇が悪いんだよ、陣地取っておかないから」

「…チッ。だったら俺は麓ちゃんの部屋で…」

「おめーもかよ」

 凪は扇の頭をペシっとはたいた。相変わらず霞と同じような思考回路をしている。

「ったくてめーらは…。どっちかがどっちかのコピーなのか?」

 凪が呆れながら霞と扇の顔を見比べた時────浴室の方から麓が悲鳴を上げる声がした。

 やはりというべきか、霞と扇が素早く反応して電光石火のごとく廊下に出た。

「「麓ちゃぁぁん!!」」

「やっぱり似てんな…って言ってる場合じゃねェ、俺も行かなねェと」

 凪は呆れ顔を少しだけ引き締め、小走りで浴室の方へ向かった。



「麓ちゃん!」

 扇がガチャッと脱衣所の戸を開け、中を見て霞と固まった。

 洗面台にある櫛の上のG。いつもだったら顔をしかめて始末しているが、今はそんなものどうでもよかった。

 洗面台から離れた所で腰を抜かしている麓。

 しかもタオル1枚でしっとりとした髪で────

 白く滑らかな足がおしげもなくさらされ、胸元でタオルはきっちり留めているものの、驚いた拍子にゆるまり谷間が深くのぞいていた。

 2人は目を見開いた後、鼻から赤い液体をポタリと垂らし、後に盛大に吹き出してその場でぶっ倒れた。

「邪魔だおめーら!」

 凪が2人の上を跳躍して現れ、麓の姿にわずかに目を見張ったがとっさにそらした。バカ2人のようにならないのが彼らしい。

 麓を視界から外したまま口を開いた。

「転んだのか? んで、あんな叫び…」

「違います! な、なんか変な見たことない生物がいます!」

「変な生物ぅ?」

 凪は麓が必死になって指を差している洗面所の方へ歩み寄った。

 人がいない期間が短いからネズミは出てもおかしくないかもな…なんて適当に考えていた凪は、予想しなかったゴキブリと対面して顔をしかめた。少し迷ってから箱ティッシュから数枚取り出してゴキブリをつまみ、窓を開けて放り出した。

 手をパンパンとはたきながら、相変わらず麓のことは見ることなく、仰向けになっている扇と霞の襟を後ろ手で掴んだ。

「さっきのはもういねェから安心しな…で、あの櫛どうすんの?」

「それは…もう使いたくないです。さっきのが乗っていたので」

「乗っていた…。そりゃ気色悪くて使えねェか。しゃーねェ、風邪引く前にさっさと着替えて来い」

「はい。…ありがとうございました」

「…あぁ」

 凪は2人を引きずってその場を離れた。
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