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最終話
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夜叉は朝来と夫婦で頭領になる道を選んだ。産みの父と再会する直前のことだ。
『麒麟というのは君の前世……朱里だった時の通り名だ。でも、誰も麒麟と呼ぶことはなかったみたい』
青龍たちは頭領として生まれ変わった時、髪や瞳の色が変わったと聞いたことがある。しかし、朱雀と朱里はそのままだったらしい。
『メンカラ赤だから朱雀父さんがそのままなのは分かるけど……麒麟は黄色なんだっけ』
『そ。たぶんだけど皆の願いだったんじゃないかな。僕もそのままでいてほしかったし』
「やーちゃん……神様になっちゃったの……?」
やまめたちは地下室の入り口にたどりついたが、夜叉と朝来は校舎に残ったまま。
何かを察したらしいやまめを筆頭に、同級生たちが続々と戻ってくる。その中には和馬、夜叉の両親も含まれていた。愛瑠の腕にはまひるが抱かれている。
こんな状況でもすやすやと眠る姿は大物になる予感しかしなかった。
誰よりも幸せになってほしい子の成長を見届けられないことに、胸がチクンと痛んだ。
「神様なんてそんな……大げさなモンじゃないよ」
はしゃいでいた様子は見る影もない。いつもだったらここでカメラとネタ帳を構え、阿修羅に止められていただろうに。
その阿修羅は彦瀬と瑞恵の後ろで唇をかみしめている。短髪になってからというもの、ハンサム女子にしか見えない。本人は気づいていないが、新たな層をファンとして取り込んでいるらしい。
「早く! やーちゃん! 地下室、びっくりするくらいあったかいよ!」
場にそぐわない明るい声を発した彦瀬だが、その声は震えている。横で瑞恵もうなずいているが、もう声は出せないようだった。涙でぐしょぐしょの目元は真っ赤だ。
「ごめん……そっちには行けない」
「どうして……?」
「未来を変えたいの」
炎の壁が消え、氷の風の勢いが復活した。校舎の窓ガラスは何枚割れたことだろう。ここへ来るまでに何軒の民家を氷の塊と化したことだろう。
夜叉は朝来に手を差し出した。迷いなく握り返してくれた彼は、澄み切った青空のような笑顔を浮かべた。この世界に早く取り戻したいものだ。
「君の願う未来のためならこの身を捧げる。僕たちの娘のためにも」
「ありがと、朝来」
智と日奈子が不安げな顔で手をつないでいるのが見えた。きっとこの一族に生まれなかったら言葉を交わすことはなかっただろう。
それはきっと、神七や神児も結城も。
「皆にこれからも今までのように楽しく過ごしてほしい。まひるに皆を会わせたかった。私にしてくれたように幸せを教えてほしい」
まひる、という名に全員が首をかしげた。両親たちに目を向けると必死に涙をこらえている。和馬は出るもの全て垂れ流していた。横の昴がなだめながらも、状況を飲み込めないでいるようだった。
「この氷河期を一時的にでも止められるのは彼女だけだ……」
同級生たちの引き留める声にもらい泣きをしているのは朱雀だった。彼らには見えないだろうが、その傍らでは舞花が寄り添っている。
同じく火の能力を持つ彼だが、覚醒してからの時間が短い。能力のコントロールもままならない。氷の壁に立ち向かおうとしたが他の頭領に止められていた。再会したばかりの妻のことも考えろ、と。
「桜木が全てを背負うんですか……」
生徒会長になってからも仕事以外では発言が少ない智の声。横の日奈子は何かを察したような顔になり、口を開きかける。が、迷ってやめたようだった。
「ホントーにお人好しなんだから!」
「バカがつくくらい! 超絶ばかぁ……」
彦瀬と瑞恵の絶叫は氷の風を切り裂くようだった。
それを合図に同級生たちは涙をこらえきれなくなり、元々泣いていた者は嗚咽をもらし始めた。
夜叉の瞳からも涙がこぼれた。それを拭ってくれたのは朝来で。
引き留める声に後ろ髪を掴まれたが、手をつないだまま空へ昇った。
頭領となり火の能力を解放してからというもの、寒さとは無縁の体になった。向かってくる氷の粒は二人に届く前に溶けてしまう。
「私の能力は朝来に恋してるからなんだって」
朝来に寄り添うと彼はフッと笑みをこぼした。夜叉の前髪を分けると、そっと耳にかける。
「朱里はこの体質を呪い、朱雀父さんは舞花を失った……。たとえこの恋が世界を滅ぼしても、私はあなたに出会えたことを後悔しない。もう逃げない」
夜叉の力強い瞳と声は全ての人の記憶に焼き付いただろう。それを見つめる朝来の優しい面持ちも。
二人が氷の風に向かって手を伸ばすと、途端に静寂が戻ってきた。
全てを浸食した氷が全てとけ、建物が乾いていく。
最後に二人は炎に包まれ、地中に向かって消えてしまった。カプセルのようなもので守られている二人は穏やかな寝顔を浮かべていた。
やがて人々は地上と地下に別れて暮らすようになる。氷が溶けても無事な建物は少なかったからだ。
高城の地下では大勢が何年も暮らせる設備が整っていた。無法地帯になることなく、人々が助け合って穏やかに暮らす様子は奇跡だと言われた。
だが、思いもよらない感染症の拡大や事故も起きた。それによって友人や家族を亡くした者も多い。
何か起きる度に戯人族が治安の維持に努めた。医療関係にも惜しみなく手助けし、娯楽で人々を癒した。
『娘が望んだことだ。皆の力を貸してほしい』
朱雀は仲間に頭を下げ、夜叉の同級生たちにも呼び掛けた。進路が絶たれ、絶望していた彼らは瞳の光を取り戻した。
「こちら側に戻ってくるだけありますね……。朱雀さん」
「なんやかんやでご無沙汰になるね、死神さん。運命」
死神が朱雀たちを訪ねてきたのは半年後だった。地上へ降りた戯人族では彼に連絡を取ることはできなかった。
死神と運命は地下施設の装備に驚いているようだった。
「次の氷河期だってどうってことない。人は強い。我々が裏で手を回す必要なんてないほど……。きっと死神さんが予想しているほど人間は死なない。うまいこと生きていくさ」
朱雀の力強い言い切りに死神はほほえんだ。
「それならば……あなたたちの存在も必要ありませんね」
椅子に座った彼は指をパチンと鳴らした。瞬間、戯人族たちの豪奢な服装が現代的な洋服に変わった。
閉ざされていた右目が開き、左目と同じ色がのぞいた。まぶたの傷も消えている。
「死神……どういうこと」
運命は自分の手を見つめてかたまった。
ウェーブがかった金髪は茶髪へ変わり、白木のかんざしで結い上げられる。碧眼はラベンダー色に染まった。中学生のような歳の見た目だったが、一回りほど成長して身長も伸びた。
「わっちまで……」
舞花が実体を持った。艶やかな着物は洋服へ変わり、結い上げていた赤髪はワンレンへ。地上にいる時は見えなかった足元にはブーツ。
「これからの人類の行く末は……陰ながら応援するにとどめましょう」
死神のアイスブルーの瞳がその時だけ、あたたかい色合いを持ったように見えた。傍らの運命の背中を押すと立ち上がる。
「どうかお幸せに。今までありがとう」
胸に手を当て、腰を折った様子は彼の最後の姿だった。真っ黒な燕尾服の長身の男とはその後、会うことも気配を感じることもなくなった。
人間の中には氷がとけても沈黙を貫く国に疑問を持ったらしい。家を破壊され、家族を亡くした者を中心に。
身近な公的機関がパンクしかけた時、国会前でデモを行おうと呼びかける者が現れた。いわゆる配信者だ。
一部の公共交通機関が止まっている中、賛同者たちが国会前に詰めかけた。文字通り自分の足で。
しかし、中はもぬけの殻で侵入し放題。それを止める警備員の姿もない。
そんな中、各国のトップや政治家たちの安否がまるで分からない、とSNSで拡散された。その現象は国外でも起きていた。
それに目をつけたのは都市伝説界隈。要人たちはあらかじめ氷河期のことを知っていて、火星に移り住んだり月にもう一つの世界を作っていたとか、バーチャルの世界で生き延びているのではとまことしやかにささやかれている。
無秩序にならないよう、メスを入れたのは元戯人族たち。様々な専門分野で活躍している。
やがて船や飛行機などの移動手段が復活すると、外国人が生まれの国に送還された。例外なく全員だ。
帰りにこの国の人を乗せて地を踏むと、再び氷河期が訪れた。氷の風が吹く空、凍てついた海では国の外へ出ることも入ることもできない。事実上の鎖国だ。
「謎の地下施設……一体誰が用意したんでしょうね?」
死神は一時だけでも仲間がいたことに喜びを感じていた。
生まれた時から独り。人間とはふれあいが許されない。死の直前でなければ、彼らの前に姿を現すことができない。
彼は静かな死神の間から、元戯人族たちが奔走する様子を眺めていた。
彼らと過ごした期間は死神にとってほんの一時でしかない。それでも印象深い時間を過ごさせてもらった。
特に娘である運命との別れは。胸ポケットに入れた懐中時計にそっとふれる。
『時の女神になる。選ばれたなら全うしたい』
逃げる道も用意したが、彼女は与えた役目を全うしてくれた。愛した人との再会を先延ばしにして。
「ちょっと死神さ~ん! こどもたちが多すぎやしない!?」
バタンッ、と扉を蹴破ったのはハルモニア。両手に幼子を抱え、涙を浮かべている。運命の分身である彼女には残ってもらいたかった。このことは運命の了承済みだ。
「地上があぁではこどもたちを送り出すことはできませんから……。戯人族《ぎじんぞく》も解体しましたしね」
「じゃあ手伝ってよぅ! こどもたちもパパとママの元へ行けない寂しさでストレスたまってるんだから!」
死神は”すみません”と謝ると椅子から立ち上がった。最後に地中に目をやってから。
(大丈夫ですよ……。あなたたちの娘は頑丈にすくすく育っています。たくさんの人に囲まれ、愛され、彼女もまた愛を振りまいて……)
地中で手をつないでいる夜叉と朝来は、眠っているのにほほえんでいるように見えた。
Fin.
『麒麟というのは君の前世……朱里だった時の通り名だ。でも、誰も麒麟と呼ぶことはなかったみたい』
青龍たちは頭領として生まれ変わった時、髪や瞳の色が変わったと聞いたことがある。しかし、朱雀と朱里はそのままだったらしい。
『メンカラ赤だから朱雀父さんがそのままなのは分かるけど……麒麟は黄色なんだっけ』
『そ。たぶんだけど皆の願いだったんじゃないかな。僕もそのままでいてほしかったし』
「やーちゃん……神様になっちゃったの……?」
やまめたちは地下室の入り口にたどりついたが、夜叉と朝来は校舎に残ったまま。
何かを察したらしいやまめを筆頭に、同級生たちが続々と戻ってくる。その中には和馬、夜叉の両親も含まれていた。愛瑠の腕にはまひるが抱かれている。
こんな状況でもすやすやと眠る姿は大物になる予感しかしなかった。
誰よりも幸せになってほしい子の成長を見届けられないことに、胸がチクンと痛んだ。
「神様なんてそんな……大げさなモンじゃないよ」
はしゃいでいた様子は見る影もない。いつもだったらここでカメラとネタ帳を構え、阿修羅に止められていただろうに。
その阿修羅は彦瀬と瑞恵の後ろで唇をかみしめている。短髪になってからというもの、ハンサム女子にしか見えない。本人は気づいていないが、新たな層をファンとして取り込んでいるらしい。
「早く! やーちゃん! 地下室、びっくりするくらいあったかいよ!」
場にそぐわない明るい声を発した彦瀬だが、その声は震えている。横で瑞恵もうなずいているが、もう声は出せないようだった。涙でぐしょぐしょの目元は真っ赤だ。
「ごめん……そっちには行けない」
「どうして……?」
「未来を変えたいの」
炎の壁が消え、氷の風の勢いが復活した。校舎の窓ガラスは何枚割れたことだろう。ここへ来るまでに何軒の民家を氷の塊と化したことだろう。
夜叉は朝来に手を差し出した。迷いなく握り返してくれた彼は、澄み切った青空のような笑顔を浮かべた。この世界に早く取り戻したいものだ。
「君の願う未来のためならこの身を捧げる。僕たちの娘のためにも」
「ありがと、朝来」
智と日奈子が不安げな顔で手をつないでいるのが見えた。きっとこの一族に生まれなかったら言葉を交わすことはなかっただろう。
それはきっと、神七や神児も結城も。
「皆にこれからも今までのように楽しく過ごしてほしい。まひるに皆を会わせたかった。私にしてくれたように幸せを教えてほしい」
まひる、という名に全員が首をかしげた。両親たちに目を向けると必死に涙をこらえている。和馬は出るもの全て垂れ流していた。横の昴がなだめながらも、状況を飲み込めないでいるようだった。
「この氷河期を一時的にでも止められるのは彼女だけだ……」
同級生たちの引き留める声にもらい泣きをしているのは朱雀だった。彼らには見えないだろうが、その傍らでは舞花が寄り添っている。
同じく火の能力を持つ彼だが、覚醒してからの時間が短い。能力のコントロールもままならない。氷の壁に立ち向かおうとしたが他の頭領に止められていた。再会したばかりの妻のことも考えろ、と。
「桜木が全てを背負うんですか……」
生徒会長になってからも仕事以外では発言が少ない智の声。横の日奈子は何かを察したような顔になり、口を開きかける。が、迷ってやめたようだった。
「ホントーにお人好しなんだから!」
「バカがつくくらい! 超絶ばかぁ……」
彦瀬と瑞恵の絶叫は氷の風を切り裂くようだった。
それを合図に同級生たちは涙をこらえきれなくなり、元々泣いていた者は嗚咽をもらし始めた。
夜叉の瞳からも涙がこぼれた。それを拭ってくれたのは朝来で。
引き留める声に後ろ髪を掴まれたが、手をつないだまま空へ昇った。
頭領となり火の能力を解放してからというもの、寒さとは無縁の体になった。向かってくる氷の粒は二人に届く前に溶けてしまう。
「私の能力は朝来に恋してるからなんだって」
朝来に寄り添うと彼はフッと笑みをこぼした。夜叉の前髪を分けると、そっと耳にかける。
「朱里はこの体質を呪い、朱雀父さんは舞花を失った……。たとえこの恋が世界を滅ぼしても、私はあなたに出会えたことを後悔しない。もう逃げない」
夜叉の力強い瞳と声は全ての人の記憶に焼き付いただろう。それを見つめる朝来の優しい面持ちも。
二人が氷の風に向かって手を伸ばすと、途端に静寂が戻ってきた。
全てを浸食した氷が全てとけ、建物が乾いていく。
最後に二人は炎に包まれ、地中に向かって消えてしまった。カプセルのようなもので守られている二人は穏やかな寝顔を浮かべていた。
やがて人々は地上と地下に別れて暮らすようになる。氷が溶けても無事な建物は少なかったからだ。
高城の地下では大勢が何年も暮らせる設備が整っていた。無法地帯になることなく、人々が助け合って穏やかに暮らす様子は奇跡だと言われた。
だが、思いもよらない感染症の拡大や事故も起きた。それによって友人や家族を亡くした者も多い。
何か起きる度に戯人族が治安の維持に努めた。医療関係にも惜しみなく手助けし、娯楽で人々を癒した。
『娘が望んだことだ。皆の力を貸してほしい』
朱雀は仲間に頭を下げ、夜叉の同級生たちにも呼び掛けた。進路が絶たれ、絶望していた彼らは瞳の光を取り戻した。
「こちら側に戻ってくるだけありますね……。朱雀さん」
「なんやかんやでご無沙汰になるね、死神さん。運命」
死神が朱雀たちを訪ねてきたのは半年後だった。地上へ降りた戯人族では彼に連絡を取ることはできなかった。
死神と運命は地下施設の装備に驚いているようだった。
「次の氷河期だってどうってことない。人は強い。我々が裏で手を回す必要なんてないほど……。きっと死神さんが予想しているほど人間は死なない。うまいこと生きていくさ」
朱雀の力強い言い切りに死神はほほえんだ。
「それならば……あなたたちの存在も必要ありませんね」
椅子に座った彼は指をパチンと鳴らした。瞬間、戯人族たちの豪奢な服装が現代的な洋服に変わった。
閉ざされていた右目が開き、左目と同じ色がのぞいた。まぶたの傷も消えている。
「死神……どういうこと」
運命は自分の手を見つめてかたまった。
ウェーブがかった金髪は茶髪へ変わり、白木のかんざしで結い上げられる。碧眼はラベンダー色に染まった。中学生のような歳の見た目だったが、一回りほど成長して身長も伸びた。
「わっちまで……」
舞花が実体を持った。艶やかな着物は洋服へ変わり、結い上げていた赤髪はワンレンへ。地上にいる時は見えなかった足元にはブーツ。
「これからの人類の行く末は……陰ながら応援するにとどめましょう」
死神のアイスブルーの瞳がその時だけ、あたたかい色合いを持ったように見えた。傍らの運命の背中を押すと立ち上がる。
「どうかお幸せに。今までありがとう」
胸に手を当て、腰を折った様子は彼の最後の姿だった。真っ黒な燕尾服の長身の男とはその後、会うことも気配を感じることもなくなった。
人間の中には氷がとけても沈黙を貫く国に疑問を持ったらしい。家を破壊され、家族を亡くした者を中心に。
身近な公的機関がパンクしかけた時、国会前でデモを行おうと呼びかける者が現れた。いわゆる配信者だ。
一部の公共交通機関が止まっている中、賛同者たちが国会前に詰めかけた。文字通り自分の足で。
しかし、中はもぬけの殻で侵入し放題。それを止める警備員の姿もない。
そんな中、各国のトップや政治家たちの安否がまるで分からない、とSNSで拡散された。その現象は国外でも起きていた。
それに目をつけたのは都市伝説界隈。要人たちはあらかじめ氷河期のことを知っていて、火星に移り住んだり月にもう一つの世界を作っていたとか、バーチャルの世界で生き延びているのではとまことしやかにささやかれている。
無秩序にならないよう、メスを入れたのは元戯人族たち。様々な専門分野で活躍している。
やがて船や飛行機などの移動手段が復活すると、外国人が生まれの国に送還された。例外なく全員だ。
帰りにこの国の人を乗せて地を踏むと、再び氷河期が訪れた。氷の風が吹く空、凍てついた海では国の外へ出ることも入ることもできない。事実上の鎖国だ。
「謎の地下施設……一体誰が用意したんでしょうね?」
死神は一時だけでも仲間がいたことに喜びを感じていた。
生まれた時から独り。人間とはふれあいが許されない。死の直前でなければ、彼らの前に姿を現すことができない。
彼は静かな死神の間から、元戯人族たちが奔走する様子を眺めていた。
彼らと過ごした期間は死神にとってほんの一時でしかない。それでも印象深い時間を過ごさせてもらった。
特に娘である運命との別れは。胸ポケットに入れた懐中時計にそっとふれる。
『時の女神になる。選ばれたなら全うしたい』
逃げる道も用意したが、彼女は与えた役目を全うしてくれた。愛した人との再会を先延ばしにして。
「ちょっと死神さ~ん! こどもたちが多すぎやしない!?」
バタンッ、と扉を蹴破ったのはハルモニア。両手に幼子を抱え、涙を浮かべている。運命の分身である彼女には残ってもらいたかった。このことは運命の了承済みだ。
「地上があぁではこどもたちを送り出すことはできませんから……。戯人族《ぎじんぞく》も解体しましたしね」
「じゃあ手伝ってよぅ! こどもたちもパパとママの元へ行けない寂しさでストレスたまってるんだから!」
死神は”すみません”と謝ると椅子から立ち上がった。最後に地中に目をやってから。
(大丈夫ですよ……。あなたたちの娘は頑丈にすくすく育っています。たくさんの人に囲まれ、愛され、彼女もまた愛を振りまいて……)
地中で手をつないでいる夜叉と朝来は、眠っているのにほほえんでいるように見えた。
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