たとえこの恋が世界を滅ぼしても7(完結)

堂宮ツキ乃

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18年後

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 桜木まひる。18歳。今年度で高校卒業。

 珊瑚色の長い髪はママ譲りだ、ってママの同級生たちに褒められる。青と黄色の目は両親譲り。

「カズにい! 早く行こー 」

 地下にある我が家。あたしも叔父も、学校や会社は地上にあるので毎朝エスカレーターや階段などで太陽の光を拝む。

「行ってらっしゃい、まーちゃん。カズ君」

「愛瑠ママ、奈津パパ、行ってきます!」

 今日は仕事が休みの育ての祖父に見送られ、あたしは外へ出た。カズ兄こと和馬叔父さんはネクタイを整えながら革靴を打ち付けた。

「まーちゃんは朝から元気だねぇ」

 見上げるほどの長身だけど、どこかなよっとしている。小さい時はママに守られてばかりいた、と聞いたことがある。

「ママもこうだった?」

 朝や夕方はエスカレーター、階段、エレベーターは大混雑する。人類のほとんどが地上で暮らしていた時代から出勤、帰宅ラッシュというものが存在していた。ぎじんぞくの力を持ってしても解消できない。と、朱雀パパが苦笑いしていた。

「さくらはぜーんぜん。早起きも早寝も苦手で、朝はいつもダルそうだったよ」

「ふーん……」

 二人で列に並び、あたしが先に乗って振り返った。

「あ、彦ちゃん!」

「まーちゃん、和馬! おはよー」

 エスカレーターの後ろの方に、ボブのお姉さんがいる。オフィスカジュアルなワンピース姿の彼女はママの大親友。

「瑞恵が今度、復活したカフェに行こうだってー!」

 たくさんの人を挟みながらも、大きな声で誘う彦ちゃんが大好き。同じく大親友のみーちゃんも。二人には小さい頃からいろんなお店へ連れて行ってもらった。服のおさがりもたくさんもらってる。家族と同じくらい付き合いのある二人だ。

 ブンブンと手を振り合って前に向き直ると、陽の光が瞳に染みる。

 藍栄らんえい学校は地下からの出入口の目の前。カズにいに別れを告げて校門をくぐる。

 校舎は二回の氷河期に耐えたが、子どもの数がグンと減ったせいで閉校していた時期がある。

 教師の数を確保した頃、改めて開校した。ママが通い、皆に出会った大切な場所。あたしもここで勉強をして、友だちをたくさん作って、恋をしたくて。

「神崎やまめ先生の新作だってー! 前回の小説シリーズも最高過ぎたし楽しみすぐる」

「実写化よかったよね! 昔は実写化って言ったら失敗ばかりだったみたいだけど、神崎やまめ先生のって当たりばっかり!」

「主題歌もいいのよね~。みゆりんとVASARAと毎回タイアップしてるけどなんでだろ?」

「昴君がドラマにも出てくるの嬉しー。まじメロ演技」

「最近、交際してた一般女性と結婚したって報道出たけど荒れなかったね」

 同じ制服の女子たちが話しているのが聞こえる。どの言葉を聞いてもフフン、と胸をそらしてしまう。

 出てきた名前は全員、ママの同級生や仲間や担任の先生。

 神崎先生は藍栄らんえい学校の高等部、学年主任。小野寺先生と仲がいいみたい。

 奥さんのやまめちゃんは高校生の時から神崎先生のことが好きで、氷河期を機に結婚した。彼女は氷河期で娯楽が激減した時に、彗星のごとく現れた小説家だともてはやされた。テレビなどが復活すると何作もドラマ化され、アニメ化もした。

(神七ちゃんと神児君にもっと教えてもらお)

 同じく同級生であるオタクの親戚コンビ。二人は古のアニメやマンガをたくさん教えてくれた。おかげであたしもすっかりオタク。

「まひる」

「あ、トシちゃん!」

 低い声に振り向くと幼なじみ二人がいた。

 ちょっと長い黒髪を高く結い上げた歳三ことトシちゃん。落ち着き払った瞳はお父さん譲り。もの静かで口数が少ないところも。だけどほほえんだり、いたずらっぽい横顔にどうしようもなくキュンキュンする。そこは小柄なお母さんによく似ている。

「よーう、まひる。寝ぐせついてね?」

 もう一人は色素が薄目な茶髪の総司ことそーちゃん。彼は教師と小説家の両親から生まれたとは思えないほどいたずら好き。昔はよくいじめられてはシメた。甘い見た目に騙されて憧れる女子が多い。

 随分伸びたそーちゃんの身長。あたしは二個上なのに、彼らが中等部を卒業する頃にはつむじが見えなくなった。

「そーちゃんこそ鏡見てないでしょ」 

 そーちゃんのはねた後ろ髪をなでつけようと背伸びをした。けど、トシちゃんがその頭をはたいた。

「いってぇ!?」

「これくらいしないと直らなさそうだったから」

 トシちゃんは涼しい顔をしてスクールバッグを持ち直す。

「まひるに寝ぐせはついてないよ」

「え、そう?」

 後頭部に手を伸ばそうとしたら、毛先をすくわれた。

 幼なじみは時々距離感がバグる。高校生にもなって自然とふれてくる異性は彼しかいない。そーちゃんもか。

「な、何かな?」

 熱くなる顔を見られたくないけど、あまりにもまっすぐ見つめられると瞳をそらせない。

 彼は”ううん”と首を振り、柔らかく目を細めた。この顔にどうも弱い。

(んん、激メロ……)

 その場にしゃがみたくなる衝動を押さえ、あたしたちは高等部の校舎に向かった。





「愛しの孫よ、今日も絶好調だな」 

 朱雀パパは祖父であり教科担任でもある。校舎で会うと大きく腕を広げ、廊下に膝をつく。まるで小さい子を目の前にしたように。

「もー、いくつだと思ってんの~」

「孫はいつまで経っても可愛いんだよ」

 並んで歩くと頭をくしゃくしゃにかき混ぜられる。 

 祖父にしてはあまりにも若い見た目。それもそのはず、年齢だって30も離れていない。舞花ママとも。

 彼は旅暮らしの経験を活かして教師になった。氷河期以前はサラリーマンだったそう。土地の行き来が自由にできるまでの小遣い稼ぎ、程度に思ってるみたい。

「そういえば千郷と青一郎の結婚式のコーデは決まったか」

「うん! 舞花ママに着物を着せてもらうの」

「それはいい! 髪飾りは俺が買ってあげよう」

 かつてぎじんぞくと呼ばれた人たちは不老不死だった。死神さんにその力を返し、今は普通の人間として年齢を重ねている。詳しいことはよく知らない。

 朱雀パパによると千郷さんと青一郎さんも、玄武さんと百恵さんも前世で恋仲だったそう。朱雀パパと舞花ママも。彼らは今世で再会し、続々と結ばれている。

「今度富橋で買うから大丈夫」

「何!?」

 高城と富橋だけでなく、ほとんどの都市が地下鉄でつながっている。しかも新幹線並みのスピード。学校帰りにサクッと遊びに行くこともできる。

「誰かと行くのか……?」

「トシちゃんが一緒に行こうって」

『総司には言わないでくれ』

『トシちゃん……?』

 まるでデートだ。何をするにも三人だったので、トシちゃんからの秘密のお誘いには胸キュンを感じずにはいられなかった。

「孫に……もう彼氏だと!?」

「あたし18だもん! ママだってそうだったでしょう?」

「17で付き合って18で結婚してお前を産んだ……。やっぱり蛙の子は蛙か……」

「すー様……。ここは学校でありんす……」

「舞花ママ!」

 赤毛のワンレンにオフィスカジュアルな美女。あたしは彼女めがけて飛びついた。祖母はここの事務員として働いている。

「まひる、可愛いのを選んでもらいなんし。お小遣いはいくらでも出しんす」

「舞花も大概祖母バカだな……」

「バイト代があるから大丈夫だよー」

 高城の地下にあるカフェ、『慶』。家族で営む大きなカフェは憩いの場だ。最近、かぐやお姉さんとかぐらお姉さんが結婚してお家を出た。そこでバイトとして雇われたのがあたし。

「護衛にあーちゃんをつけないでね?」

「さすがにしない。阿修羅は美百合のボディーガードとして忙しいからな」

 あーちゃんはもの静かだけど、ママのことになるとかなり多弁になる。みゆりんによるとずっと想いを寄せていてパパとライバルだったんだって。

 あたしのことを”まひる様”と恭しく呼ぶ姿は執事みたい。幼い頃はお目付け役としていつもそばにいた。

(ママもそうだったんだよね……)

 あたしは校舎の窓越しに空を見上げた。春の空は霞がかった雲で柔らかな水色をしている。

 ママ、パパ。いつも見守ってくれてありがとう。そして宝物のような素敵な人たちに出会わせてくれてありがとう。

 皆が聞かせてくれる二人の話が大好きだよ。いつか皆を交えて会えたらいいな。その時はいっぱい話そうね。

Fin.
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