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1章
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朱雀の死因の再調査、己の発覚した悪しき習性の克服。
夏休みの合宿の途中で抜けた阿修羅に突然与えられた課題。
夜叉を傷つけたことを深く落ち込んでいた彼は迷うことなく時代をとんだ。
彼が向かったのは戯人族の人数がまだ少ない頃。始祖が朝来と恋に堕ち、2人が子を成して罰を与えられるところを見て朝来の後を追った。
朱雀が朝来を匿い、一族に隠れて彼に時々会っていたことを確かめた。朱雀の遺書通りであることを見届けた彼は、朱雀が死なずに済む未来にするには…と何度も彼らの前に飛び出たい衝動に駆られた。
しかし人の生死に関わる未来を変えるのはご法度だ。
今回はあくまで死因追求のために”見る”ためだけにとんだ。決して彼らの前に姿を現してはいけない。
それでも生きている朱雀の姿を再び見ることができたのはうれしかった。彼の娘である夜叉が立派に育っていること、妻である舞花が今は戯人族の間で働いていることを伝えたかった。
(やっぱりあなたは皆から尊敬されるに値するお人です…朱雀様)
彼の笑顔を見て、愛娘の夜叉のことを守ると誓って口づけたことを強く思い出した。
そのためには新たに分かった自分の弱点を克服しなければならない。
朱雀と朝来のことを報告しに帰った阿修羅は、一族で力が暴走したことがある者に話を聞いて回った。
「それだったら羅刹だ」
「アイツが?」
青龍の部屋へ行くと白虎もいた。小柄な彼女は軍帽をかぶり直して天井を見つめた。
「あまり知られてはいないがあれは早い段階で力を常に開放するようになったんだ」
「…表舞台に立つから周りの人間に溶け込むためではないんですか」
「皆そう思ってるらしいがな。ボクたちくらいしか知らないか。な?」
「みたいですね」
2人の頭領は顔を見合わせて肩をすくめた。
阿修羅は”羅刹”という名が出てきてからは時々頬を引くつかせ、これ以上は続けたくはない…と適当に話を終わらせようとした。
「…自分はお2人の経験談の方が聞きたいです」
「私たちのって…壮絶だし長いよ? 今夜は寝かせられない勢いの長さだけどいいの?」
「あの女に借りを作るくらいならどんな苦行でも耐えてみせます」
「ボクらの話を最後までまともに聞けたヤツはいなかった。羅刹の方が手っ取り早い克服方法なのにな────」
「結構です」
頑なに嫌がる阿修羅の顔には次第に嫌悪感が色濃くなってきた。
彼がここまで拒絶する姿は滅多に見られない。おもしろいのでしばらくからかいついでに話を焦らそうかと青龍と白虎は一瞬だけ目を合わせて意味深な笑みを浮かべた。
さて次はどう話をそらそうかと口を開くと、部屋の入口から美しい声が流れこんできた。それにつられて阿修羅は振り返った。
その声の主は長い白髪を払い、壁にもたれかけて腕を組んだ。芸能界で活躍している彼女のオーラは同じ戯人族とは言えやはり違う。
「そんなに名前を呼ばれるなんて光栄ね」
「お、まえ…」
阿修羅が額に汗を浮かべ、喉の奥から絞り出したような声で震え始めた。次第に振り返るのではなかったと後悔した表情に変わっていく。
「クリオネじゃない。いつぶりかしら」
「私は水中生物じゃない…!」
「髪の色がそっくりじゃない。クリオネの中身に」
「お前…いい加減その呼び方をやめろ」
滅多に口調が変わらない阿修羅が目の下のクマを濃くし、珍しく”お前”呼ばわりをしている。彼のおさげも一緒にプルプルと震えていた。
頭領2人は”久しぶりに始まったか…”とだまりこみ、笑いをこらえながらしばらく様子を見守ることにした。
夏休みの合宿の途中で抜けた阿修羅に突然与えられた課題。
夜叉を傷つけたことを深く落ち込んでいた彼は迷うことなく時代をとんだ。
彼が向かったのは戯人族の人数がまだ少ない頃。始祖が朝来と恋に堕ち、2人が子を成して罰を与えられるところを見て朝来の後を追った。
朱雀が朝来を匿い、一族に隠れて彼に時々会っていたことを確かめた。朱雀の遺書通りであることを見届けた彼は、朱雀が死なずに済む未来にするには…と何度も彼らの前に飛び出たい衝動に駆られた。
しかし人の生死に関わる未来を変えるのはご法度だ。
今回はあくまで死因追求のために”見る”ためだけにとんだ。決して彼らの前に姿を現してはいけない。
それでも生きている朱雀の姿を再び見ることができたのはうれしかった。彼の娘である夜叉が立派に育っていること、妻である舞花が今は戯人族の間で働いていることを伝えたかった。
(やっぱりあなたは皆から尊敬されるに値するお人です…朱雀様)
彼の笑顔を見て、愛娘の夜叉のことを守ると誓って口づけたことを強く思い出した。
そのためには新たに分かった自分の弱点を克服しなければならない。
朱雀と朝来のことを報告しに帰った阿修羅は、一族で力が暴走したことがある者に話を聞いて回った。
「それだったら羅刹だ」
「アイツが?」
青龍の部屋へ行くと白虎もいた。小柄な彼女は軍帽をかぶり直して天井を見つめた。
「あまり知られてはいないがあれは早い段階で力を常に開放するようになったんだ」
「…表舞台に立つから周りの人間に溶け込むためではないんですか」
「皆そう思ってるらしいがな。ボクたちくらいしか知らないか。な?」
「みたいですね」
2人の頭領は顔を見合わせて肩をすくめた。
阿修羅は”羅刹”という名が出てきてからは時々頬を引くつかせ、これ以上は続けたくはない…と適当に話を終わらせようとした。
「…自分はお2人の経験談の方が聞きたいです」
「私たちのって…壮絶だし長いよ? 今夜は寝かせられない勢いの長さだけどいいの?」
「あの女に借りを作るくらいならどんな苦行でも耐えてみせます」
「ボクらの話を最後までまともに聞けたヤツはいなかった。羅刹の方が手っ取り早い克服方法なのにな────」
「結構です」
頑なに嫌がる阿修羅の顔には次第に嫌悪感が色濃くなってきた。
彼がここまで拒絶する姿は滅多に見られない。おもしろいのでしばらくからかいついでに話を焦らそうかと青龍と白虎は一瞬だけ目を合わせて意味深な笑みを浮かべた。
さて次はどう話をそらそうかと口を開くと、部屋の入口から美しい声が流れこんできた。それにつられて阿修羅は振り返った。
その声の主は長い白髪を払い、壁にもたれかけて腕を組んだ。芸能界で活躍している彼女のオーラは同じ戯人族とは言えやはり違う。
「そんなに名前を呼ばれるなんて光栄ね」
「お、まえ…」
阿修羅が額に汗を浮かべ、喉の奥から絞り出したような声で震え始めた。次第に振り返るのではなかったと後悔した表情に変わっていく。
「クリオネじゃない。いつぶりかしら」
「私は水中生物じゃない…!」
「髪の色がそっくりじゃない。クリオネの中身に」
「お前…いい加減その呼び方をやめろ」
滅多に口調が変わらない阿修羅が目の下のクマを濃くし、珍しく”お前”呼ばわりをしている。彼のおさげも一緒にプルプルと震えていた。
頭領2人は”久しぶりに始まったか…”とだまりこみ、笑いをこらえながらしばらく様子を見守ることにした。
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