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1章
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「阿修羅…美百合?」
「やー様…ご無沙汰しております」
「やっと会えたわね、2号」
「えっと…ちょっと待って…」
懐かしさと驚きが同時に襲ってきて夜叉はこめかみを押さえた。どっちから片付けたらいい。処理能力が追い付かない。彼女は2人の前で手を広げて顔をそらす。
うつむいた夜叉の代わりに舞花は立ち上がり、おさげの男の娘に向かって懐かしさを織り交ぜた表情でほほえみかけた。
「あら…阿修羅さん。やっと帰ってきんしたか。ずっと心配しておりんした」
「舞花さん…何も言わずにすみませんでした」
「わっちも夜叉も、ずっと気にかけておりんした。無事ならようございんす」
舞花も久しぶりに会う阿修羅の姿を見てうれしそうに顔を綻ばせた。彼もぎこちなくほほえみ返し、難しい顔で固まっている夜叉のことを見て眉を曇らせた。
拳を握って目をぎゅっと閉じ、意を決したように和らげた声でひざまづいた。
「やー様…お顔をよく見せてくれませんか」
「ん…?」
「よかった。傷跡は残っていませんね」
およそ2ヶ月ぶりに会う彼の表情は今まで見たことのないような柔らかさだった。彼の表情筋の動きのレパートリーは少なく、喜怒哀楽それぞれの表情は1種類ずつしか見せたことがない。しかも毎回、ロボットのようにプログラミングされたような全く同じ顔になる。
だから今のような切なさを織り交ぜた笑顔は初めてだった。
「…大丈夫。あれくらいどうってことなかったよ。もう気にしないでよ」
夜叉はかすかに涙を浮かべて膝をつき、阿修羅の首に腕を回した。
「や、やー様?」
突然ふれられて狼狽える様子は変わらない。彼女は尚も抱きしめ、目を閉じた。
阿修羅だけでも帰ってきて本当によかった。ずっと気にかけていたのだ。
彼は小さくうなずき、遠慮がちに夜叉の背中に腕を回してささやいた。
「ご心配をおかけしてすみません…しばらく修行しておりました」
「へ?」
もしかして落ち込んでずっと帰って来なかったのではないかとひそかに考えていたのでその理由は意外だった。
同時期に朱雀の死因究明で他の時代へとんでいたのは知っていた。しかし、まさか修行までしていたとは。
「修行って?」
「────血に酔わないための」
彼の周りの空気が静まり、いつもの凛とした顔つきに変わった。
「…力を開放している時に血を見ると暴走してしまうことを、あの時まで知りませんでした。そのせいであなたを傷つけてしまって…。これからは誰も傷つけることのないように、己の自制心を高めてきました」
阿修羅は夜叉から体を離すと彼女の手を両手で包み込んだ。
あたたかくて大きい。夜叉は華奢に見える自分の手を見つめて目を閉じる。姿はかわいらしくても阿修羅はやはり男。身長は同じくらいでも体のパーツの大きさや骨格の造りからして違うのだ。
彼は片手でそっと夜叉の頬にふれ、優しい声音で固く誓い始めた。
「もうあなたを傷つけることは決してありません。今度こそあなたを守ると約束します」
「阿修羅…」
夜叉は目をゆっくりと開け、隣で舞花が”まぁ…”と口を開いたのを見て顔を真っ赤にした。
「バカ…場所を選びなさいよ…」
「あ、すっすみません…早くお伝えしたかったもので…」
目を押さえてうつむく夜叉に阿修羅がオロオロと謝ると、それまで静かに様子を見守っていた白髪の少女がくすりと笑い声をこぼした。
「あら。さっきまで今はまだ会わないでおくと言っていたのは誰だったかしら?」
「…余計なことは話すな」
「あ、そうだ。なんでここに美百合がいるの? 早く詳しく!」
「やー様はこやつをご存知でしたか…」
白髪の少女────美百合に冷たい態度の阿修羅は夜叉の反応に頭を抱えた。
(阿修羅がこやつ呼ばわりするなんて…)
立ち上がると、美百合は目を細めて謎めいた表情でほほえんだ。
部屋の外で阿修羅のことを押していたのは美百合だろう。しかし今をときめく歌手の彼女がなぜ。夜叉はテレビ越しでもスマホ越しでもない本物と向かい合って唾を飲み込んだ。
「やー様…ご無沙汰しております」
「やっと会えたわね、2号」
「えっと…ちょっと待って…」
懐かしさと驚きが同時に襲ってきて夜叉はこめかみを押さえた。どっちから片付けたらいい。処理能力が追い付かない。彼女は2人の前で手を広げて顔をそらす。
うつむいた夜叉の代わりに舞花は立ち上がり、おさげの男の娘に向かって懐かしさを織り交ぜた表情でほほえみかけた。
「あら…阿修羅さん。やっと帰ってきんしたか。ずっと心配しておりんした」
「舞花さん…何も言わずにすみませんでした」
「わっちも夜叉も、ずっと気にかけておりんした。無事ならようございんす」
舞花も久しぶりに会う阿修羅の姿を見てうれしそうに顔を綻ばせた。彼もぎこちなくほほえみ返し、難しい顔で固まっている夜叉のことを見て眉を曇らせた。
拳を握って目をぎゅっと閉じ、意を決したように和らげた声でひざまづいた。
「やー様…お顔をよく見せてくれませんか」
「ん…?」
「よかった。傷跡は残っていませんね」
およそ2ヶ月ぶりに会う彼の表情は今まで見たことのないような柔らかさだった。彼の表情筋の動きのレパートリーは少なく、喜怒哀楽それぞれの表情は1種類ずつしか見せたことがない。しかも毎回、ロボットのようにプログラミングされたような全く同じ顔になる。
だから今のような切なさを織り交ぜた笑顔は初めてだった。
「…大丈夫。あれくらいどうってことなかったよ。もう気にしないでよ」
夜叉はかすかに涙を浮かべて膝をつき、阿修羅の首に腕を回した。
「や、やー様?」
突然ふれられて狼狽える様子は変わらない。彼女は尚も抱きしめ、目を閉じた。
阿修羅だけでも帰ってきて本当によかった。ずっと気にかけていたのだ。
彼は小さくうなずき、遠慮がちに夜叉の背中に腕を回してささやいた。
「ご心配をおかけしてすみません…しばらく修行しておりました」
「へ?」
もしかして落ち込んでずっと帰って来なかったのではないかとひそかに考えていたのでその理由は意外だった。
同時期に朱雀の死因究明で他の時代へとんでいたのは知っていた。しかし、まさか修行までしていたとは。
「修行って?」
「────血に酔わないための」
彼の周りの空気が静まり、いつもの凛とした顔つきに変わった。
「…力を開放している時に血を見ると暴走してしまうことを、あの時まで知りませんでした。そのせいであなたを傷つけてしまって…。これからは誰も傷つけることのないように、己の自制心を高めてきました」
阿修羅は夜叉から体を離すと彼女の手を両手で包み込んだ。
あたたかくて大きい。夜叉は華奢に見える自分の手を見つめて目を閉じる。姿はかわいらしくても阿修羅はやはり男。身長は同じくらいでも体のパーツの大きさや骨格の造りからして違うのだ。
彼は片手でそっと夜叉の頬にふれ、優しい声音で固く誓い始めた。
「もうあなたを傷つけることは決してありません。今度こそあなたを守ると約束します」
「阿修羅…」
夜叉は目をゆっくりと開け、隣で舞花が”まぁ…”と口を開いたのを見て顔を真っ赤にした。
「バカ…場所を選びなさいよ…」
「あ、すっすみません…早くお伝えしたかったもので…」
目を押さえてうつむく夜叉に阿修羅がオロオロと謝ると、それまで静かに様子を見守っていた白髪の少女がくすりと笑い声をこぼした。
「あら。さっきまで今はまだ会わないでおくと言っていたのは誰だったかしら?」
「…余計なことは話すな」
「あ、そうだ。なんでここに美百合がいるの? 早く詳しく!」
「やー様はこやつをご存知でしたか…」
白髪の少女────美百合に冷たい態度の阿修羅は夜叉の反応に頭を抱えた。
(阿修羅がこやつ呼ばわりするなんて…)
立ち上がると、美百合は目を細めて謎めいた表情でほほえんだ。
部屋の外で阿修羅のことを押していたのは美百合だろう。しかし今をときめく歌手の彼女がなぜ。夜叉はテレビ越しでもスマホ越しでもない本物と向かい合って唾を飲み込んだ。
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