たとえこの恋が世界を滅ぼしても5

堂宮ツキ乃

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2章

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 久しぶりに阿修羅が人間界に戻ってきた。この日は休日ということもあり、夜叉は彼とファミレスに訪れていた。そして朝来も。

 夜叉と朝来の前で仏頂面で座った阿修羅は今日も可愛い恰好をしている。秋めいた気候に合わせて厚めの生地で作られた濃い緑のワンピース。おさげは黒いリボンで二つにまとめられている。

 せっかくおしゃれをしているというのに不機嫌な様子の彼は、運ばれてきた水の入ったグラスとおしぼりを置かれて会釈をした。そこはちゃんとしてるんだ…と夜叉はひそかに感心した。

 店員が去っていくと、朝来は頬杖をついて猫目を細めた。

「そんな顔しなくてもいいじゃないか。僕のことをまだ敵だと思っているんなら仕方ないけど…」

「そういうことではない…なぜ貴様がやー様の隣に座っているのだ」

「え? 君は僕の隣は嫌かなって」

「自分とやー様が隣同士なのが妥当だろう…!」

「まぁ君がそうしたいんならいいけど。僕が彼女の正面に座って彼女のことを見つめるのもいいかもね」

「コイツ…!」

 動じることのない朝来を見て阿修羅は歯ぎしりをした。思わぬところでライバルができてしまったらしい。

 阿修羅は"まぁいい…"と強がり、ボソッと口走った。

「…私はやー様のことを朱雀様に頼まれているというのに」

「それなら僕だって同じさ」

「あーもう、せっかく親睦会のために来たんだからそういうのやめよ? ね?」

 夜叉は先ほどからずっとこの調子が続いている2人の間に割って入った。私のために争わないで、と泣きつくタイプではないのでそういうことは言わないが、周りの目が気になるのでそろそろやめさせたい。

 修行から帰ってきた阿修羅は表情が豊かになって自分の感情をさらけ出すことが多くなった。それはいいことなのだが、朝来といるとそれがネックになってしまう。

 しかし朝来は阿修羅の気持ちを知ってか知らずかさらに彼を煽ることを口にする。

「そういえばこの前は、毘沙門天びしゃもんてんに彼女といいコンビだと褒められたな。ね?」

「え? うん、まぁ…」

 ブチン。夜叉が遠慮がちに同意すると、今度こそ何かが切れる音がした。阿修羅は目の下の色を濃くし、朝来に対抗するようにアゴを持ち上げた。

「貴様は先ほどからなんだ…やー様のことを彼女、彼女と。もしかして名前が呼べないのか?」

「別に…」

 朝来が息を詰まらせて顔を赤くしそっぽを向くと、阿修羅は反撃だと言わんばかりに片頬を上げて不敵に笑んだ。突然消える前には絶対にこんな顔はしなかった。

「私はやー様とお呼びすることを許されている。他の誰も、この方をそのようには呼ばない」

「…それがなんだってんだよ」

「やー様は私のことを貴様より特別に思われているのだ」

「そんなものは彼女に聞かなくちゃ分からないさ。…最も、僕は特別に思われなくてもいいけど」

「ほう?」

「僕が彼女を大切に思っているからさ」

 1枚上手の朝来はその発言にドヤ顔はせず、隣の夜叉に微笑んでみせた。話題の中心人物である夜叉は"何言ってんだか…"と呆れた声ではあるがその頬は赤い。彼のことをつついてそれ以上は話すなとそっぽを向いた。

 朝来はそれ以上何も言わずただニコニコとしているだけ。

「な゛…」

 恋仲にも見える2人の様子に阿修羅は驚愕し、大きく見開いた目と口を震わせた。

 自分がいない間にこんなことになっていたとは…。こうなるのだったらせめて時々帰ってくればよかったと今さらながら悔やんだ。かっこつけて長期間にわたって任務だ調査だ修行だと夜叉に会わない間に朝来が、別の意味で彼女に近づくとは思わなかった。

「もう…とりあえずさ! 何か頼もうよ。私お腹空いた」

 朝来の甘い視線から逃げるように夜叉はメニューブックを勢いよく開き、パラパラとめくった。その手の動きが早いのでメニューをちゃんと見られているのか謎である。

 彼女の手元を朝来がのぞきこみ、阿修羅はメニュー立てからメニューブックを手に取った。前の2人が無意識に身を寄せ合っているのを見ると本当にカップルのように見えた。そのせいで尚更悔しい。ついついメニューブックを持つ手に力が入ってしまった。
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