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1章
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「…それからは羅刹と共に修行に励みました。血の海と化した戦場へ赴き、力を開放して発作を操ろうと試みました。しかし何度も血に狂い人々を傷つけそうになりました。その度に羅刹や摩睺羅伽さんに止められ、ようやく自分自身の狂気を取り入れることに成功しました」
夜叉は顔を青ざめさせて口元を覆い、彼と2人で絡新婦という巨大な蜘蛛女の妖怪と対峙した時のことを思い出した。
あの時、血にまみれた阿修羅は夜叉の声が聞こえなくなるほど我を失っていた。その彼がわざわざ戦場に行き自分の暴走をコントロールしようとしていたなんて。
静かにほほえんでいる阿修羅の頭を美百合がポン、となでてくすりと笑った。
「克服するの、私より早かったわね。大したものだわ」
「何を上から目線で…」
「修行に付き合ったのは私よ。そして師範も私」
「自分の方が歳上だというのに…」
「あれとこれとは関係ないわ」
「くっ…!」
阿修羅も美百合相手だと何も言い返せなくなってしまう。彼は悔しさに顔をゆがめるとそっぽを向いて唇を尖らせた。
そんな彼のことは放っておき、美百合は夜叉の手を取って立ち上がらせた。
「は、はわわ…」
いつも画面越しに見ている歌手を目の前にして夜叉は顔を赤くして小刻みに震え始めた。美百合は”…かわいい”と小さくつぶやくとほほえんだ。
夜叉は美百合が同じ戯人族であることをツッコむのも忘れ、憧れの人を目の前にしてただのファンと化した。彼女は美百合の手を両手で握るとぺこぺこと何度も会釈をした。
「あ、あの…いつも曲聴いてます…」
「ありがとう。知っていてくれて光栄だわ」
「あとでサインもらってもいいですか…」
「もちろん」
クラスメイトにも美百合の熱狂的なファンがいて今年の夏にコンサートへ行ったことも話した。彼女の分のサインも頂きたいところだがどのようにして美百合と会ったのか説明しづらい。それに色紙なんていう気の利いたものは持っていない。サインはまた改めて頂くことにした。
「2号はクリオネとよく似てるのね」
「2号…? クリオネ…?」
「だからやー様のことを妙な呼び方をするな!」
美百合が夜叉の頬をなでると阿修羅が勢いよく立ち上がった。変なニックネームは自分だけならまだしも、尊敬する人の娘には呼ばせたくないらしい。
「大丈夫よ阿修羅…美百合さん? 羅刹さんなら許せるから────どっちでお呼びしていいですか?」
「美百合と呼んでくれたら嬉しいわ。それとクリオネと同じように話していいのよ」
彼女は阿修羅のことは華麗に無視して首をかしげてみせた。
「あ、じゃあ…美百合。美百合みたいにこの一族での名前じゃなくて人間ぽい名前を主に使ってる人初めて見たかも」
未だ緊張は抜けないが夜叉が普段の口調で話すと、美百合はかすかに首を縦に振った。
「そうね。私は人間界で表立った場所によく立つからこっちの名前が慣れているの」
「美百合ってのは前の名前なの?」
「いいえ。サラが名付けてくれたものよ。以前の私に名前なんてものは無かったわ」
「そうなの?」
「私は皆みたいに元人間ではないから…」
「じゃあ…何者だったの?」
「それはあなたが当ててみて」
美百合は再び謎めいたほほえみで夜叉の頬をつついた。
彼女は話は済んだからと朱雀の部屋を出て行った。とことんマイペースである。襖を開ける前に振り向き、また会いましょうと言い残して襖の向こうへ消えた。
美百合がいなくなると阿修羅はわざらしい大きなため息をついて額を押さえた。
「全くあれは…」
もう勘弁してくれという顔で首を振る彼に苦笑いをし、夜叉は体の後ろで手を組んだ。
「私、阿修羅が敬語じゃなくなるの初めて見たかも。…朝来以外で」
「あさき?」
「あっ…」
親しい間柄のように元敵のことを名前で呼ぶ夜叉のことを聞き流せなかったらしい。阿修羅は戸惑いと怒りに若干の殺気をこめた瞳になって彼女を震え上がらせた。
夜叉は顔を青ざめさせて口元を覆い、彼と2人で絡新婦という巨大な蜘蛛女の妖怪と対峙した時のことを思い出した。
あの時、血にまみれた阿修羅は夜叉の声が聞こえなくなるほど我を失っていた。その彼がわざわざ戦場に行き自分の暴走をコントロールしようとしていたなんて。
静かにほほえんでいる阿修羅の頭を美百合がポン、となでてくすりと笑った。
「克服するの、私より早かったわね。大したものだわ」
「何を上から目線で…」
「修行に付き合ったのは私よ。そして師範も私」
「自分の方が歳上だというのに…」
「あれとこれとは関係ないわ」
「くっ…!」
阿修羅も美百合相手だと何も言い返せなくなってしまう。彼は悔しさに顔をゆがめるとそっぽを向いて唇を尖らせた。
そんな彼のことは放っておき、美百合は夜叉の手を取って立ち上がらせた。
「は、はわわ…」
いつも画面越しに見ている歌手を目の前にして夜叉は顔を赤くして小刻みに震え始めた。美百合は”…かわいい”と小さくつぶやくとほほえんだ。
夜叉は美百合が同じ戯人族であることをツッコむのも忘れ、憧れの人を目の前にしてただのファンと化した。彼女は美百合の手を両手で握るとぺこぺこと何度も会釈をした。
「あ、あの…いつも曲聴いてます…」
「ありがとう。知っていてくれて光栄だわ」
「あとでサインもらってもいいですか…」
「もちろん」
クラスメイトにも美百合の熱狂的なファンがいて今年の夏にコンサートへ行ったことも話した。彼女の分のサインも頂きたいところだがどのようにして美百合と会ったのか説明しづらい。それに色紙なんていう気の利いたものは持っていない。サインはまた改めて頂くことにした。
「2号はクリオネとよく似てるのね」
「2号…? クリオネ…?」
「だからやー様のことを妙な呼び方をするな!」
美百合が夜叉の頬をなでると阿修羅が勢いよく立ち上がった。変なニックネームは自分だけならまだしも、尊敬する人の娘には呼ばせたくないらしい。
「大丈夫よ阿修羅…美百合さん? 羅刹さんなら許せるから────どっちでお呼びしていいですか?」
「美百合と呼んでくれたら嬉しいわ。それとクリオネと同じように話していいのよ」
彼女は阿修羅のことは華麗に無視して首をかしげてみせた。
「あ、じゃあ…美百合。美百合みたいにこの一族での名前じゃなくて人間ぽい名前を主に使ってる人初めて見たかも」
未だ緊張は抜けないが夜叉が普段の口調で話すと、美百合はかすかに首を縦に振った。
「そうね。私は人間界で表立った場所によく立つからこっちの名前が慣れているの」
「美百合ってのは前の名前なの?」
「いいえ。サラが名付けてくれたものよ。以前の私に名前なんてものは無かったわ」
「そうなの?」
「私は皆みたいに元人間ではないから…」
「じゃあ…何者だったの?」
「それはあなたが当ててみて」
美百合は再び謎めいたほほえみで夜叉の頬をつついた。
彼女は話は済んだからと朱雀の部屋を出て行った。とことんマイペースである。襖を開ける前に振り向き、また会いましょうと言い残して襖の向こうへ消えた。
美百合がいなくなると阿修羅はわざらしい大きなため息をついて額を押さえた。
「全くあれは…」
もう勘弁してくれという顔で首を振る彼に苦笑いをし、夜叉は体の後ろで手を組んだ。
「私、阿修羅が敬語じゃなくなるの初めて見たかも。…朝来以外で」
「あさき?」
「あっ…」
親しい間柄のように元敵のことを名前で呼ぶ夜叉のことを聞き流せなかったらしい。阿修羅は戸惑いと怒りに若干の殺気をこめた瞳になって彼女を震え上がらせた。
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