たとえこの恋が世界を滅ぼしても5

堂宮ツキ乃

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3章

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 夜叉たち藍栄高校の修学旅行は3泊4日で行先は北海道の小樽と札幌。

 修学旅行では私服での参加が認められているが、現地は自分たちの地元より冷えるため羽織る物や厚めの服を持参するようにと事前に説明された。

 阿修羅が戻ってくると夜叉は彦瀬や瑞恵などいつもつるむメンバーで買い物へ出かけた。せっかくだからと新しい服や移動中のおやつに歯ブラシセットや洗顔用品などなど、修学旅行に必要な物を買い求めた。

「やーちゃん、チョコ食べる?」

「わーありがとー」

 修学旅行当日。一行は北海道へ向かうべく飛行機に乗るため、新幹線で移動していた。夜叉は3人席の窓側で隣には彦瀬とその先に瑞恵がいる。

 思えば修学旅行は今日からではなく買い物をしている時や計画している時から始まっていたと思う。夜叉は彦瀬からビスケットに舟の絵が描かれたチョコレートをもらって口に放り込んだ。

 現地に行ったら何をしよう、何を食べよう。ホテルでは友だちと夜遅くまで話していたい。当日まで頭の中で何度も修学旅行へ行っていた。

 楽しみ過ぎて思ったように寝られなかったが体調は万全だ。

(舞花も一緒に行けたらよかったのにな…)

 戯人族ので働く母親を誘ったが、最近では重要な仕事もしているらしいので遠慮気味に断られてしまった。よく考えたら保育園の親子遠足ではないから一緒に行くのは変な話だ。他の生徒は親と行きたい、どころかうっとおしい親としばらく離れられるなんてラッキー、とさえ聞こえてきた。

 せめてお土産は買って帰ろうと、授業中にひそかに進めていたお土産を渡す人リストを握り締めた。

(舞花に戯人族のの人たちと毘沙門天さんと鬼子母神さんと、父さん母さんに────朝来…?)

 黒髪の男の顔が浮かんで夜叉は1人で赤くなった。

 今頃何をしているのだろう。修学旅行中は会えない彼。連絡先は交換しているが頻繁に連絡をするわけではない。

(付き合っているわけじゃないから突然連絡すんのってなんか悪いし…)

「やーちゃん? やーちゃんてば」

「おぉう何?」

 考え事をしながら窓の外を眺めていたら彦瀬につつかれた。慌てて振り向くと裏声が出てしまい、彦瀬と瑞恵が吹き出した。

「なんかね、他のクラスの男子が修学旅行中に誰かに告白するとかで盛り上がってるらしいよ」

「何そのおもしろそうな話。もっと詳しく」

 夜叉は赤くなった顔を落ち着かせようと手で押さえながら彦瀬のスマホをのぞきこんだ。

「同じ中学の女の子からL〇NEが来たんだ。和馬と同じクラスだよ」

「へぇ。そういうの聞くとなんか青春だな」

「またまた他人事みたいな顔しちゃって…。やーちゃんがどっかのイケメン男子高校生とファミレスに行ったの知ってるんだからね」

「はっ…香取っちめ…」

 誰にも言うなとは止めていないが、言いふらされているとなれば話は変わる。夜叉の脳内で香取が”うしし”といたずらっぽく笑った。

 彦瀬は夜叉の二の腕をツンツンとつつき、その先で瑞恵がこちらを見ながらニヤけている。

「ここだけの話だけど…って教えてもらったよ。彼氏ができたんなら彦瀬たちに話してくれたっていいじゃん~」

「彼氏じゃない!」

「あ、あーちゃんも一緒だって聞いたけど三角関係か? あーちゃんとイケメンがやーちゃんを取り合っているんだな?」

「そんなことするわけ…」

 夜叉は疲れのせいかげっそりとした顔で否定した。バレると面倒くさい相手の耳に入ってしまったのはまずい。その内阿修羅にもこの話をするかもしれない。

(阿修羅なら変なことは言わないだろうけど、帰ってきてからキャラ変わってるしなー…口止めしといた方がいいかな)

 彦瀬たちにおいしい話をする可能性が無きにしも非ず。執筆再開しているやまめが”ネタ頂き! ごちそうさま!”と食いつくのも目に見える。

 夜叉は修学旅行初日からため息をついて目を閉じた。
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