たとえこの恋が世界を滅ぼしても5

堂宮ツキ乃

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3章

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 その日の夜。ホテルで夕飯を食べ、各自の部屋で入浴を済ませた。

 夜叉は阿修羅と2人部屋だ。実は阿修羅が学校へ再び登校するまで、ホテルの部屋割は彦瀬と瑞恵の3人になっていた。

 阿修羅が復活したことによって変わった部屋で、2人はそれぞれのベッドの端で向かい合うように腰かけている。

「…自分は1人でもよかったのですが」

「1人にするわけにはいかないよ。神崎先生だっていいよとは言わないだろうし」

「自分は1人部屋だからと言って大はしゃぎしてご迷惑をおかけすることはしませんよ」

「そういう心配はしてないよ。…ていうかそういう阿修羅は想像できんわ」

 ベッドの上で跳びはねてみたりホテル内を探検したり、消灯時間を過ぎても起きていたり。阿修羅が積極的によくないことをするような生徒とは思えない。

「そういうんじゃないって。ぼっちじゃ寂しいんじゃないかってこと」

「ぼっち…」

「ひとりぼっちのこと」

「自分は平気ですよ」

「そう言うだろうとは思っていたよ」

 夜叉は風呂上りからずっと頭に巻いていたタオルをはがして髪を整えた。

 いつもこうしてリビングでスマホをいじっていると和馬に早く髪を乾かしなよと促される。しかし今日はいない。弟とはクラスが別なのでホテルの部屋は他の階だ。

「明日はどうしようか? いよいよ散策だね」

「えぇ、今日少しだけ歩きましたがまだ観光し足りませんね」

「水族館もあるらしいしいろんなとこ行きたいよね。彦瀬とみーちゃんとやまめちゃんは街をうろつきたいって言ってったっけな」

「自分は皆さんと行けるならどこへでも」

「そうなの? まぁ歩いてる途中で気になるところがあったらどんどん回ろ」

 夜叉はスマホの画面をスライドすると小樽の観光地について調べ始めた。電車で移動して訪れたこの街は少し歩くだけで美しい街並みを楽しめる。夜叉は浅草橋からこのホテルまでの移動も楽しんでいた。

 大きな洋風の建物が立ち並ぶ道、ガラス細工やオルゴールが飾られた店、新鮮な海鮮が店先に並ぶ魚屋。彼女にとって身近にないものがぎゅっと凝縮されたこの街は魅力的で、隅々まで巡りたいとさえ思っていた。

「海鮮丼食べなきゃ帰れない…」

「え?」

 もちろん見て楽しむのも目的の1つだが、夜叉には個人的に大事な予定があった。

「お魚を! 新鮮ぷりぷりな魚を食べなきゃ私は帰れない!」

「そうですか…」

 見た目に反して食い意地が張っている  否、食欲旺盛な彼女は鼻息荒く拳を握った。

「やー様は刺身が好きなのですか?」

「それもあるけどせっかく北海道に来たから。昼ご飯は各自で、だから海鮮丼食べに行きたい。あ、今の内にそのお店も探しておこ」

 夜叉はいつの間にか放り出していたスマホを再び手に取り、熱心に明日の予定を考え始めた。

(食べたいのは本当だけど…)

 彼女は変わりそうな顔色を阿修羅に見られまいと、ベッドの上で横になってふかふかの枕を引き寄せると腕の下に置いた。

(食べ物への興味は失いたくないな…)

 やがて食べることに執着が無くなり、食物を摂取しなくても生きられる体に変わる。そう教えられているが、夜叉はそうはなりたくなかった。

 戯人族の習性だとしても夜叉は受け入れがたかった。食べること自体が好きなのもあるが、楽しみが楽しみだと思えなくなってしまう心にはなりたくない。

(私はいつまで”人間らしく”生きられるんだろう)

 隣の阿修羅を見やると彼も夜叉と同じようにスマホの画面を眺めている。彼はお茶菓子程度なら食べるが食事をしているところはあまり見かけない。この前の朝来を交えた会食では夜叉と同じメニューを頼んでいたが、”特に食べたいとは思わないが夜叉が食べるなら…”という顔をしていた。

「…ていうかどっちかがどっちかの部屋に行った方が早くね?」

「それもそうですね。就寝時間までまだ時間もありますし連絡を取ってみましょうか────」

 夜叉が修学旅行のために作ったグループLI〇Eを開くと、ほぼ同時に部屋のドアをノックする音が響いた。
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