14 / 29
3章
4
しおりを挟む
「彦瀬~」
「ひゃあ!?」
「なんだか眠そうね、夜更かししてたの?」
次の日の朝。ホテルで朝食を終えた夜叉たちは出発時間と同時に外へ出て街中を歩いていた。
普段だったら朝のホームルームをしている時間だ。ひんやりとした空気を胸いっぱいに吸い込むと眠気が覚めていく気がする。
しかしメンバーの内の1人である彦瀬には簡単には吹き飛びそうにない睡魔に襲われているようだ。彼女は夜叉に後ろから脇をくすぐられて目を見開いたが、すぐ寝ぼけまなこに戻ってしまった。
「ううん…単純に楽しみで眠れなかっただけ…」
「それは修学旅行の前日だけじゃね?」
「修学旅行始まってからでテンション爆上げしたんだよ」
「そ、そう? 変わった習性ね…」
昨夜、夜叉と阿修羅が彦瀬たちと集まって散策の会議をしようかと思い立った直後に部屋に尋ねてきた人物がいた。それが彦瀬と瑞恵とやまめ。どうやら彼女たちも同じことを考えていたらしい。その後は消灯時間ギリギリまで全員でスマホを片手にざっくりとした予定を立てていた。
「眠いのはまぁ大丈夫! 早く水族館に行こ」
「あ、そう? 彦瀬が大丈夫ならいいけど…」
…と、豪語していた彦瀬だが結局、水族館へ向かうバスの中で眠りこけていた。一行はバスの一番後ろの座席に並んで座った。彦瀬はバスが曲がる度に隣に座る夜叉の肩に頭を乗せたり、通路に投げ出されそうになっていた。他の乗客の迷惑になってはいけないと、途中から夜叉は彦瀬のことを引き寄せて自分にもたれかけさせた。
「やーちゃん彼氏みたい」
「そうかな…ってか写真撮らない」
通路を挟んで隣に座るやまめが夜叉たちにスマホを向けていた。その隣の瑞恵はその画面をのぞきこみながら”後で送って”とささやいている。
「もちろん! なんならグループに送るからさ」
「わーいありがとー」
「やめなさいバカ」
夜叉の制止を無視したやまめはアプリを開いて画像の送信を始めた。すると、ほぼ同時に夜叉のスマホが軽快な音を鳴らした。彼女は息を吐き、眠りこける彦瀬を起こさない力加減で頬をぺちぺちと叩いた。
「んもう…このコたちはどうしたってこう、そういうのに結びつけたがるのかしら…」
「まだ幼い娘たちなのですから、多めに見てあげてください」
「阿修羅…そんなこと言うタイプだったっけ」
彦瀬と反対側の隣に座る阿修羅は穏やかに目を細めて見守っている。以前からこんな表情を見せるような男の娘だっただろうか。
「まぁいっか…これも修学旅行の思い出的な」
「そういうことに致しましょう」
(ん…?)
夜叉の隣でバッグからスマホを取り出した阿修羅の顔は心なしか嬉しそうだった。今日の彼はいつものおさげをゆるい三つ編みにしている。秋仕様の格好も可愛らしい。これなら彼が男だなんて誰も疑うことはない。
(なんだかんだで阿修羅も修学旅行を楽しみにしていたんだな…)
「あの、やー様。水族館へ行った後は小樽の街を巡りながら食べ歩きをしましょう。一族の者たちへのお土産もたくさん買いましょう」
「う、うん。もちろん」
彼は夜叉に顔を近づけて力み、頬を紅潮させた。
やはり彼は変わった。夜叉は”はいはい…”と彼の肩をなでて座らせた。
修学旅行の本格的な一日目は実質今日。初めて訪れた土地でどんな思い出が作れるのだろう。夜叉は片手でスマホを小さなリュックから取り出して小さなため息をついた。その顔は困ったというよりはほほえみに近いものを浮かべていた。
「ひゃあ!?」
「なんだか眠そうね、夜更かししてたの?」
次の日の朝。ホテルで朝食を終えた夜叉たちは出発時間と同時に外へ出て街中を歩いていた。
普段だったら朝のホームルームをしている時間だ。ひんやりとした空気を胸いっぱいに吸い込むと眠気が覚めていく気がする。
しかしメンバーの内の1人である彦瀬には簡単には吹き飛びそうにない睡魔に襲われているようだ。彼女は夜叉に後ろから脇をくすぐられて目を見開いたが、すぐ寝ぼけまなこに戻ってしまった。
「ううん…単純に楽しみで眠れなかっただけ…」
「それは修学旅行の前日だけじゃね?」
「修学旅行始まってからでテンション爆上げしたんだよ」
「そ、そう? 変わった習性ね…」
昨夜、夜叉と阿修羅が彦瀬たちと集まって散策の会議をしようかと思い立った直後に部屋に尋ねてきた人物がいた。それが彦瀬と瑞恵とやまめ。どうやら彼女たちも同じことを考えていたらしい。その後は消灯時間ギリギリまで全員でスマホを片手にざっくりとした予定を立てていた。
「眠いのはまぁ大丈夫! 早く水族館に行こ」
「あ、そう? 彦瀬が大丈夫ならいいけど…」
…と、豪語していた彦瀬だが結局、水族館へ向かうバスの中で眠りこけていた。一行はバスの一番後ろの座席に並んで座った。彦瀬はバスが曲がる度に隣に座る夜叉の肩に頭を乗せたり、通路に投げ出されそうになっていた。他の乗客の迷惑になってはいけないと、途中から夜叉は彦瀬のことを引き寄せて自分にもたれかけさせた。
「やーちゃん彼氏みたい」
「そうかな…ってか写真撮らない」
通路を挟んで隣に座るやまめが夜叉たちにスマホを向けていた。その隣の瑞恵はその画面をのぞきこみながら”後で送って”とささやいている。
「もちろん! なんならグループに送るからさ」
「わーいありがとー」
「やめなさいバカ」
夜叉の制止を無視したやまめはアプリを開いて画像の送信を始めた。すると、ほぼ同時に夜叉のスマホが軽快な音を鳴らした。彼女は息を吐き、眠りこける彦瀬を起こさない力加減で頬をぺちぺちと叩いた。
「んもう…このコたちはどうしたってこう、そういうのに結びつけたがるのかしら…」
「まだ幼い娘たちなのですから、多めに見てあげてください」
「阿修羅…そんなこと言うタイプだったっけ」
彦瀬と反対側の隣に座る阿修羅は穏やかに目を細めて見守っている。以前からこんな表情を見せるような男の娘だっただろうか。
「まぁいっか…これも修学旅行の思い出的な」
「そういうことに致しましょう」
(ん…?)
夜叉の隣でバッグからスマホを取り出した阿修羅の顔は心なしか嬉しそうだった。今日の彼はいつものおさげをゆるい三つ編みにしている。秋仕様の格好も可愛らしい。これなら彼が男だなんて誰も疑うことはない。
(なんだかんだで阿修羅も修学旅行を楽しみにしていたんだな…)
「あの、やー様。水族館へ行った後は小樽の街を巡りながら食べ歩きをしましょう。一族の者たちへのお土産もたくさん買いましょう」
「う、うん。もちろん」
彼は夜叉に顔を近づけて力み、頬を紅潮させた。
やはり彼は変わった。夜叉は”はいはい…”と彼の肩をなでて座らせた。
修学旅行の本格的な一日目は実質今日。初めて訪れた土地でどんな思い出が作れるのだろう。夜叉は片手でスマホを小さなリュックから取り出して小さなため息をついた。その顔は困ったというよりはほほえみに近いものを浮かべていた。
0
あなたにおすすめの小説
女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん
菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら
普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。
そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる