たとえこの恋が世界を滅ぼしても5

堂宮ツキ乃

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4章

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 友樹の恋愛事情を聞き、イルカショーを楽しんだ夜叉たちは屋外に出てペンギンの行進を眺めた。よちよちと歩くフンボルトペンギンは着いていきたいくらい可愛かった。

 小さなスタジアムを目にし、もしかしてこれがかの有名な言う事を聞かないペンギンショー…? と、夜叉たちは顔を見合わせた。

 屋外ではペンギン以外にトドなどの海洋哺乳類がのびのびと泳いでいたりくつろいでいたり、観光客がエサ売り場で買った魚を目当てに鳴き声を上げていた。

 夜叉たちの中ではやまめが”何事も経験!”とエサの魚が入ったバケツを買ってトドたちに向かって放り投げていた。

「そぉーれ! …あぁっ! 変なところに落ちちゃった…」

「…あ、カモメが食べたわ」

「ぎゃー! 私トドさんにあげたのに…」

「たぶんカモメも喜んでいるよ」

 やまめが1人騒いでいる姿を阿修羅はぼんやりと見ていた。

 夜叉はくすっと笑うと彼の隣に立ち、やまめから魚をもらって一緒になってトドにあげようとしている瑞恵と彦瀬の背中を見つめた。

「大丈夫? 本当はイルカショー見たら街に戻る予定だったけど…もしかしてお腹空いて燃料切れ?」

「いえ、修学旅行前に戻ってきてよかったと噛みしめているのです」

「そう? まぁ…そうだね、よかった。私も阿修羅と皆とこうして北の大地へ来れて嬉しいよ」

 彼にほほえみかけると頬を赤くしてぎこちなくほほえみ返された。

「最近はあまり2人でお話する機会もありませんでしたし、こういった時間ができて嬉しいです」

「そうだっけな…」

「えぇ。お邪魔虫が最近はいますから」

「お邪魔虫…」

 誰のことかなんて聞かなくても分かる。本当はそんなかわいい物では片付けられないだろう。阿修羅が目の下に隈を作って話すような人物は1人しかいない。

 一族としては和解しているし夜叉もお邪魔虫・・・・とは仲がいい方なのであまり険悪にはなってほしくない。

「毘沙門天さんからやー様が鍛錬に励んでいらしたことを伺いました。また一緒に飛行訓練もしましょう」

「うん。よろしく」

 険悪というか顔に”嫌”を出す相手は朝来と美百合か…。夜叉は曖昧な笑みで、館内を回っている時の出来事を思い出していた。

 水族館の2階に昇った時、地元の水族館では見られない生き物を見つけた。

 控えめな照明でほの暗い館内で、水槽の中でふよっふよっと舞う透明な生き物。

「これクリオネじゃん! 初めて見たかも」

 流氷の天使、クリオネ。彦瀬たちは一斉に水槽に近寄って珍しい生き物を眺めた。

 しかし彦瀬たちについて行かずに、隣でぐっと押し黙って固まっている人物がいた。

「阿修羅…」

「すみません、あやつのことを思い出してしまいました」

「もしかして歌姫…」

 クリオネ。これは阿修羅の呼び名でもある。ただ1人、美百合からの。クリオネの透けて見える朱色が髪色に似ているから…という理由で。夜叉も”2号”と呼ばれることになってしまった。

「ま、まぁクリオネと阿修羅は違うから気にしないでおこ…」

「…ですね」

 不満そうではあったが阿修羅は真顔になった。しかしクリオネの水槽には近づこうとはしなかった。

 夜叉は彼から離れて彦瀬たちと一緒になって天使を眺めた。なるほど確かに内臓が自分たちの髪色に似ている。他にもあるだろうに、美百合があえてクリオネをチョイスしたのはやはり謎だ。

「…ねぇやまめちゃん。美百合って海の生き物が好きなのかな」

 ここは美百合の大ファンであるやまめに話を聞いた方が早そうだ。同じ一族でも阿修羅は天敵だし夜叉は知り合ったばかりだし。

 夜叉の口から出た意外な人物名にやまめは驚いたようだが、”ファンだから知ってて当然!”と言わんばかりに胸をそらした。

「みゆりんはマリンブルーが好きなんだって。衣装にマリンブルーを取り入れたり…海の生き物も好きなんじゃないかな? 水族館でMV撮ったりヒトデとか貝殻のアクセサリーつけてるし」

「ふ~ん…」

「あれ、やーちゃんってみゆりん好きだったっけ」

「うん割と」

「そうだったんだ! ちょっと今度語り合おうじゃないの」

 同士を見つけたやまめが夜叉と腕を組んでくっついた。

 そんな彼女に今度美百合にサインをもらってこようかと言おうとしたが、イベント外で会える関係について言及されたら面倒なので結局だまることにした。
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