たとえこの恋が世界を滅ぼしても5

堂宮ツキ乃

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4章

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「あら、和馬」

「さくら。さくらたちも来てたんだ」

 イルカショーの会場で階段を昇りながら席を選んでいると、途中で見慣れた顔を見つけて夜叉は立ち止まった。

「俺らは今着いたとこでまずはイルカショーでも見るか、ってここに来たんだ」

「そう。私らは朝一から来てこれ見たら街に戻るとこ」

「へー。ってか隣おいでよ。ここからだとよく見えるよ」

「あ、そう? じゃあ遠慮なく…」

 夜叉たちは和馬のグループに並んで座ることにした。夜叉はしばらくぶりに会う弟にホテルで阿修羅に迷惑をかけなかったかとか、食べ放題のホテルの朝食で食べ過ぎないようにと世話焼きなことを話した。

「別に大丈夫だって。阿修羅もいびきなんてかいてなかったって言ってたし、朝ごはんのバイキングでちゃんと野菜も食べたよ?」

「それならよし」

「あんたって本当に、私の弟ってよりオカンだよね…」

 夜叉は感心してるような呆れたような顔で肩をすくめて正面を向いた。

 この席は中間の高さだが遠すぎず近すぎず、確かにちょうどよく見渡せる位置だ。

「和馬のねーちゃん? もしかして3組?」

 和馬の背中ならひょっこりと現れたのは彼よりずっと小柄で高めの声をした少年だった。一瞬中学生かと思った。

「いや、さくらたちは2組だよ」

「なんだそっか…」

 少年はあからさまに肩を落とした。彼は一体何を言いたいのだろう。夜叉は膝の上で頬杖をついて眉を上げた。

「誰よこの元気っ子」     

「あ、彼は生田友樹いくたともき君。今年同じクラスになったんだ。彼は修学旅行で告白しようとしてる…」

「なんかこの話聞いたことあるような…」

 修学旅行。告白。北海道へ向けて出発した時に誰かに聞かされたような。

 夜叉が頭の片隅から引っ張り出せそう、とひらめき顔になったと同時に彦瀬に肩を掴まれてひっくり返りそうになった。

「あぁ! LI〇Eで回ってきた人!」

「は? 俺晒されてんの?」

「うん」

「やめろよ! 誰がこんなことを…」

「だって誰かが告白するとか皆好きじゃん。彦瀬は応援してるよー」

「あ…ホント?」

 一度は激昂した友樹だが、彦瀬に悪意が無いことが分かると落ち着いた。

 不思議なタイミングで話題の人物に巡り会えたことだし、とショーが始まるまで夜叉たちは友樹の話を聞くことにした。

「い、いずみとは同じ卓球部でたまに一緒に帰ることもあるんだ。もう…笑顔がとにかく可愛い。めっちゃモテてんのに気づいてない鈍感さも可愛い…。しかも練習熱心だしそれなのに勉強をサボらない健気さが好きすぎる」

「なるほど…名前で呼ぶくらい距離が近いんですな」

「やーちゃんの分析が無断に冷静…生田君の熱弁も聞いてあげて…」

「あ、ごめんつい。もし大して話しかけられずに後ろ姿を眺めるだけ…ってほざいたらストーカーかよ! って怒ろうと思っていて」

「俺そんなキャラじゃねぇし! おい和馬、お前のねーちゃん変なヤツじゃね?」

「それはごめん…たまに変なスイッチが入るだけだから許してあげて…」

 身を乗り出している友樹を和馬がなだめて座らせると、夜叉はさして気にした風もなく腕を組んで天井を見上げた。

「泉ちゃんか~…。私はよく知らんな。帰宅部だから」

「私知ってるよ。去年同じクラスだった」

 名乗り出たのはやまめだった。夜叉が”お”、と有力情報を聞けそうだと期待したがすぐにぎょっとした顔つきで身を引いた。

「ねぇねぇ生田君! プロポーズ────おっと、告白大作戦の取材させて!」

「え…は?」

「私のネタのために! プリーズ!」

 夜叉の膝元でノートとボールペンを携えて目を輝かせているやまめはもはや、ただの女子高生ではなかった。完全に取材する記者である。熱愛が発覚した芸能人をしつこく追いかけ回すゲス記者もとい、マスゴミほどではないがなんでもかんでもメモしそうな勢いを持っている。カメラを構えていないだけマシだろうか。

「助けてくれ和馬!」

「うーん。こうなったやまめちゃんは誰にも止められないかな…」

「もうお前ら一体なんなんだよ!」

 夜叉に引き続き現れた妙な野次馬に、友樹は泣きそうな悲痛な叫び声を上げた。
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