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4章
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水族館の見学を終えてバスで街に戻ってきた夜叉たちは、見所の多い商店街で様々なものに目移りしながら海鮮が楽しめる店に入った。
比較的簡素な造りのこの店は魚屋を兼業しており、軒先には今朝とれたばかりという新鮮な魚介類がお行儀よく並べられている。店内には流木でできたテーブルや椅子がいくつか置かれ、夜叉たちは店主に”好きなところに座って”と勧められた。
テーブルに置かれているのは随分と年季の入ったメニュー表。軟質プラスチック製のケースに1枚1枚入れられたそれは手書きで、時々上から別の紙を貼り付けて訂正されていた。
夜叉たちがよく行くようなファミレスとは違い、テーブルの上に呼び出しボタンなんていう物は無い。注文する前に誰がお店の人に声をかける? と押し付け合いをしたが結局全員で一斉に声を上げた。
待っている間にスマホの充電は大丈夫かと心配してモバイルバッテリーを使ったり、水族館で聞いた友樹の話が青春だったと振り返っていた。
やがて運ばれてきたつややかな刺身やいくらが美しく盛り付けられた丼に夜叉はうっとりし、満足するまで眺めた後に刺身を口に運んだ。
「お…おいひ~!」
「良かったねやーちゃん。ずっと海鮮海鮮って言ってたもんね」
「幸せ…ほたてがお口の中でとろけるよ…」
夜叉は頬に手を当てて”ほっぺたが落ちちゃうってこのことか…”と幸せを堪能している。
普段、学校の昼休みでは食事をとらない阿修羅だがこの日は夜叉たちと共に海鮮丼を食べた。
「魚は久しぶりに食べましたが、刺身もなかなかいけますね」
「あーちゃん、魚苦手なの?」
「いえ、意識して食べることがないので最近忘れていただけです」
「そうなんだ。あーちゃんって好き嫌い無さそう」
「そうですね。出されたものはなんでも食べる方だと思います」
「彦瀬と大違いじゃん。しいたけ嫌いの彦瀬さん」
瑞恵に痛いところを突かれて彦瀬はぐっと押し黙ったが、すぐになんでもないフリを装って口笛を吹いた。
「だ、だってりゅうちゃんが食べたがるんだも~ん…」
「犬がしゃべるか!!」
「あ。彦ちゃんは犬飼ってるんだ」
「そうそう。おっきいミニチュアダックスフンドだよ」
「あれ? 小型犬なのに? そういう品種なの?」
「彦瀬が自分が嫌いな物をなんでも食べさせてるからだよ。ひどい飼い主だよね~」
動物を飼ったことがないというやまめは”へ~…”と分かったんだか分かっていないんだか、曖昧な顔と声になった。
とんでもない濡れ衣を着させられそうになっている彦瀬は箸を握り締め、必死になって弁解した。
「バッカ! なんでもは食べさせてないわ! 誤解させるようなこと言わないでくれる?」
「やーちゃん、おかわりする? 海鮮汁もあるって」
「無視すんなし!」
「ほう。貝の味噌汁いいね────…誤解だけに」
「いやさぶっ!」
彦瀬が自分の腕を抱いて身震いをすると、”恥ずかしいから引かないで”と夜叉が睨んだ。
夜叉とやまめが追加で海鮮汁を、瑞恵がメロンソフトを頼んでひと段落すると、一行はこれからの予定について話し始めた。
この店には周辺の観光地の情報が載ったマップやパンフレットが置かれているので、いくつかもらってきて全員で眺めた。昨夜調べたこともあって大体は知っている情報だったが、やまめが小説の資料に使えるからということでもらっていくことにした。
「そういえば昨日さ、人力車のお兄さんに声をかけられている人の話をチラッと聞いたんだけどさ、さすがに高校生のお小遣いでは乗れない金額だった…」
「そうなんだ。まぁ言われて見れば昨日、私たちは全く声かけられなかったな。カップルばっかだったね」
「じゃあ彦瀬。大人になったら彼氏とまた来なよ」
「う~…その時までお預けかぁ…」
人力車に冗談ではなく本気で乗りたかったらしい彦瀬はテーブルに頬杖をついて天井を見上げた。
比較的簡素な造りのこの店は魚屋を兼業しており、軒先には今朝とれたばかりという新鮮な魚介類がお行儀よく並べられている。店内には流木でできたテーブルや椅子がいくつか置かれ、夜叉たちは店主に”好きなところに座って”と勧められた。
テーブルに置かれているのは随分と年季の入ったメニュー表。軟質プラスチック製のケースに1枚1枚入れられたそれは手書きで、時々上から別の紙を貼り付けて訂正されていた。
夜叉たちがよく行くようなファミレスとは違い、テーブルの上に呼び出しボタンなんていう物は無い。注文する前に誰がお店の人に声をかける? と押し付け合いをしたが結局全員で一斉に声を上げた。
待っている間にスマホの充電は大丈夫かと心配してモバイルバッテリーを使ったり、水族館で聞いた友樹の話が青春だったと振り返っていた。
やがて運ばれてきたつややかな刺身やいくらが美しく盛り付けられた丼に夜叉はうっとりし、満足するまで眺めた後に刺身を口に運んだ。
「お…おいひ~!」
「良かったねやーちゃん。ずっと海鮮海鮮って言ってたもんね」
「幸せ…ほたてがお口の中でとろけるよ…」
夜叉は頬に手を当てて”ほっぺたが落ちちゃうってこのことか…”と幸せを堪能している。
普段、学校の昼休みでは食事をとらない阿修羅だがこの日は夜叉たちと共に海鮮丼を食べた。
「魚は久しぶりに食べましたが、刺身もなかなかいけますね」
「あーちゃん、魚苦手なの?」
「いえ、意識して食べることがないので最近忘れていただけです」
「そうなんだ。あーちゃんって好き嫌い無さそう」
「そうですね。出されたものはなんでも食べる方だと思います」
「彦瀬と大違いじゃん。しいたけ嫌いの彦瀬さん」
瑞恵に痛いところを突かれて彦瀬はぐっと押し黙ったが、すぐになんでもないフリを装って口笛を吹いた。
「だ、だってりゅうちゃんが食べたがるんだも~ん…」
「犬がしゃべるか!!」
「あ。彦ちゃんは犬飼ってるんだ」
「そうそう。おっきいミニチュアダックスフンドだよ」
「あれ? 小型犬なのに? そういう品種なの?」
「彦瀬が自分が嫌いな物をなんでも食べさせてるからだよ。ひどい飼い主だよね~」
動物を飼ったことがないというやまめは”へ~…”と分かったんだか分かっていないんだか、曖昧な顔と声になった。
とんでもない濡れ衣を着させられそうになっている彦瀬は箸を握り締め、必死になって弁解した。
「バッカ! なんでもは食べさせてないわ! 誤解させるようなこと言わないでくれる?」
「やーちゃん、おかわりする? 海鮮汁もあるって」
「無視すんなし!」
「ほう。貝の味噌汁いいね────…誤解だけに」
「いやさぶっ!」
彦瀬が自分の腕を抱いて身震いをすると、”恥ずかしいから引かないで”と夜叉が睨んだ。
夜叉とやまめが追加で海鮮汁を、瑞恵がメロンソフトを頼んでひと段落すると、一行はこれからの予定について話し始めた。
この店には周辺の観光地の情報が載ったマップやパンフレットが置かれているので、いくつかもらってきて全員で眺めた。昨夜調べたこともあって大体は知っている情報だったが、やまめが小説の資料に使えるからということでもらっていくことにした。
「そういえば昨日さ、人力車のお兄さんに声をかけられている人の話をチラッと聞いたんだけどさ、さすがに高校生のお小遣いでは乗れない金額だった…」
「そうなんだ。まぁ言われて見れば昨日、私たちは全く声かけられなかったな。カップルばっかだったね」
「じゃあ彦瀬。大人になったら彼氏とまた来なよ」
「う~…その時までお預けかぁ…」
人力車に冗談ではなく本気で乗りたかったらしい彦瀬はテーブルに頬杖をついて天井を見上げた。
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