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5章
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海鮮屋を出た一行は、食べ歩きをしたいと言っていた割には食べ過ぎてしまった…と若干後悔していたが、おいしかったからいっか! と気持ちを切り替えて改めて出発した。
小樽の街にはガラス細工の店がたくさんあり、その中の一軒に夜叉たちは入った。
ガラス細工やトンボ玉のアクセサリー、日用品、置物。落としてしまったら大変なので手には取らず、棚に置かれたきらめく小物たちに見入った。
瑞恵は体をかがめ、トップにあざやかな緑のトンボ玉が通されたペンダントに目を細めた。
「ここで自分のお土産買っちゃっおっかな。学校ではつけられないけどこういうアクセサリーほしかった」
「へぇ。みーちゃんは大人だなぁ…」
「こういうのやーちゃんこそ似合うと思うよ」
「そう?」
「うん。あーちゃんもそう思わない?」
夜叉の隣でネックレスを眺めていた阿修羅は激しく首を縦に振って同意した。
「この…こちらの瑠璃色のガラス玉がやー様の瞳の色と同じでよくお似合いだと思います」
阿修羅が指差したのは細いシルバーのチェーンに、瑠璃色のガラス玉に金箔を散りばめたネックレス。
「えー結構いいかも。小さめで可愛いね」
夜叉は顔を近づけてのぞきこみ、日の光に照らされてつやつやと輝くガラス玉に見とれた。”そうでしょう”となぜか得意げな阿修羅と夜叉を見て、瑞恵は2人の顔を交互に見た。
「前から思ってたけどやーちゃんとあーちゃんの目の色って似てるし綺麗だよね」
「それはまぁ同じ────」
「やー様の瞳は格別に美しいですよね」
阿修羅は瑞恵の隣で情熱的に夜叉の顔を見つめて柔らかくほほえんだ。
はいはい、と受け流した夜叉は逆に2人に似合いそうなアクセサリーを探そうと彼らから目をそらした。
阿修羅にはいつもの着物と同じ水色のガラス玉に白い花柄を舞わせたもの、瑞恵には透き通ったオレンジのガラス玉に朱色の筋が幾重にも重なったものを指さした。
「ほら、これこれ! 2人っぽいじゃん」
「…やーちゃん?」
「おのれ…っ」
「どしたの?」
夜叉の後ろを指さす瑞恵は心なしか頬を染めているように見えた。反対に阿修羅の表情は不機嫌なものに変わっていく。
阿修羅がこんなところで負の感情を強く出すのは珍しい…。というより帰ってきてからは感情を露わにしがちだ。
こんなもんかな…と1人で勝手に納得しかけると肩に手を置かれて振り向かせられ、トンボ玉のネックレスが並ぶ棚の前にフラリと立った。
「君に似合うのはこっち」
そうして白く細長い、それなのに骨ばってて男らしい指で1つのネックレスをさした。
黒地に白い線で波が描かれ、ピンクの小さな桜がいくつも波の上で揺らめいているトンボ玉。可愛いが黒地でしまって見える。大人っぽいデザインに確かに惹かれたが。
「君の名前だって入ってるだろ」
「え────?」
聞き慣れた声。ふわりと聴覚をくすぐるのにどこか突き放すような冷たさを含んでいて、時に夜叉には寄り添ってくれる。
手が置かれたままの肩を引き寄せられ、声の主の胸と自分の背中がぶつかった。振り返ると猫のように気まぐれで底の見えないほほえみを浮かべた男が、唇がふれそうなほど近い距離で彼女のことを見つめていた。
「あさき?」
「やぁ、お姫様。北海道旅行はどう?」
「すごく楽しい…って、なんで!?」
朝来だった。桜柄のトンボ玉のネックレスを手に取ると夜叉に向かって目を細めた。彼は黒のタートルネックにジーンズと薄手のグレーのロングコートを合わせている。
「君がいるならと思ってね。じっとしてられなかったんだ」
彼は夜叉に向かって片目を閉じてみせた。
普通の高校生よりも大人っぽく見える彼は実際高校生よりも大人でむしろ仙人と呼んでいいほど生きている。しかし見た目は青年。
ちょっと年上の男子に憧れがちな年頃の瑞恵は、いつの間に呼んだのか彦瀬とやまめと横に並んで夜叉と朝来を交互に見つめて口元を押さえている。やまめなんかは同時進行で懸命にメモを取っていた。
しかしそれらを良しとせず隅に追いやられて震えていた阿修羅だが、我慢できずに朝来の肩を掴んで夜叉から離れさせた。
「おい待てストーカー野郎! なぜ北の果てにまで来た!」
「ここは言うほど北の果てじゃないだろあーちゃん。それに僕も修学旅行で来ている。ストーカーってのはいただけないなぁ」
「くそっ…」
「かわいい女の子がそんなことを言うもんじゃないよあーちゃん」
「お前にはそう呼ばれたくない!」
小樽の街にはガラス細工の店がたくさんあり、その中の一軒に夜叉たちは入った。
ガラス細工やトンボ玉のアクセサリー、日用品、置物。落としてしまったら大変なので手には取らず、棚に置かれたきらめく小物たちに見入った。
瑞恵は体をかがめ、トップにあざやかな緑のトンボ玉が通されたペンダントに目を細めた。
「ここで自分のお土産買っちゃっおっかな。学校ではつけられないけどこういうアクセサリーほしかった」
「へぇ。みーちゃんは大人だなぁ…」
「こういうのやーちゃんこそ似合うと思うよ」
「そう?」
「うん。あーちゃんもそう思わない?」
夜叉の隣でネックレスを眺めていた阿修羅は激しく首を縦に振って同意した。
「この…こちらの瑠璃色のガラス玉がやー様の瞳の色と同じでよくお似合いだと思います」
阿修羅が指差したのは細いシルバーのチェーンに、瑠璃色のガラス玉に金箔を散りばめたネックレス。
「えー結構いいかも。小さめで可愛いね」
夜叉は顔を近づけてのぞきこみ、日の光に照らされてつやつやと輝くガラス玉に見とれた。”そうでしょう”となぜか得意げな阿修羅と夜叉を見て、瑞恵は2人の顔を交互に見た。
「前から思ってたけどやーちゃんとあーちゃんの目の色って似てるし綺麗だよね」
「それはまぁ同じ────」
「やー様の瞳は格別に美しいですよね」
阿修羅は瑞恵の隣で情熱的に夜叉の顔を見つめて柔らかくほほえんだ。
はいはい、と受け流した夜叉は逆に2人に似合いそうなアクセサリーを探そうと彼らから目をそらした。
阿修羅にはいつもの着物と同じ水色のガラス玉に白い花柄を舞わせたもの、瑞恵には透き通ったオレンジのガラス玉に朱色の筋が幾重にも重なったものを指さした。
「ほら、これこれ! 2人っぽいじゃん」
「…やーちゃん?」
「おのれ…っ」
「どしたの?」
夜叉の後ろを指さす瑞恵は心なしか頬を染めているように見えた。反対に阿修羅の表情は不機嫌なものに変わっていく。
阿修羅がこんなところで負の感情を強く出すのは珍しい…。というより帰ってきてからは感情を露わにしがちだ。
こんなもんかな…と1人で勝手に納得しかけると肩に手を置かれて振り向かせられ、トンボ玉のネックレスが並ぶ棚の前にフラリと立った。
「君に似合うのはこっち」
そうして白く細長い、それなのに骨ばってて男らしい指で1つのネックレスをさした。
黒地に白い線で波が描かれ、ピンクの小さな桜がいくつも波の上で揺らめいているトンボ玉。可愛いが黒地でしまって見える。大人っぽいデザインに確かに惹かれたが。
「君の名前だって入ってるだろ」
「え────?」
聞き慣れた声。ふわりと聴覚をくすぐるのにどこか突き放すような冷たさを含んでいて、時に夜叉には寄り添ってくれる。
手が置かれたままの肩を引き寄せられ、声の主の胸と自分の背中がぶつかった。振り返ると猫のように気まぐれで底の見えないほほえみを浮かべた男が、唇がふれそうなほど近い距離で彼女のことを見つめていた。
「あさき?」
「やぁ、お姫様。北海道旅行はどう?」
「すごく楽しい…って、なんで!?」
朝来だった。桜柄のトンボ玉のネックレスを手に取ると夜叉に向かって目を細めた。彼は黒のタートルネックにジーンズと薄手のグレーのロングコートを合わせている。
「君がいるならと思ってね。じっとしてられなかったんだ」
彼は夜叉に向かって片目を閉じてみせた。
普通の高校生よりも大人っぽく見える彼は実際高校生よりも大人でむしろ仙人と呼んでいいほど生きている。しかし見た目は青年。
ちょっと年上の男子に憧れがちな年頃の瑞恵は、いつの間に呼んだのか彦瀬とやまめと横に並んで夜叉と朝来を交互に見つめて口元を押さえている。やまめなんかは同時進行で懸命にメモを取っていた。
しかしそれらを良しとせず隅に追いやられて震えていた阿修羅だが、我慢できずに朝来の肩を掴んで夜叉から離れさせた。
「おい待てストーカー野郎! なぜ北の果てにまで来た!」
「ここは言うほど北の果てじゃないだろあーちゃん。それに僕も修学旅行で来ている。ストーカーってのはいただけないなぁ」
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「お前にはそう呼ばれたくない!」
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