Eternal dear6

堂宮ツキ乃

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4章

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 見覚えのある後ろ姿だな、と思って声をかけるとやはりそうだった。

 少し長めの黒髪にやや長身、どことなく冷たいオーラが感じられる、最も人間に誓いと言われている精霊。

「こんにちは、彰さん」

「…あぁ。姫さんか」

「フツーに名前で呼んで下さい…」

「俺の中でお前がお姫様であることは違いないからな。この呼び方はやめないつもりだ」

 麓の前では冷たいのかそうでないのか分からない彰。彼は見た目こそ女たらし風だが、実は学園で有名なほどの女嫌いだと言われている。風貌が美しい彼は、麓以外の女精霊を寄せつけることはない。

「そういえば久しぶりだな。会うのはテストの前以来か」

「はい。ところで彰さんはどうされているのですか?」

 今は昼休み。麓は購買でサンドイッチと飲み物を買って、教室に戻ろうとしているところ。

 彰は不敵に笑むと、当然のように言った。

「当たり前だろ。今から橋駅」

「またサボリですか…一体いつになったら卒業するんですか?」

「その時が来たらな」

「でも、もうすぐ冬休みですよ。せめてこの時期だけはサボるのをやめませんか?」

「んーそうだな。姫さんの言う通りことには一理ある…しょうがない、サボるのは来年まで待つことにすること」

 本当は未来永劫、サボるのをやめてほしいところだが。

 それはそれで彰らしい、ということで済ませる。

「彰さんは冬休みにご予定はありますか? クリスマスとか…」

「予定? 希望を言うなら────姫さんと聖夜を過ごしたいかな…」

 伏し目がちに甘く話す彰の言葉は、冗談に聞こえなくない。

 麓が聖夜を過ごしたいのは、というか過ごすのは。

「…なんてな。本当にそうしてもいい所だが、お前は風紀委員のお姫様だから。姫さんを守護する騎士に命を狙われそうだからやめておくよ」

「騎士って…」

 名前は言われなくても分かる。彰のクラスメイトであり、ただならぬ因縁の相手である凪のことだ。

 麓は凪が中世の騎士のように、シルバーの光沢を放つ甲冑で体を覆っている姿を想像してみた。

 背中には深紅のマント、腰には『海竜剣』ではなく洋剣、跨るのは白馬。

 白馬の上で兜を外し素顔をさらした彼は、”周りに敵なし”とでも言いそうな余裕の笑みを浮かべていて────。

「姫さん?」

「…はっ!」

 麓は彰の声で現実に戻った。一瞬で妄想の世界に飛び立っていた。

 彰は腰を若干かがめ、麓の顔をのぞきこんでいる。

「どうした? 顔が赤い気がするが」

「何もありません!」

「ならいいが。熱でもあるかと思った」

 彰はひんやりとした手を麓の額に当てた。火照った体が落ち着く。

「すみません…話を中断して」

「いや、いいんだ、気にするな」

 クリスマスの予定を再び聞くと、彰はもったいぶるように一度視線を別の場所へそらした。再び麓と目を合わせると、目を細めて小声になった。

「あるぜ…大切な人と過ごすつもりだ。ただし、イブなんだけどな」

「大切な人…えっ」

 彰の口からそんな言葉が飛び出てくるとは。驚きが表に出てしまい、見逃さなかった彰は、麓の髪の毛の先を弄び始めた。表情はわざとらしくむくれている。

「へー。姫さんは俺は寂しい男だと思っていたのか」

「す、すみません! 意外だなって思ってしまいました…」

「はい。今のでさらに傷ついたー」

 思わぬ失言に麓は再び謝った。

 罪悪感の後には、彰の大切な人についての好奇心が湧いてきた。

「大切な人って、ブティックの方ですか?」

「ん? 確かに大切だが…ここでは意味が違うな」

「へー…。じゃあ、女性ですか? …でも彰さんは女性が苦手だから、それはないですよね」

「女だよ」

 彼は麓の言葉に首を振り、彼女の頬をそっとなでた。

アイツ・・・と姫さんならいい。他には興味ない」

「そうなんですか…?」

 彰にふれられている部分が熱い。それ以前に、大切な女性がいるのにこんなことをしていいのか…。やがて彼はスッと離れた。

 麓に背を向け、片手を上げた。

「いつか姫さんに会わせてやるよ────俺の隣にいる時・・・・・・・のアイツを」
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