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2章
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晩御飯の後、シャワーを浴びた麓は食堂へ降りた。
自室の冷蔵庫に常備してあるミネラルウォーターがなくなったからだ。
(…あ)
最初に目に入ったのは、テーブルに突っ伏して眠っている凪の姿。
いつもの着流しの色より薄い寝巻き姿で、背中にゆっくりと上下させている。どうやら熟睡中のよう。
入浴後なのか、髪はしっとりと濡れていた。
そのままでは風邪を引きそうだから、麓は遠慮がちに凪に声をかけた。
「凪さん? 起きて下さい、風邪ひきますよ」
…効果なし。気持ちよさそうにかすかな寝息が響くだけ。
すると、洗い物を終えたらしい寮長が手を拭きながら台所から出てきた。
「凪様のことはほっといてよろしいですよ。風邪なんて引くようなヤワな精霊じゃありません。それに起きていても勉強しないようなバカ…」
「誰がバカだ」
「…とんだ地獄耳の持ち主でしたわね」
寮長は視線をそらしてピューッと口笛を吹いてみせる。
「いいんですか? テスト、もうすぐなのに」
麓の言葉が自分に当てた物だと分かると凪は、頭をかきながら話した。
「俺はいーんだよ俺は。伊達に何回もテスト受けてるわけじゃねェし」
「へェ…」
その様からは年長者の風格が漂っている。やがて彼は椅子から立ち上がった。
「部屋に戻るわ」
「あ。私は水を」
麓は寮長から渡されたコップ1杯の水を飲み干し、部屋に戻ろうと思ってコップを洗った。
寮長は洗濯をしてくると言ってもういない。
「いたいた」
階段から降りてきたのは教師コンビ。麓はペコリと頭を下げた。
「こんばんは。お2人はどうされたのですか?」
年上相手には相も変わらず丁寧な態度を取る麓に苦笑しつつ、2人は椅子を引いて腰掛けた。
「私も扇も君に用があって。こっちの都合で遅くなってごめんね。君に勉強を教えるのが遅くなって」
そう言われて麓はしばらく前のことを思い出す。
国語の授業が終わってから放課に勉強をしていた所、霞に"分からない所を教えてあげる"と言われたのだ。
数学に関しても同じ。麓は普段から数学に苦手な意識を持っているし、基本的な問題は良くても応用問題になるとつまずくことが度々。
「ということで今からどっちかと勉強しようか」
「えっと…」
麓は自分にほほえみかける2人のこと。見て悩む。
以前蔓から聞いたことを不意に思い出す。寝る前に勉強した教科が1番頭に定着しやすいと。
────暗記系がええと思うよ。あ、逆に数学やるとめっちゃ眠気におそわれる。俺特有やのうて数学苦手に思てる人、ほとんどやないかな。
だったらここでは。
「ん? 何してんだおめーら」
部屋に戻ったハズの凪が再び現れた。その手には勉強道具一式。さらに毛布も。
「今から勉強を教えてもらうんです」
「ふ~ん…。2人にか」
「いえ、今日は霞さんに」
「よっしゃ!…じゃない、いいよ」
「んじゃ俺は今度ね。…チッ」
麓に気づかれない程度に火花を散らした2人。ドヤ顔をした霞に対して扇は顔をそらして舌打ちをした。
「すみません、扇さん。この前クラスの人に寝る前の数学はオススメしないって聞いたんです。なので今度、日中にお願いしてよろしいですか?」
「いーよ! 麓ちゃんならいつでもいいから! じゃっ、頑張ってね~」
美少女のフォローに扇はたちまち上機嫌に変わった。彼は麓に片目をつむって見せ、口笛を拭きながら階段を上がった。
「…なんだアイツ」
「凪には分からないのかい? 恋する男なんて単純な生き物なんだよ」
「べっつにどうでもいいわ」
彼は霞の隣の椅子を引いて勉強道具を置いた。どうやらここで勉強するようだ。
「じゃあさっそく私たちも勉強しようか」
「はい。教科書とノートを持ってきますね」
「いや。その必要はないよ。麓ちゃんに面倒をかけるわけにはいかないから」
「え?」
「麓ちゃんの部屋で勉強しよう」
パキッと、凪のシャーペンの芯が折れる音がした。
麓はそれを気にすることなく、にこやかに言う霞の提案にうなずきかけた。
「じゃあそれで────」
「ちょっと待たんかい」
凪が霞の後ろ髪をつかむ。霞はぶぅたれて青髪の男に向ける目を細めた。
「なんだよ凪。文句でも?」
「言いたいことありまくりだ。どうせ勉強教えるなんて口だけだろ」
「教えます─ちゃんと! 事故ったフリして押し倒すとか考えてま────」
「手ぇ出す気満々じゃねェかこのオオカミが!」
「いだだだだっ! そんなに強く髪引っ張ったら抜ける! ハゲる! トレ〇ンの斎藤さんになっちゃう!」
「なればいいだろなれば! 薄毛系男子になれ長髪系男子!」
勢いよく凪に髪を引っ張られ、霞はその痛みに涙目になっている。それを見ている麓は"痛そ~…"とだけ。
でもさっきの"こい"という言葉────
クラスマッチの後に立花が凪に告白した現場を見た時に感じた疑問が、再び湧き上がってきた。
自室の冷蔵庫に常備してあるミネラルウォーターがなくなったからだ。
(…あ)
最初に目に入ったのは、テーブルに突っ伏して眠っている凪の姿。
いつもの着流しの色より薄い寝巻き姿で、背中にゆっくりと上下させている。どうやら熟睡中のよう。
入浴後なのか、髪はしっとりと濡れていた。
そのままでは風邪を引きそうだから、麓は遠慮がちに凪に声をかけた。
「凪さん? 起きて下さい、風邪ひきますよ」
…効果なし。気持ちよさそうにかすかな寝息が響くだけ。
すると、洗い物を終えたらしい寮長が手を拭きながら台所から出てきた。
「凪様のことはほっといてよろしいですよ。風邪なんて引くようなヤワな精霊じゃありません。それに起きていても勉強しないようなバカ…」
「誰がバカだ」
「…とんだ地獄耳の持ち主でしたわね」
寮長は視線をそらしてピューッと口笛を吹いてみせる。
「いいんですか? テスト、もうすぐなのに」
麓の言葉が自分に当てた物だと分かると凪は、頭をかきながら話した。
「俺はいーんだよ俺は。伊達に何回もテスト受けてるわけじゃねェし」
「へェ…」
その様からは年長者の風格が漂っている。やがて彼は椅子から立ち上がった。
「部屋に戻るわ」
「あ。私は水を」
麓は寮長から渡されたコップ1杯の水を飲み干し、部屋に戻ろうと思ってコップを洗った。
寮長は洗濯をしてくると言ってもういない。
「いたいた」
階段から降りてきたのは教師コンビ。麓はペコリと頭を下げた。
「こんばんは。お2人はどうされたのですか?」
年上相手には相も変わらず丁寧な態度を取る麓に苦笑しつつ、2人は椅子を引いて腰掛けた。
「私も扇も君に用があって。こっちの都合で遅くなってごめんね。君に勉強を教えるのが遅くなって」
そう言われて麓はしばらく前のことを思い出す。
国語の授業が終わってから放課に勉強をしていた所、霞に"分からない所を教えてあげる"と言われたのだ。
数学に関しても同じ。麓は普段から数学に苦手な意識を持っているし、基本的な問題は良くても応用問題になるとつまずくことが度々。
「ということで今からどっちかと勉強しようか」
「えっと…」
麓は自分にほほえみかける2人のこと。見て悩む。
以前蔓から聞いたことを不意に思い出す。寝る前に勉強した教科が1番頭に定着しやすいと。
────暗記系がええと思うよ。あ、逆に数学やるとめっちゃ眠気におそわれる。俺特有やのうて数学苦手に思てる人、ほとんどやないかな。
だったらここでは。
「ん? 何してんだおめーら」
部屋に戻ったハズの凪が再び現れた。その手には勉強道具一式。さらに毛布も。
「今から勉強を教えてもらうんです」
「ふ~ん…。2人にか」
「いえ、今日は霞さんに」
「よっしゃ!…じゃない、いいよ」
「んじゃ俺は今度ね。…チッ」
麓に気づかれない程度に火花を散らした2人。ドヤ顔をした霞に対して扇は顔をそらして舌打ちをした。
「すみません、扇さん。この前クラスの人に寝る前の数学はオススメしないって聞いたんです。なので今度、日中にお願いしてよろしいですか?」
「いーよ! 麓ちゃんならいつでもいいから! じゃっ、頑張ってね~」
美少女のフォローに扇はたちまち上機嫌に変わった。彼は麓に片目をつむって見せ、口笛を拭きながら階段を上がった。
「…なんだアイツ」
「凪には分からないのかい? 恋する男なんて単純な生き物なんだよ」
「べっつにどうでもいいわ」
彼は霞の隣の椅子を引いて勉強道具を置いた。どうやらここで勉強するようだ。
「じゃあさっそく私たちも勉強しようか」
「はい。教科書とノートを持ってきますね」
「いや。その必要はないよ。麓ちゃんに面倒をかけるわけにはいかないから」
「え?」
「麓ちゃんの部屋で勉強しよう」
パキッと、凪のシャーペンの芯が折れる音がした。
麓はそれを気にすることなく、にこやかに言う霞の提案にうなずきかけた。
「じゃあそれで────」
「ちょっと待たんかい」
凪が霞の後ろ髪をつかむ。霞はぶぅたれて青髪の男に向ける目を細めた。
「なんだよ凪。文句でも?」
「言いたいことありまくりだ。どうせ勉強教えるなんて口だけだろ」
「教えます─ちゃんと! 事故ったフリして押し倒すとか考えてま────」
「手ぇ出す気満々じゃねェかこのオオカミが!」
「いだだだだっ! そんなに強く髪引っ張ったら抜ける! ハゲる! トレ〇ンの斎藤さんになっちゃう!」
「なればいいだろなれば! 薄毛系男子になれ長髪系男子!」
勢いよく凪に髪を引っ張られ、霞はその痛みに涙目になっている。それを見ている麓は"痛そ~…"とだけ。
でもさっきの"こい"という言葉────
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