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2章
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麓のみ、霞か扇に勉強を教えてもらう時は食堂を使うことを決められた。
理由は先ほどの一連の出来事。霞の腹の中にあるよからぬことが判明したからだ。麓はその"下心"についてよく理解ができなかったが。
────うん、それでいいよ。麓ちゃんには純粋なままでいてほしいし。
────…?
────あー分かんなくていいから。知ってても知らなくても損は無ェよ。
その時の彼女が疑問で頭を悩ませ、首をかしげる様子は、凪が見ていておもしろかった。
霞は"かわいい~"と表情をほっこりとさせて、麓の頭をなでていた。
あの山の娘が来て以来、こんなことが多くなった気がする。
以前まではここでの女と言ったら寮長だけ。しかし彼女は人間で、おまけに精霊の男に張り合おうとする気合いとヘアピン投げという特技を持っているから、誰もあのような目で見ることはなかった。
しかし麓は────若くおとなしく、世間をことをほとんど知らなかった箱入り娘ならぬ山入り娘であるため、それが(凪以外の)風紀委員たちの心に火をつけてしまった。だが彼女は未だに気づいてないようだけど。
「どう? 覚えてきた?」
「はい。これでテストはなんとかなりそうです」
麓は凪の正面でほっと安堵した笑みを見せた。
あれから凪も食堂で勉強をすることになった。あのまま部屋に戻ったらすぐに眠気に襲われてベッドに突っ伏すだろうと思って。ここならすぐに眠られる場所はないし、正面で勉強をしている麓の姿を見ていると、珍しく自分にも勉強を真面目に取り組もうという気になれた。
「ま。君は元がいいんだから大丈夫。心配をする必要はないよ」
「本当ですか?」
「あぁ君の賢さは入試の時からよく分かっているよ」
そう言うと霞は椅子から立ち上がった。
「さ、もう寝たら? さっきからだいぶ眠たそうだよ。それに夜更かしは美と健康の大敵だろう? …ってのは寮長が言ってたことなんだけどね」
「そうですか…。でもあと少し、勉強します。確かに眠たいけどもうちょっと納得するまでやりたいので」
「そっか、分かった。先生嬉しいよ。こんなに勉強熱心な生徒がいて。凪なんて教師を頼るどころか"誰の手助けもいらねェよバーカ"だから…」
そこで今まで黙ってシャーペンを動かしていた凪がムッとして顔を上げた。
「本音だからいーだろうが。"素直な生徒"って評価しろよ」
「凪の場合は違うだろう。"素直な生徒"っていうのは見た目も可愛らしい麓ちゃんのことだろ!」
「…もうどうにでもなれアホ教師」
先程から霞による麓のベタ褒めに飽きてきたので、凪はあっさりと勉強に戻った。
「褒めることで伸ばしてるんだよ、私たち教師は。その辺分かってほしいな! 教師適齢年齢をとうに超えてる精霊には」
「ふーん…。俺は褒めるにしてもベッタベタに言うよりただ一言────相手の心に染みる言葉を送る方がいいと思うけどな」
夜の本来の沈黙が辺りを包み、凪は不思議に思って2人のことを見た。霞は眼鏡を外して目をこすっている。麓も心を動かされたような表情をしていた。
「あ? なんだよ2人とも」
「いや…。凪がそんなことを言えるなんて思わなくて────感動しちゃったよ」
「意外でした」
「なんだよそれ…。何気失礼じゃねェか。特におい、霞。泣くなコノヤロー。俺だってこれくらいのこと言えるぞコラ」
やがて霞はおやすみと告げて自室へ戻った。
麓はずっとここで勉強していたせいか離れがたくなってしまった。
凪もここでまだ勉強するらしい。
お互い、話題を出すことなく集中していたが、突然凪が口を開いた。
「そろそろ校外学習の時期か? 行き先は決めたのか?」
「はい。橋駅と一川本陣資料館に行こうかと」
「誰か歴史好きなヤツがいるのか」
「いえ、そうじゃなくて。ただ単に私が富橋の歴史を知りたいだけです」
ここ富橋には江戸時代、宿駅が2つ存在した。
そのうちの1つが一川。それは当時本陣と呼ばれて大名や公家など貴人の泊まる宿があった。それは一川本陣と呼ばれた。
現在は当時のまま残された本陣を資料館として使われている。
「懐かしいな。泊まりはしなかったけど、ちょろっと見に行ったぜ。参勤交代ってわかるか? そん時にお偉いさんは家来を引き連れてぞろぞろと集団で歩くからよ、庶民はその間ずっと頭を下げてなきゃなんねーからばったり会わないようによく逃げたわ」
「…なんか今日はよく話しますね?」
「そうか? もしかしたら眠いのを通り越してテンションがおかしくなってんのかもな。あとはただ単純に懐かしいだけから、か」
凪の珍しい姿を見て少し得した気分になった。夜更かしをして勉強をした甲斐があったのかもしれない。
(もうさすがに寝るか…)
凪はあくびをしてシャーペンを置き、目の前に座る麓のことを見たら彼女は────寝落ちていた。
(いつの間に? 全く気づかなかった…)
自分が寝そうだったのにまさか彼女が。
麓はシャーペンを握ったまま、すうすうと寝息をたてている。よほど張り切っていたのだろう。疲れが出たらしい。
しばらくその寝顔を見つめていたが苦笑をし、隣にある毛布をかけてやろうと立ち上がる。
(しょうがねェな…。眠たいんなら自分の部屋に戻ればいいものを)
心の中で悪態をつきながらも手つきは優しい。
自分の部屋に戻るのは面倒、と思った彼は勉強道具を隅に追いやって机に突っ伏した。
凪も大概、人のことを言えない。
理由は先ほどの一連の出来事。霞の腹の中にあるよからぬことが判明したからだ。麓はその"下心"についてよく理解ができなかったが。
────うん、それでいいよ。麓ちゃんには純粋なままでいてほしいし。
────…?
────あー分かんなくていいから。知ってても知らなくても損は無ェよ。
その時の彼女が疑問で頭を悩ませ、首をかしげる様子は、凪が見ていておもしろかった。
霞は"かわいい~"と表情をほっこりとさせて、麓の頭をなでていた。
あの山の娘が来て以来、こんなことが多くなった気がする。
以前まではここでの女と言ったら寮長だけ。しかし彼女は人間で、おまけに精霊の男に張り合おうとする気合いとヘアピン投げという特技を持っているから、誰もあのような目で見ることはなかった。
しかし麓は────若くおとなしく、世間をことをほとんど知らなかった箱入り娘ならぬ山入り娘であるため、それが(凪以外の)風紀委員たちの心に火をつけてしまった。だが彼女は未だに気づいてないようだけど。
「どう? 覚えてきた?」
「はい。これでテストはなんとかなりそうです」
麓は凪の正面でほっと安堵した笑みを見せた。
あれから凪も食堂で勉強をすることになった。あのまま部屋に戻ったらすぐに眠気に襲われてベッドに突っ伏すだろうと思って。ここならすぐに眠られる場所はないし、正面で勉強をしている麓の姿を見ていると、珍しく自分にも勉強を真面目に取り組もうという気になれた。
「ま。君は元がいいんだから大丈夫。心配をする必要はないよ」
「本当ですか?」
「あぁ君の賢さは入試の時からよく分かっているよ」
そう言うと霞は椅子から立ち上がった。
「さ、もう寝たら? さっきからだいぶ眠たそうだよ。それに夜更かしは美と健康の大敵だろう? …ってのは寮長が言ってたことなんだけどね」
「そうですか…。でもあと少し、勉強します。確かに眠たいけどもうちょっと納得するまでやりたいので」
「そっか、分かった。先生嬉しいよ。こんなに勉強熱心な生徒がいて。凪なんて教師を頼るどころか"誰の手助けもいらねェよバーカ"だから…」
そこで今まで黙ってシャーペンを動かしていた凪がムッとして顔を上げた。
「本音だからいーだろうが。"素直な生徒"って評価しろよ」
「凪の場合は違うだろう。"素直な生徒"っていうのは見た目も可愛らしい麓ちゃんのことだろ!」
「…もうどうにでもなれアホ教師」
先程から霞による麓のベタ褒めに飽きてきたので、凪はあっさりと勉強に戻った。
「褒めることで伸ばしてるんだよ、私たち教師は。その辺分かってほしいな! 教師適齢年齢をとうに超えてる精霊には」
「ふーん…。俺は褒めるにしてもベッタベタに言うよりただ一言────相手の心に染みる言葉を送る方がいいと思うけどな」
夜の本来の沈黙が辺りを包み、凪は不思議に思って2人のことを見た。霞は眼鏡を外して目をこすっている。麓も心を動かされたような表情をしていた。
「あ? なんだよ2人とも」
「いや…。凪がそんなことを言えるなんて思わなくて────感動しちゃったよ」
「意外でした」
「なんだよそれ…。何気失礼じゃねェか。特におい、霞。泣くなコノヤロー。俺だってこれくらいのこと言えるぞコラ」
やがて霞はおやすみと告げて自室へ戻った。
麓はずっとここで勉強していたせいか離れがたくなってしまった。
凪もここでまだ勉強するらしい。
お互い、話題を出すことなく集中していたが、突然凪が口を開いた。
「そろそろ校外学習の時期か? 行き先は決めたのか?」
「はい。橋駅と一川本陣資料館に行こうかと」
「誰か歴史好きなヤツがいるのか」
「いえ、そうじゃなくて。ただ単に私が富橋の歴史を知りたいだけです」
ここ富橋には江戸時代、宿駅が2つ存在した。
そのうちの1つが一川。それは当時本陣と呼ばれて大名や公家など貴人の泊まる宿があった。それは一川本陣と呼ばれた。
現在は当時のまま残された本陣を資料館として使われている。
「懐かしいな。泊まりはしなかったけど、ちょろっと見に行ったぜ。参勤交代ってわかるか? そん時にお偉いさんは家来を引き連れてぞろぞろと集団で歩くからよ、庶民はその間ずっと頭を下げてなきゃなんねーからばったり会わないようによく逃げたわ」
「…なんか今日はよく話しますね?」
「そうか? もしかしたら眠いのを通り越してテンションがおかしくなってんのかもな。あとはただ単純に懐かしいだけから、か」
凪の珍しい姿を見て少し得した気分になった。夜更かしをして勉強をした甲斐があったのかもしれない。
(もうさすがに寝るか…)
凪はあくびをしてシャーペンを置き、目の前に座る麓のことを見たら彼女は────寝落ちていた。
(いつの間に? 全く気づかなかった…)
自分が寝そうだったのにまさか彼女が。
麓はシャーペンを握ったまま、すうすうと寝息をたてている。よほど張り切っていたのだろう。疲れが出たらしい。
しばらくその寝顔を見つめていたが苦笑をし、隣にある毛布をかけてやろうと立ち上がる。
(しょうがねェな…。眠たいんなら自分の部屋に戻ればいいものを)
心の中で悪態をつきながらも手つきは優しい。
自分の部屋に戻るのは面倒、と思った彼は勉強道具を隅に追いやって机に突っ伏した。
凪も大概、人のことを言えない。
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