Eternal Dear1

堂宮ツキ乃

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3章

13

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「麓様ー? 入ってもよろしいでしょうかー?」

 ノック音の後に聞こえたのは寮長の声。制服を注文するために寸法が測らせてほしいと言われている。

 で、その測定とやらが今から。

「うーん…麓様は────でしょ」

 寮長は麓の体を視線でなぞり、3つの数字を言い放った。瞬間、麓は身を守るように肩を抱き、後ずさって頬を赤らめて震えた。

「なっ…なんで!?」

 寮長はおびえる麓に、ニヤリとした笑みを見せた。

「私は様々な精霊を見てきていますから。だから視線で測定可能なのですよ────スリーサイズを!」

 彼女は得意気に胸をそらした。

 彼女が得意なのは料理やヘアピン投げだけではなかった。目もよく利く。

「ということで寸法測定は以上でございます」

「早かったですね…」

 一礼した寮長に麓は頬を引きつらせ、彼女が部屋から出ていくのを見送ろうとしたがそのような素振りはなかった。

「寮長さん?」

「麓様。ついでに制服の規定についてお話し致しますね。基本的には…ちゃんと着こなすことでしょうか。あまり乱れていますと風紀委員にチェックされます」

「へぇ…」

「チェックされるのはやはり、女子が多いようですわ。短いスカートを好む生徒が多いのでしょうね。あるいはイケメン風紀委員に注意されt…これはどうでもいいですね」

「規則があるならボクは守ります。それに短いスカート…というかスカート自体、履き慣れてないです」

「はいそこォ!」

 突然、寮長はキランッと目を光らせてビシィッと人差し指を麓に向けた。今の言葉で何か思ったことでも…。

「…あっ!」

 麓はとんでもないことを口に出したことにやっと気付き、慌てて口元を押さえたが時すでに遅し。

「麓様。あなたはれっきとした女子でいらっしゃいますね」

 確信した、といえような寮長の顔を見て麓はうつむいた。

 嘘をついていたことがバレたのだ。きっと怒られるだろうと覚悟をした。

「私、初めてお会いした時から気付いてましたわよ?」

「えぇっ!? 男装は完璧なハズなのに…」

 麓がスーツのあちこちを見ていると、寮長はものすごい勢いで首を振った。

「甘い! 甘過ぎますわ麓様! それのどこが完璧な男装なのです!? あなたの声、手足、線の細さ、仕草に…美しいお顔! その女らしい全てを隠し通そうだなんて、カニとかにかまを見分けることの方がよっぽど難しいですわ! それにこの寮長を騙そうとするなんて千年も早い!」

「せ、千年…」

 いろいろとダメ出しをされてショックを受けつつ、麓は自分の手を見た。

 風紀委員の男らしいゴツゴツとした感じの手と比べると、小さくて頼りない。腕も足もずっと細い。

 今までほとんど知らなかった男女の違い。自分が考えていたよりも、それは多かった。

 寮長はふぅ、と息をついて落ち着いた声で話し始めた。

「…なぜ、このようなことを? よかったらこの寮長にお話し下さいな。同じ女として、何かお力になれることがあるかもしれません」

 麓はしばし迷ったが寮長なら信頼できる、と話すことにした。

 この学園に入ることの不安、迷い。寮長は黙って聞いていた。

「よく分からないんです。他の精霊のことが。ちょっと怖くて、自分の身をどう守ろうかって」

「なるほど…。今までの生活からそんな風に考えてしまうのですね…。それに、若い娘さんですものね」

「男に生まれていたららこんなことを考えずに済んだでしょうか?」

「いえいえ。そんなことはありませんよ。新しい生活への不安や迷いだなんて男も女も変わりないと思いますわ」

 男も女も変わりない。果たして自分のこの気持ちはどこから湧いてくるのだろう。女という性? 他の精霊と会ったことがない寂しさ?

「麓様は今までお1人ではなかったでしょう。周りに精霊がいなかった、というのはごく稀ですけど…。あなたは獣たちと暮らしていたでしょう?」

 その言葉に麓は気付かされた。あの獣たちは一緒にいるのが当たり前過ぎて、言われるまで考えてなかった。

「私の家族、みたいな感じでした」

「そうでしょう? 麓様はここでさらにたくさんの精霊と知り合いになれますよ。それにもう、すでにいるじゃないですか。私と風紀委員たちが」

 寮長に安心させるように声をかけられると、麓の脳裏に寮長と風紀委員の面々が振り向いて笑いかけてくれる画が浮かんだ。

 が、ただ1人。くわえ煙草の凪は煙を吐き出して背を向けたまま。麓には興味ない、と語っているような背中。

 そのせいか麓は寮長の言葉にうなずけなかった。 

「今はそう思えなくても、いつかは思って下さいね。私は────私たちは麓様を歓迎してますから」

「寮長さんは優しいんですね」

「そうですか? 思ったことを言っただけですよ」

 寮長は麓のポニーテールにそっとふれる。思わず麓は顔を上げた。

「今、こうして姿形を偽っていてもいつかは女であることがバレるでしょう。時間の問題かもしれません。麓様はいつまでそのお姿を続けるおつもりですか?」

 寮長が首を傾げると、麓は目を伏せた。

「分かりません────正体がバレるまで、でしょうか」

「なるほど。そんな麓様に、良いことを教えて差し上げましょう」

 彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべた。

「男の方はですね、女をか弱いとお考えなのです。やはり女の方も"男に比べたら…"というお考えをお持ちになっているでしょう。そこで私は思ったのです────女だけの特権があると」

「特権?」
 
 麓が聞き返すと寮長は鷹揚にうなずいてみせた。

「えぇ。男は自己満足を得られ、女は安心していられる。それこそが女の特権にございます。つまり…男に守ってもらうこと、です」

「守ってもらう…」

 麓は今まで守る側だった。自分のことも、獣や草木、山全体を。

 それこそが自分の使命だから。

「頑なに心を開かずに男装を続けるのではなく、ありのままの姿で接するのはどうでしょうか? 私は本当の麓様とお会いしたいです。同じ女として」

 寮長の言葉は説得力があって心の中に溶け込んでいく。

「今まではそうではなくても学園の中では守ってもらってはいかがでしょうか? 麓様はしっかりしていらっしゃいますから、時々心配になるのです…。誰かに甘えてもいいのですよ」
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