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4章
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(女の特権…か)
寮長がいなくなってから、麓はベッドにつっ伏していた。
自分の心に迷いが生じてきている。始業式前には女だということを話してしまおうかと。
たった1日過ごしただけだが、男性を演じるのは思ったよりもキツい。設定を忘れそうにもなる。
かと言ってあっさりと引き下がるのも意志が弱いようでためらいがある。
(守ってもらう、というだけも…)
山を守り、そこに住む生き物たちの傷を癒すことが麓の役目。
麓がベッドの上でゴロゴロしながら考え事をしている時、外では太陽が南の空に昇ろうとしていた。
同じ頃、食堂では寮長たちが日本茶を片手に茶菓子を食べながら話し合っていた。
「はぁ…もったいないですわ。綺麗な娘さんでいらっしゃるのに…これじゃあ全身コーディネートができませんわ」
寮長は頬に手を当て、ため息をついて残念がっている。その様子を凪はドン引きした目で見ていた。
「おいおいあの娘を着せ替え人形にするつもりか…?」
「失礼ですね! 女として着飾ることは当然です。それに麓様はピッチピチの180歳! 街へ出掛ければたちまち流行モノに惹かれますわ…!」
寮長は拳を握りしめ、瞳を情熱的に燃えたぎらせている。扇は苦笑いをしてお茶をすすって、海苔せんべいに手を伸ばした。
「精霊にピチピチもシワシワも関係ないけどね。でも俺も見たいわ~麓ちゃんの女の子らしい姿」
「おめーのは下心からだろ。そのうち教師免許を強制剥奪されるぞ」
「失礼な! そんなのありませーん────5割は」
「半分そうなのかよ。あいつにはこのまま男装を続けてもらおうか。危険な男が2人もいやがる」
え~。と扇は不平そうな声を出して口をとがらせた。
凪はため息をついてえびせんべいをかじった。寮長がこだわっているのか茶菓子は老舗物が多く、味は折り紙つきだ。日本茶も常に優良品の玉露茶。
「とにかく! こればかりは本人の問題だ。周りが無理矢理、じゃなくて自分で決心させる方がいいんじゃねーのか?」
「じゃあ凪様は…?」
「俺はあいつが男として偽ろうが女として正体をバラそうが知ったこっちゃねー。首つっこむことじゃねェしつっこまないべきだろ」
「さすがは委員長、相変わらず厳しいね~。"俺らの組織"に入れる前にこれが先か」
「そういうこった」
凪は目を閉じてわずかに唇をゆるめた。それに合わせてか扇も微笑む。
ただ1人、寮長は扇の言葉をスルーできなかった。
「お待ちください。風紀委員に…いえ、天神地祇に麓様をお入れになるつもりですか?」
「そう聞こえなかったか?」
「だからって…勝手過ぎでしょう。本人にはお話されたのですか?」
「や、まだ。っつーかさ…俺、頼まれてんだよあの娘のこと。しかも理事長に」
凪は頭をガッシガッシとかいて本心を明かした。
「理事長自ら? マジか」
初耳の扇は目を見張って、凪の顔をまじまじと見つめている。
「マジだ。大マジ。んで近くに置いておいた方がいいかもな、っちゅーこと」
「理事長がおっしゃったことならば、反対すべきじゃありませんね。しかし…麓様の安全はどうするのですか?」
「細心の注意を払う。幸い、光が同じクラスだし蒼も同じ校舎。担任は…扇か霞にするしかねェか。すんげー心配だけど」
凪は半眼で扇のことを見ている。心の中ではもう1人の男のことも。
寮長はしばらく難しい顔をしていたが、ふっとゆるんだ。
「分かりました。認めましょう。私もヘアピン戦闘の腕を上げますわよ!」
力強く腕をまくった寮長に凪は横を向いて皮肉げな笑みを浮かべた。
「今でも十分あんたは強いだろーが。熊を倒せるくらいな」
「なんですかその私の評価! 私がゴリゴリの屈強な女みたいじゃないですか!」
「え?そうじゃねーの?」
凪が意外そうな表情をすると、鼻先をヘアピンがかすめて壁に刺さった。寮長は氷の微笑を浮かべてもう1本のヘアピンを構えている。
「凪様…冗談でもそのようなことをおっしゃってはいけませんよ…? 次は心臓を狙いますわ」
「やめろコラ! 殺人事件起こすつもりか!」
「起こしてもいいのですよ…?」
「…ったく。ハハ…」
傍観者である扇にとってこの2人の様子は、いつ見てもおもしろくて飽きないものであった。
寮長がいなくなってから、麓はベッドにつっ伏していた。
自分の心に迷いが生じてきている。始業式前には女だということを話してしまおうかと。
たった1日過ごしただけだが、男性を演じるのは思ったよりもキツい。設定を忘れそうにもなる。
かと言ってあっさりと引き下がるのも意志が弱いようでためらいがある。
(守ってもらう、というだけも…)
山を守り、そこに住む生き物たちの傷を癒すことが麓の役目。
麓がベッドの上でゴロゴロしながら考え事をしている時、外では太陽が南の空に昇ろうとしていた。
同じ頃、食堂では寮長たちが日本茶を片手に茶菓子を食べながら話し合っていた。
「はぁ…もったいないですわ。綺麗な娘さんでいらっしゃるのに…これじゃあ全身コーディネートができませんわ」
寮長は頬に手を当て、ため息をついて残念がっている。その様子を凪はドン引きした目で見ていた。
「おいおいあの娘を着せ替え人形にするつもりか…?」
「失礼ですね! 女として着飾ることは当然です。それに麓様はピッチピチの180歳! 街へ出掛ければたちまち流行モノに惹かれますわ…!」
寮長は拳を握りしめ、瞳を情熱的に燃えたぎらせている。扇は苦笑いをしてお茶をすすって、海苔せんべいに手を伸ばした。
「精霊にピチピチもシワシワも関係ないけどね。でも俺も見たいわ~麓ちゃんの女の子らしい姿」
「おめーのは下心からだろ。そのうち教師免許を強制剥奪されるぞ」
「失礼な! そんなのありませーん────5割は」
「半分そうなのかよ。あいつにはこのまま男装を続けてもらおうか。危険な男が2人もいやがる」
え~。と扇は不平そうな声を出して口をとがらせた。
凪はため息をついてえびせんべいをかじった。寮長がこだわっているのか茶菓子は老舗物が多く、味は折り紙つきだ。日本茶も常に優良品の玉露茶。
「とにかく! こればかりは本人の問題だ。周りが無理矢理、じゃなくて自分で決心させる方がいいんじゃねーのか?」
「じゃあ凪様は…?」
「俺はあいつが男として偽ろうが女として正体をバラそうが知ったこっちゃねー。首つっこむことじゃねェしつっこまないべきだろ」
「さすがは委員長、相変わらず厳しいね~。"俺らの組織"に入れる前にこれが先か」
「そういうこった」
凪は目を閉じてわずかに唇をゆるめた。それに合わせてか扇も微笑む。
ただ1人、寮長は扇の言葉をスルーできなかった。
「お待ちください。風紀委員に…いえ、天神地祇に麓様をお入れになるつもりですか?」
「そう聞こえなかったか?」
「だからって…勝手過ぎでしょう。本人にはお話されたのですか?」
「や、まだ。っつーかさ…俺、頼まれてんだよあの娘のこと。しかも理事長に」
凪は頭をガッシガッシとかいて本心を明かした。
「理事長自ら? マジか」
初耳の扇は目を見張って、凪の顔をまじまじと見つめている。
「マジだ。大マジ。んで近くに置いておいた方がいいかもな、っちゅーこと」
「理事長がおっしゃったことならば、反対すべきじゃありませんね。しかし…麓様の安全はどうするのですか?」
「細心の注意を払う。幸い、光が同じクラスだし蒼も同じ校舎。担任は…扇か霞にするしかねェか。すんげー心配だけど」
凪は半眼で扇のことを見ている。心の中ではもう1人の男のことも。
寮長はしばらく難しい顔をしていたが、ふっとゆるんだ。
「分かりました。認めましょう。私もヘアピン戦闘の腕を上げますわよ!」
力強く腕をまくった寮長に凪は横を向いて皮肉げな笑みを浮かべた。
「今でも十分あんたは強いだろーが。熊を倒せるくらいな」
「なんですかその私の評価! 私がゴリゴリの屈強な女みたいじゃないですか!」
「え?そうじゃねーの?」
凪が意外そうな表情をすると、鼻先をヘアピンがかすめて壁に刺さった。寮長は氷の微笑を浮かべてもう1本のヘアピンを構えている。
「凪様…冗談でもそのようなことをおっしゃってはいけませんよ…? 次は心臓を狙いますわ」
「やめろコラ! 殺人事件起こすつもりか!」
「起こしてもいいのですよ…?」
「…ったく。ハハ…」
傍観者である扇にとってこの2人の様子は、いつ見てもおもしろくて飽きないものであった。
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