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5章
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学園の外を歩きたいと言って、麓が寮を出たのは夕方。
太陽は海がある方角へ傾いている。
学園の周りは木々で囲まれているのだが、普通の人間には学園もただの森に見えるようになってるらしい。
「キレイ…」
はらはらと散っていく桜の花びらは、道を鮮やかな薄紅色に染めている。
こうして歩いていると、花巻山の桜はどうなっているか気になった。
麓がいた頃────たった数日前のことなのに、ひどく昔のことに思えてしまった。
カツンカツンという麓の革靴の足音の後ろから、スタスタと軽やかに走ってくる足音が聴こえた。
「麓さん」
聞きなれていない声に振り向くと、蒼が走ってきて麓の横に並んだ。
「どうされたんですか?」
「僕は麓さんと会ったばかりなので少しお話がしたくて。他の人とはもう打ち解けているみたいですね」
穏やかで丁寧に話す蒼の様子は、まるで育ちのいいお坊ちゃん。
蒼の言葉に麓は曖昧に微笑んで首を振った。
「いえ…まだまだ、だと思います」
「そんなことありませんよ。皆、麓さんのことを気に入ってますよ」
「本当ですか?」
少し嬉しくなった。
でも凪は分からない、どう思っているか。
複雑さが心の中で嬉しさと混じり合う。
「麓さんは僕より歳上なんですから、敬語はやめていいですよ」
「でも」
「皆そんな風に敬語じゃないでしょう。肩の力を抜いて下さい」
蒼の言葉は安心感を与えてくれる。1つ1つが温かくて…優しい。
ほっこりとした気分になり、自然な笑みが浮かんだ。
────その瞬間。
蒼が突然立ち止まり、麓の前に手を伸ばして制した。
気になって彼の顔をのぞくと、さっきまでの柔らかな表情が険しい顔つきに変わっており、前方を鋭く睨んでいた。そのせいか、空気も次第に張り詰めていく。
そんなことを考えていたら、前方に見るからに怪しい3人が突如現れた。各々クナイや手裏剣、太刀を構えている。
全員が黒い忍装束に身を包み、顔は鼻から下を覆っている。
「なんでこんな時に…!」
「あの、一体────?」
蒼に聞くと、彼は前方を強ばった表情で睨めつけたまま、左腕の袖をまくりながら口を開いた。
「…麓さんは、風紀委員の真の姿をご存知ありませんよね。それを今からお見せすることになると思います────」
彼はまくりあげた左腕を気合いを入れるようにパシッと叩き、麓のことを見て柔らかく微笑んでみせた。
「麓さんのことは、僕が必ず守ります」
守る────。自分が初めて、守られる側になったとはっきりと分かった瞬間だった。
蒼の左腕の手首には、金色のブレスレット。彼はそれに触れると、3人のことを見据えた。
「…さっさと失せろ!『空の箱庭』!」
何やら不思議な言葉を叫び、蒼が3人に向かって指を3回突き立てると、空からそれと同じ色をした箱が3個降ってきた。
空をそのまま切り取った様な箱は、3人をすっぽりと覆った。
麓はしばし、手品を見せられたような気分になった。しかし蒼の表情は硬いまま。しばらく様子をうかがっていたかと思いきや、麓の手を取って走り出した。
「早く寮へ行きましょう!」
「何者なんですか、あの人たちは」
麓は引っ張られるがままに走る。地を蹴るたびにポニーテールが激しく揺れる。
「アイツらはこの学園の────僕らの敵です」
走って行こうとした先に爆音と共に煙が上がり、辺りが白く染められて2人は咳き込んだ。やがて晴れると、2人の周りをさっきの3人で囲まれていることに気付いた。
「いつの間に────!」
蒼は歯ぎしりをし、後方を振り返って驚きで目を見開いた。
彼の放った 『空の箱庭』が見事に真っ2つに切られていた。
太陽は海がある方角へ傾いている。
学園の周りは木々で囲まれているのだが、普通の人間には学園もただの森に見えるようになってるらしい。
「キレイ…」
はらはらと散っていく桜の花びらは、道を鮮やかな薄紅色に染めている。
こうして歩いていると、花巻山の桜はどうなっているか気になった。
麓がいた頃────たった数日前のことなのに、ひどく昔のことに思えてしまった。
カツンカツンという麓の革靴の足音の後ろから、スタスタと軽やかに走ってくる足音が聴こえた。
「麓さん」
聞きなれていない声に振り向くと、蒼が走ってきて麓の横に並んだ。
「どうされたんですか?」
「僕は麓さんと会ったばかりなので少しお話がしたくて。他の人とはもう打ち解けているみたいですね」
穏やかで丁寧に話す蒼の様子は、まるで育ちのいいお坊ちゃん。
蒼の言葉に麓は曖昧に微笑んで首を振った。
「いえ…まだまだ、だと思います」
「そんなことありませんよ。皆、麓さんのことを気に入ってますよ」
「本当ですか?」
少し嬉しくなった。
でも凪は分からない、どう思っているか。
複雑さが心の中で嬉しさと混じり合う。
「麓さんは僕より歳上なんですから、敬語はやめていいですよ」
「でも」
「皆そんな風に敬語じゃないでしょう。肩の力を抜いて下さい」
蒼の言葉は安心感を与えてくれる。1つ1つが温かくて…優しい。
ほっこりとした気分になり、自然な笑みが浮かんだ。
────その瞬間。
蒼が突然立ち止まり、麓の前に手を伸ばして制した。
気になって彼の顔をのぞくと、さっきまでの柔らかな表情が険しい顔つきに変わっており、前方を鋭く睨んでいた。そのせいか、空気も次第に張り詰めていく。
そんなことを考えていたら、前方に見るからに怪しい3人が突如現れた。各々クナイや手裏剣、太刀を構えている。
全員が黒い忍装束に身を包み、顔は鼻から下を覆っている。
「なんでこんな時に…!」
「あの、一体────?」
蒼に聞くと、彼は前方を強ばった表情で睨めつけたまま、左腕の袖をまくりながら口を開いた。
「…麓さんは、風紀委員の真の姿をご存知ありませんよね。それを今からお見せすることになると思います────」
彼はまくりあげた左腕を気合いを入れるようにパシッと叩き、麓のことを見て柔らかく微笑んでみせた。
「麓さんのことは、僕が必ず守ります」
守る────。自分が初めて、守られる側になったとはっきりと分かった瞬間だった。
蒼の左腕の手首には、金色のブレスレット。彼はそれに触れると、3人のことを見据えた。
「…さっさと失せろ!『空の箱庭』!」
何やら不思議な言葉を叫び、蒼が3人に向かって指を3回突き立てると、空からそれと同じ色をした箱が3個降ってきた。
空をそのまま切り取った様な箱は、3人をすっぽりと覆った。
麓はしばし、手品を見せられたような気分になった。しかし蒼の表情は硬いまま。しばらく様子をうかがっていたかと思いきや、麓の手を取って走り出した。
「早く寮へ行きましょう!」
「何者なんですか、あの人たちは」
麓は引っ張られるがままに走る。地を蹴るたびにポニーテールが激しく揺れる。
「アイツらはこの学園の────僕らの敵です」
走って行こうとした先に爆音と共に煙が上がり、辺りが白く染められて2人は咳き込んだ。やがて晴れると、2人の周りをさっきの3人で囲まれていることに気付いた。
「いつの間に────!」
蒼は歯ぎしりをし、後方を振り返って驚きで目を見開いた。
彼の放った 『空の箱庭』が見事に真っ2つに切られていた。
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