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5章
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「────おめーみてェな精霊を守るのが俺らの役目。八百万学園富橋支部、特別組織"天神地祇"。元々ただの風紀委員だったけど、理事長に任じられた。天災地変の対抗組織として。…で、おめーにも入ってもらうから」
「────はい?」
麓は自分の耳を疑い、凪の顔をじっと見た。だが彼は平静を保ったまま。むしろ麓に対して「何?」と聞き返しているように見えた。
「だーから、おめーにもウチの組織に入ってもらう。おめーみてェな治癒能力を持つ精霊は初めて見たわ。ヤバイ時は手当てしてもらうぜ」
「ま…待って下さい!ボクには無理です!手当てだけならともかく…戦闘は」
「いや。戦闘は俺らだけでで十分だから。何の不足もねェ。っつーか単におめーには俺の目につく所にいてほしいんだけど」
「えっ…?」
トクン、と打つ鼓動。しかし、次の瞬間にそれを後悔することになる。
「理事長に頼まれてんだよ、おめーのこと」
「だからって…!自分の身くらい自分で守れます!」
「嘘つけ。夕方ン時、半泣きだっただろーがよォ」
麓はうつむく。まさかバレてるとは思わなかった。
危険にさらされ不安で。さっきのことを思い出すだけで、恐怖心が蘇ってくる。
「恐怖で動けなくなるのは仕方ねェ。でもそれで殺られたらどうする?俺らといれば危険はほぼ回避できる。普通の寮よりここは安全だ。精鋭揃いのここにいることを拒否するなら、たちまち餌食だろうな」
凪が言ってることは最もだと思われた。それでも簡単にうなずいて了承するのはためらいがある。
「…今夜はこれにて失礼します」
ガタン、と立ち上がった麓は足早に去った。
「麓様…!」
「寮長」
追いかけようとする彼女のことを、凪は手で制した。
「…凪さん、今のは厳しくないか?まだここに来たばかりなのに────」
焔は不満げな表情で抗議したが、凪の表情は何1つ変わらない。
「厳しいも何も、生きていく上であたりめーのことだ。守られて生きていく…まぁ俺らはいつでも守る側だけどな」
「さっきのロクにゃん、かわいそうだよ…ここに慣れてなくて心細いだろうし」
「────それに。男なら、守られているだけなんて黙っていられないでしょう。僕だったらそう思います」
蒼のクソ真面目な言葉に、麓の真の性別を知っている4人は一斉にツッコミたくなったが必死にこらえた。
麓は部屋に戻ってからベッドに突っ伏したまま、動かなかった。
身体とは反対に思考回路は働きまくっている。
(私、どうなるんだろ────)
天災地変に狙われるなんて冗談じゃない。でもって風紀委員に入れ、だなんて。
凪の考えていることはよく分からない。
だが…遠回しに非力だと言われた気がした。戦闘には向かない、手当てしかできないか弱い精霊だと。
知らない間にアマテラスに守られ、外敵に会うことなく平穏に過ごしてきた毎日。
今までの自分がバカみたいで笑いがこみ上げてくる────否、悔しくて涙がこぼれ、頬を伝って布団にシミができる。
(分かんない…どうすればいいの…?)
山を出る瞬間に我慢した涙が全て流れ出ているかのように、長いこと泣き続けた。
しばらくたったある日。
麓は焔の部屋で、彼と光と蒼と話していた。
なんというか…麓のことを励ます会的なことを行っている。
麓もこの3人と話すことで心が軽くなったような気がした。時には誰かに話を聞いてもらうのも大事なんだろう。
「ナギりんの言ってることはシカトしてさ、フツーにここに入らない? せっかく仲良くなったんだもん」
「そうそう! 難しく考えずにさ。そこまで大した活動はしてないし、天災地変が現れるのもそう頻繁じゃないから」
「それに現れたとしても雑魚ばかりですよ」
誘い方が凪と全く違う気楽なものだから、麓の頑なだった心がとけ始めていた。
「…前向きに考えてみようと思います。皆さんのおかげで楽になれました。ありがとうございます」
麓はぺこりと頭を下げ、柔らかく微笑んだ。
その様子に不覚にも胸の高鳴りを感じてしまった焔。湧き上がった感情を振り払うように慌てて頭を振る。
(ダメだダメだ可愛いって思うとか…。麓はれっきとした男だろ! そんな趣味じゃないだろ自分!)
…ぶっちゃけ焔は、麓と出会った時からその柔らかく控えめな笑顔に惹かれていた。
凪と違って皮肉げなんかじゃない、心からの微笑み。
(光よりずっと可愛い系男子だな…むしろマジで女の子みたい)
────彼は麓が性別を隠しているなんて、これっぽっちも思わない。
それからの麓は春休みを有意義に過ごした。
1日の大半を寮長や扇と霞の手伝いをし、たまに焔や光と蒼とコンビニへ出かけた。まだ中心市街地の方へは行ったことなく、今まで目にしたことのない世界なんだろうと好奇心が湧く。
凪とはあまり接することはなかった。だが1度だけ、あの太刀を持たせてもらった。普段は蒼と同じくブレスレットになっているらしい。それは武器化身と呼ばれる。
「海竜剣…ですか?」
「そうだ。海に棲むって言われている竜のこと。どっかの侍が刀を海ン中に落としちまって海竜が食って一体化したらしい。で、それが浜に打ち上げられていて理事長が拾って、何百年後に俺がもらった」
凪はぶっきらぼうだが、話しかければいろいろ話してくれた。
天神地祇のトップとしての凪はどこか冷徹に見えるが、こうして普通に話している時の彼は他の精霊と大して変わらなく見えた。
「────はい?」
麓は自分の耳を疑い、凪の顔をじっと見た。だが彼は平静を保ったまま。むしろ麓に対して「何?」と聞き返しているように見えた。
「だーから、おめーにもウチの組織に入ってもらう。おめーみてェな治癒能力を持つ精霊は初めて見たわ。ヤバイ時は手当てしてもらうぜ」
「ま…待って下さい!ボクには無理です!手当てだけならともかく…戦闘は」
「いや。戦闘は俺らだけでで十分だから。何の不足もねェ。っつーか単におめーには俺の目につく所にいてほしいんだけど」
「えっ…?」
トクン、と打つ鼓動。しかし、次の瞬間にそれを後悔することになる。
「理事長に頼まれてんだよ、おめーのこと」
「だからって…!自分の身くらい自分で守れます!」
「嘘つけ。夕方ン時、半泣きだっただろーがよォ」
麓はうつむく。まさかバレてるとは思わなかった。
危険にさらされ不安で。さっきのことを思い出すだけで、恐怖心が蘇ってくる。
「恐怖で動けなくなるのは仕方ねェ。でもそれで殺られたらどうする?俺らといれば危険はほぼ回避できる。普通の寮よりここは安全だ。精鋭揃いのここにいることを拒否するなら、たちまち餌食だろうな」
凪が言ってることは最もだと思われた。それでも簡単にうなずいて了承するのはためらいがある。
「…今夜はこれにて失礼します」
ガタン、と立ち上がった麓は足早に去った。
「麓様…!」
「寮長」
追いかけようとする彼女のことを、凪は手で制した。
「…凪さん、今のは厳しくないか?まだここに来たばかりなのに────」
焔は不満げな表情で抗議したが、凪の表情は何1つ変わらない。
「厳しいも何も、生きていく上であたりめーのことだ。守られて生きていく…まぁ俺らはいつでも守る側だけどな」
「さっきのロクにゃん、かわいそうだよ…ここに慣れてなくて心細いだろうし」
「────それに。男なら、守られているだけなんて黙っていられないでしょう。僕だったらそう思います」
蒼のクソ真面目な言葉に、麓の真の性別を知っている4人は一斉にツッコミたくなったが必死にこらえた。
麓は部屋に戻ってからベッドに突っ伏したまま、動かなかった。
身体とは反対に思考回路は働きまくっている。
(私、どうなるんだろ────)
天災地変に狙われるなんて冗談じゃない。でもって風紀委員に入れ、だなんて。
凪の考えていることはよく分からない。
だが…遠回しに非力だと言われた気がした。戦闘には向かない、手当てしかできないか弱い精霊だと。
知らない間にアマテラスに守られ、外敵に会うことなく平穏に過ごしてきた毎日。
今までの自分がバカみたいで笑いがこみ上げてくる────否、悔しくて涙がこぼれ、頬を伝って布団にシミができる。
(分かんない…どうすればいいの…?)
山を出る瞬間に我慢した涙が全て流れ出ているかのように、長いこと泣き続けた。
しばらくたったある日。
麓は焔の部屋で、彼と光と蒼と話していた。
なんというか…麓のことを励ます会的なことを行っている。
麓もこの3人と話すことで心が軽くなったような気がした。時には誰かに話を聞いてもらうのも大事なんだろう。
「ナギりんの言ってることはシカトしてさ、フツーにここに入らない? せっかく仲良くなったんだもん」
「そうそう! 難しく考えずにさ。そこまで大した活動はしてないし、天災地変が現れるのもそう頻繁じゃないから」
「それに現れたとしても雑魚ばかりですよ」
誘い方が凪と全く違う気楽なものだから、麓の頑なだった心がとけ始めていた。
「…前向きに考えてみようと思います。皆さんのおかげで楽になれました。ありがとうございます」
麓はぺこりと頭を下げ、柔らかく微笑んだ。
その様子に不覚にも胸の高鳴りを感じてしまった焔。湧き上がった感情を振り払うように慌てて頭を振る。
(ダメだダメだ可愛いって思うとか…。麓はれっきとした男だろ! そんな趣味じゃないだろ自分!)
…ぶっちゃけ焔は、麓と出会った時からその柔らかく控えめな笑顔に惹かれていた。
凪と違って皮肉げなんかじゃない、心からの微笑み。
(光よりずっと可愛い系男子だな…むしろマジで女の子みたい)
────彼は麓が性別を隠しているなんて、これっぽっちも思わない。
それからの麓は春休みを有意義に過ごした。
1日の大半を寮長や扇と霞の手伝いをし、たまに焔や光と蒼とコンビニへ出かけた。まだ中心市街地の方へは行ったことなく、今まで目にしたことのない世界なんだろうと好奇心が湧く。
凪とはあまり接することはなかった。だが1度だけ、あの太刀を持たせてもらった。普段は蒼と同じくブレスレットになっているらしい。それは武器化身と呼ばれる。
「海竜剣…ですか?」
「そうだ。海に棲むって言われている竜のこと。どっかの侍が刀を海ン中に落としちまって海竜が食って一体化したらしい。で、それが浜に打ち上げられていて理事長が拾って、何百年後に俺がもらった」
凪はぶっきらぼうだが、話しかければいろいろ話してくれた。
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