Eternal Dear2

堂宮ツキ乃

文字の大きさ
上 下
8 / 22
3章

しおりを挟む
「麓、おはよ!」

 まだ聞き慣れてはいないが覚えた声がし、振り向くと紅髪の快活な娘────嵐がいた。

「おはようございます。嵐さん」

「ございますって…敬語じゃなくていいよ。歳は10しか変わらないんだから。光から聞いてたけどカタいよ~」

「じゃあ…おはよう」

「ん~それでよし!」

 嵐は朝から元気に麓に話しかけ、明るい気持ちにしてくれた。

 ここへ来たばかりだから、という気を遣っている素振りもない。心からの行為のようだ。

「そういえば光は?」

「まだです…じゃない、まだだよ。私が起きた時も寝てたみたい」

「ふーん。必ず一緒にいるワケじゃないんだ」

「どうして?」

「だって始業式から麓に付きっきりだったじゃん。他の女子たちがうらやましがってたよ。"いいな~あのコになりたい"って」

 風紀委員の人気は囲まれるだけじゃない。女子同士でささやかれている。

 その"いいな~"の対象になっている麓としては気まずい。注目されることに慣れていないから、毎日緊張気味だ。

「風紀委員ってすごいね…」

「全くだよ。たまに女子たちの醜い争いに発展することだってあるからね。恐ろしいモンだよ」

「嵐さんはそういうことは無いの?」

「あたし?」

 嵐は自身を指して、それから豪快に笑った。

「ンなことあるワケないじゃん!あたしはそんなキャラじゃないのさ!」



「蔓系の植物の精霊、そのままつる

「つるーにょだよ」

「降雨機の精霊、つゆ

「つゆにーだよ。で、赤い花の精霊、嵐はあーちゃん」

「さっきからうるさいわ光! やめてよねその恥ずかしいニックネーム」

「いーじゃん。可愛いでしょ? ね、ロクにゃん」

 急に振られたロクにゃんこと麓は、苦笑いを返すことしかできない。光は風紀委員だけでなく、誰に対してもニックネーム呼びらしい。 

 あの後、光は遅刻ギリギリで教室に滑り込んできた。焔と一緒に寮から走ってきたので、光より校舎が遠い焔は遅刻しただろう、とのこと。

「ホムラっちはこれで留年がプラス一年になったね。ドンマ~イ」

 光は完全に他人事として話していた。4月早々、焔は来年も11年生になること決定だ。

「こっちはそないな呼び方、頼んでへんで」

 麓よりも濃い緑の髪を持った男子────蔓は富橋より南から来た。今では本場の者らしい話し方はできないそうだ。

「ニックネームは愛称。仲間意識を高めるのに最適」

 機械のような無機質で答えた少女────露は、雨を降らす機械から生まれた。実は彼女も蒼と同じく"天"の精霊だ。

「よろしゅうな、麓」

「よろしく」

 それぞれ挨拶をされ、麓はペコペコと頭を下げた。

「おっはよー。HR始めるよ~」

 ガララと引き戸を開けながら教室に入ってきた扇を合図に、生徒たちは各々の席に着いた。

  扇は教卓に予定帳を置き、生徒たちが座っていく様子を見守る。

「今日の連絡は…特に無いかな。ま、とりあえず。今日から授業が始まるから気を引き締めること! いつまでもダラダラと春休みボケしてるのはダメだからね。じゃあ以上。1時間目の数学は俺だから。準備、忘れずにね」

 扇が最後に軽く片目をつむって教室を出ていくと、多くの女子は色めきたった。やはり扇は女子からの人気は尋常じゃない。
しおりを挟む

処理中です...