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5章
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次の日の朝。
朝食を食べ終えた麓は、自室で荷物の確認をしていた。
それも終え、バッグを肩に掛けて部屋を出ようとしたら、後ろから風が吹いてきて麓の髪をなびかせた。
(あれ? 窓は閉めてあったよね?)
おかしいと思って振り向いた麓は、バッグを床に落とした。
彼女にしては珍しいオーバーリアクション。それもそのはず。窓際には大きな桜の木が1本生えているのだがそこには、いてはマズイ人物が幹にもたれていた。
「あ、あなたは!?」
やっと我に返って声を上げると、相手は人差し指を唇に当て、反対側の手で麓に手招きをした。
黙って相手の元へ歩み寄ると、すっと手が伸びて腕をつかまれ、そのまま勢いよく引き寄せられた。そして相手の胸の中にすっぽりと収まる。
「わ! 木の上!?」
「落とすわけじゃないからおとなしくしてろ」
聞きなれない低い声が降ってきた。直に相手の体温を感じる。状況がやっと分かった麓は、心臓をバクバクさせながらうなずいた。
「降りるからつかまれ」
「えぇ!? きゃー!!」
相手は麓の背中と膝の裏に手を通し、その場から飛び降りた。
空中にいる間、麓はこうしてもいいのだろうかと迷ったが、落ちたくないという気持ちの方が大きかったから、相手の首に少しだけ腕を回した。
相手が着地し、向かったのは学園の敷地外。
そこで麓はついに気付く。
これは────誘拐?
「あれ!? 麓ちゃんがいない!?」
「オウちゃん素が出てまーす。ここ教室」
朝のホームルームが行われている3年の教室。
扇はうっかり、寮での調子になった。それもそのハズ。珍しい人物が空席だから。
(一緒に朝飯食ったのに…)
「もしかしてサボ────」
「保健室行ったか?」
光の言葉に扇が被せた。麓に限って凪のようなことがあるハズがない。
「先生、あたし朝から麓のこと見てません」
そこで嵐が挙手して情報提供。彼女は朝は必ず麓と昇降口で会うから、今日のことを不思議に感じていたらしい。
「つーことは学校自体に来てないのか…? どうしたんだろ、心配だな」
何か危険なことに巻き込まれてないといいけど。麓の持つ能力は天災地変に狙わられやすい。
(ま。とりあえず凪に連絡だな…)
麓は森を抜けた所にあるバス停にいた。自身を誘拐した男と。
その彼と一緒にいても麓が恐れてない理由は、一切知らない相手ではないから。
「どういうつもりなんですか?」
麓がため息混じりに隣の男を見上げると、彼は水色の瞳を閉じて笑った。少し長めの黒髪がそよ風で揺れている。
まだつい最近会ったばかりで、凪と焔と同じ学年の彰。
「1人でサボってもつまらないから、誰かを巻き込もうと思っただけだ」
「サボ…!? 困ります。私は学園に戻るので別の人を…」
帰ろうと踵を返したら、彰に腕をつかまれて引き戻された。
「まぁ待て。たまには息抜きだって必要だ。特に新入りだから気疲れしてるんじゃないのか?」
「別に平気ですけど…それより! 焔さんから女子にはほとんど話しかけないと伺いました。これはどういうことですか?」
「ん~…。他の女と違うように見えるから、かな」
片目だけで麓のことを見下ろす彰。彼は尚も口を開く。
「お前のことを知りたい。山の精霊は滅多にお目にかかれないからな。これじゃダメか?」
「ん~…。とりあえず、サボるのだけは嫌です!」
「カッタいな~考えが。まだ若いだろーが。授業をサボるという青春しようぜ」
「え~…わっ!?」
そこへ現れたバスの中へ、麓は彰によって連れ込まれた。
「はぁ~…留年が…」
「まだそれ言うか。その分今日は1日中遊べばいいっつーの」
「遊びなんて休みにできることなのに…」
バスの座席で、麓は彰の隣でうなだれている。足を組んだ彰は彼女の頭にぽん、と手を置いた。
「他のヤツらが勉強している時に遊ぶのは休みの倍楽しいぞ。どこも混まないし」
「そういう問題じゃなくて!」
恨めし気に見上げる麓の鼻先を、彰は細長い指でつついた。
「焔みたいに彰、でいいぞ」
「じゃ、じゃあ彰さん…」
「ん。それでよし」
彰は満足気にうなずいて足を組み直した。
完全に流された! と気づいたが、もう1度言う気になれない。麓はため息をついて首をかしげた。
「サボるって言ってもどこに行くんですか?」
「橋駅」
彰はニッと楽しそうに口の端を上げた。クールなイメージが強い彼にしては珍しい表情。初めて見た。
彰の言った橋駅とは"富橋駅"の略称。乗り入れている路線もそこそこ多く、新幹線だって走っている。近隣での交通拠点とされている。
カフェもあるから電車の待ち時間をつぶすのにちょうどいい。
さらに駅付近にもたくさんの店がある。ブティックや大きな書店、誰でも知っているファーストフード店、ゲームセンター…こちらは若者向けが多い。
麓は以前から気になっていたが、なかなか行く機会がなかった。
それが今、行ける────
「楽しみです!」
「だろ?」
さっきと打って変わって目を輝かせる麓を見て彰もわずかに楽しそうにした。
こんな反応を見ると、連れて行く側としても喜ばしい。
朝食を食べ終えた麓は、自室で荷物の確認をしていた。
それも終え、バッグを肩に掛けて部屋を出ようとしたら、後ろから風が吹いてきて麓の髪をなびかせた。
(あれ? 窓は閉めてあったよね?)
おかしいと思って振り向いた麓は、バッグを床に落とした。
彼女にしては珍しいオーバーリアクション。それもそのはず。窓際には大きな桜の木が1本生えているのだがそこには、いてはマズイ人物が幹にもたれていた。
「あ、あなたは!?」
やっと我に返って声を上げると、相手は人差し指を唇に当て、反対側の手で麓に手招きをした。
黙って相手の元へ歩み寄ると、すっと手が伸びて腕をつかまれ、そのまま勢いよく引き寄せられた。そして相手の胸の中にすっぽりと収まる。
「わ! 木の上!?」
「落とすわけじゃないからおとなしくしてろ」
聞きなれない低い声が降ってきた。直に相手の体温を感じる。状況がやっと分かった麓は、心臓をバクバクさせながらうなずいた。
「降りるからつかまれ」
「えぇ!? きゃー!!」
相手は麓の背中と膝の裏に手を通し、その場から飛び降りた。
空中にいる間、麓はこうしてもいいのだろうかと迷ったが、落ちたくないという気持ちの方が大きかったから、相手の首に少しだけ腕を回した。
相手が着地し、向かったのは学園の敷地外。
そこで麓はついに気付く。
これは────誘拐?
「あれ!? 麓ちゃんがいない!?」
「オウちゃん素が出てまーす。ここ教室」
朝のホームルームが行われている3年の教室。
扇はうっかり、寮での調子になった。それもそのハズ。珍しい人物が空席だから。
(一緒に朝飯食ったのに…)
「もしかしてサボ────」
「保健室行ったか?」
光の言葉に扇が被せた。麓に限って凪のようなことがあるハズがない。
「先生、あたし朝から麓のこと見てません」
そこで嵐が挙手して情報提供。彼女は朝は必ず麓と昇降口で会うから、今日のことを不思議に感じていたらしい。
「つーことは学校自体に来てないのか…? どうしたんだろ、心配だな」
何か危険なことに巻き込まれてないといいけど。麓の持つ能力は天災地変に狙わられやすい。
(ま。とりあえず凪に連絡だな…)
麓は森を抜けた所にあるバス停にいた。自身を誘拐した男と。
その彼と一緒にいても麓が恐れてない理由は、一切知らない相手ではないから。
「どういうつもりなんですか?」
麓がため息混じりに隣の男を見上げると、彼は水色の瞳を閉じて笑った。少し長めの黒髪がそよ風で揺れている。
まだつい最近会ったばかりで、凪と焔と同じ学年の彰。
「1人でサボってもつまらないから、誰かを巻き込もうと思っただけだ」
「サボ…!? 困ります。私は学園に戻るので別の人を…」
帰ろうと踵を返したら、彰に腕をつかまれて引き戻された。
「まぁ待て。たまには息抜きだって必要だ。特に新入りだから気疲れしてるんじゃないのか?」
「別に平気ですけど…それより! 焔さんから女子にはほとんど話しかけないと伺いました。これはどういうことですか?」
「ん~…。他の女と違うように見えるから、かな」
片目だけで麓のことを見下ろす彰。彼は尚も口を開く。
「お前のことを知りたい。山の精霊は滅多にお目にかかれないからな。これじゃダメか?」
「ん~…。とりあえず、サボるのだけは嫌です!」
「カッタいな~考えが。まだ若いだろーが。授業をサボるという青春しようぜ」
「え~…わっ!?」
そこへ現れたバスの中へ、麓は彰によって連れ込まれた。
「はぁ~…留年が…」
「まだそれ言うか。その分今日は1日中遊べばいいっつーの」
「遊びなんて休みにできることなのに…」
バスの座席で、麓は彰の隣でうなだれている。足を組んだ彰は彼女の頭にぽん、と手を置いた。
「他のヤツらが勉強している時に遊ぶのは休みの倍楽しいぞ。どこも混まないし」
「そういう問題じゃなくて!」
恨めし気に見上げる麓の鼻先を、彰は細長い指でつついた。
「焔みたいに彰、でいいぞ」
「じゃ、じゃあ彰さん…」
「ん。それでよし」
彰は満足気にうなずいて足を組み直した。
完全に流された! と気づいたが、もう1度言う気になれない。麓はため息をついて首をかしげた。
「サボるって言ってもどこに行くんですか?」
「橋駅」
彰はニッと楽しそうに口の端を上げた。クールなイメージが強い彼にしては珍しい表情。初めて見た。
彰の言った橋駅とは"富橋駅"の略称。乗り入れている路線もそこそこ多く、新幹線だって走っている。近隣での交通拠点とされている。
カフェもあるから電車の待ち時間をつぶすのにちょうどいい。
さらに駅付近にもたくさんの店がある。ブティックや大きな書店、誰でも知っているファーストフード店、ゲームセンター…こちらは若者向けが多い。
麓は以前から気になっていたが、なかなか行く機会がなかった。
それが今、行ける────
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