たとえこの恋が世界を滅ぼしても6

堂宮ツキ乃

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2章

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 料理を持った神七が現れ、それぞれ食事を始めた。今日は毘沙門天がカツとじ定食、阿修羅はチキンドリアとシーザーサラダ、夜叉はネギトロ丼。

 まだそれほど客席が埋まっておらず余裕なのか神七は夜叉のことを肘でつついた。

「やーちゃ~ん。今日はイケメンはイケメンでも違う人となんだね~?」

「え? え、まぁ…そうね」

影内かげうち君にやきもち妬かれないの?」

「知らない! いちいちこんなことで連絡しないもん」

「ふーん。いつもどんなことで連絡してるの?」

「そんな大したことは何も────って、さっさと戻りなさい! バイト中でしょ!」

「大丈夫大丈夫。今はランチの忙しさに備えて体力温存してるの」

 余裕をぶっこいている神七を、料理を運び終えた先輩らしき年上の女の人が脇腹をつついていった。高校生にして年上の知り合いが多い彼女が少しうらやましいと思いながら夜叉は、わさびが絞られた小皿に醤油を垂らした。

 今までバイトをしたことがないので人間の・・・大人の知り合いが少ない。気軽にお姉さんお兄さんと呼べる人はいなかった。

「あたしも忙しくなる前に休憩に行かなくちゃ。またね、やーちゃんあーちゃん。また学校で」

「うん、バイバーイ」

「お疲れ様です」

「バイト頑張ってね」

「ありがとうございます!」

 最後に毘沙門天に笑顔を向けられた神七はとびっきりの笑顔を浮かべ、深く頭を下げて厨房の奥へと引っ込んだ。

 賑やかなのがいなくなって静かに食べ進めていたが、一足先に食べ終えた毘沙門天が口の回りを拭きながら頬杖をついた。

「夜叉ちゃんは朝来とは結構連絡を取り合っているのかい?」

「あれは結構って言うんだろうか…。大体3日くらいに1回は電話がかかってきますねぇ」

「電話なんだ、メッセージとかじゃなくて」

「はい。なんかデジタルは信用してないとかなんとか…。本当は電話でも微妙だけど文字よりかは声の方がいいんだ、って」

「ほー。やっぱり俺らより長く生きてるだけあって感覚が違うんだな」

「味気ないけど便利だっておじいちゃんみたいなこと言ってます」

 朝来の話題になって阿修羅の表情がまた苦虫を噛み潰したようなものになったが、毘沙門天は構わず続けた。

「それで? 君たちは付き合い始めてるの?」

「げっほ!」

 唐突の爆弾発言とわさびを溶かしきれてない場所に当たってしまい夜叉は涙目になりながら盛大にむせた。

「付き合ってなんかないですよ!」

「なんだ、そうなの。朝来は君にメロメロみたいだし君も彼のことは嫌いとかではないだろ? そろそろ朝来が最後の一押しを仕掛けていい所までいってるかと思ってたんだけど」

「もうっ。皆してどうでもいいことを気にして…」

「ははは、ごめんごめん。若者の恋愛模様は見てて楽しくて」

「からかわないでくださいよー…」

 かっこいい年上の男に微笑まれるのには夜叉も弱い。ふにゃ~と照れてとろけそうなのをこらえて顔をキリッとさせて座り直した。

「ふんっ。後でデザートまで食べちゃいますからね!」

「もちろん。せっかく食べに来たんだからちゃんとお腹いっぱいにしなよ」

「うっ…」

 からかわれたお返しに────と思ったのだが毘沙門天には効かなかったらしい。彼のことだから気づいてないフリをして華麗にかわしたのかもしれない。

 爽やかな空色ブルーのサラサラヘアーを軽く払って微笑む姿にはもう何も言えない。夜叉は諦めてネギトロ丼の残りをかきこんでメニューブックに手を伸ばした。
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