たとえこの恋が世界を滅ぼしても6

堂宮ツキ乃

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2章

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 11月に入った学校。

 夜叉は和馬と登校してきて校門前で別れると、彦瀬と瑞恵みずえと共に自分のクラスに入って一息ついた。

 近頃はコートなしでは少し肌寒くなってきた。暖房がついてなくても風避けになる校舎内に入ると落ち着く。夜叉は自分の席に着くとスクールバッグを開けて教科書やら筆記用具を取り出して机の中にしまいこんだ。

 思えば去年の今頃から自分の運命が変わり始めた。夜叉のそっくりさんがこの街に出現したことが話題になり、結城ゆうきと関わるようになった。彼女と共に喧嘩屋だらけのひびき高校に乗り込み朝来に出会った。そこで阿修羅が現れ戯人族のに連れて行かれ、自分が人間ではないことを知った。

舞花まいか元気かな────またあっちにも行きたい)

 離れて暮らす母のことを思い窓の外を見ようと顔を上げると、突然後ろから首に腕を巻きつけられた。

「ぐえっ…」

「やーちゃんどうしよう! いよいよ今日だよぉ!」

「わがったから…う、てはなせっ…うぐえっ」

「瑞恵! やーちゃんが落ちちゃう!」

「あ、ごめん。緊張しちゃってつい」

「緊張してるヤツとは思えない腕力…」

 夜叉は軽く咳き込みながら喉をさすった。運動部どころか部活にすら入っていない瑞恵にこんな馬鹿力があるなんて知らなかった。

「だって今日はいよいよ生徒会選挙だよ!? 全校生徒の前でなんてしゃべったことないのにさ~…午後からだけどもう今からお腹痛くなりそう…」

「本番すっぽかすなよ~…選挙に出馬するのはみーちゃんじゃないけどトシちゃんが困るんだからね」

 夜叉の席の周りに集まった彦瀬と瑞恵は2人して彼女の机に手をついて並んだ。そんな瑞恵の制服のポケットには原稿が丸めて突っ込まれている。

 その内容は彼女が放課後に彦瀬と夜叉の前で何回も読み上げた推薦文だ。自分で書き上げた後に国語教師の神崎かんざきに推敲してもらった。

「普通は推薦人より出馬する委員長の方が緊張するもんじゃないの?」

「トシちゃんのことだからそんなに緊張してないでしょ。あんまりそういうの見たことない」

「そうそう。噂してたら来たわ。トシちゃんおはよー」

「おはよう」

 トシちゃんことさとしは三つ編みの小柄な女子と教室の前で別れると、いつもの涼しい顔で教室に入ってきた。視線を感じたのか真っ直ぐに夜叉達の元に歩いてきた。その足取りも落ち着いており、手に持っている小さなノートを制服のポケットに差し込んだ。

「ん? 何それ」

「今日の選挙の原稿。読み上げのチェックをひなみにしてもらったんだ」

「まーまー朝から熱心だね! 瑞恵もだけどトシちゃんも頑張ってね! 彦瀬たちはトシちゃんに入れるからね」

「ありがとう」

 静かな声だったが智は嬉しそうにかすかに微笑んで人差し指で鼻をかいた。

「こちらこそ…推薦人になってくれてありがとう。ちょっと恥ずかしいけどいい推薦文だった」

「ぜーんぜん。てかむしろこのお礼はひなみんに言ってよ。私たちじゃ知らないトシちゃんのいいとこをたくさん知ってたからこそ書けたから。ね、2人とも」

「そうね。たまにノロケが入ってこっちが恥ずかしくなったけどそれはそれでおもしろかったよ」

「やーちゃんシッ!」

「いやいいんだ…。ひなみが余計なことたくさん言っちゃった、って言ってたし」

 智は俯いて後頭部をかいて自分の席に戻ろうとしたが、後ろに現れた影によって阻まれた。

「よう、お2人さん。今日は頑張れよ」

「あ、せんせーおはようございます」

 担任でもある神崎に気づいた彦瀬の声で一斉に挨拶をする。手に持った手帳を肩にかけて“よっ”と軽く声を上げる。

「ウチからは内村うちむらだけが立候補するわけだが…後悔しないようにやってこい。今回は生徒会長は一騎打ちだが正直俺はお前が当選すると思ってる」

「…ありがとうございます!」

「この一夏でお前は本当に成長したと思うよ。4月に受け持った時は女子とは全くと言っていいほど話せなかったヤツが今では推薦人に女子を選んでんだもん。最初聴いた時はびっくりしたよ」

原田はらたとはクラス委員の仕事を一緒にやっているので、学校関係の仕事の取り組みは彼女によく見てもらえていると勝手に思っていたので」

「いい分析だな。ま、午後まではまだ時間がある。直前に他のクラスの恋人の顔見に行って気合い入れてこい」

 神崎は歯を見せてニヤリ笑うと智の頭をクシャッとかき混ぜて教卓の前に立って出席簿を開いた。
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