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2章

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 昼からの生徒会選挙は瑞恵は夜叉と彦瀬に抱きしめられ、智はひなみの顔を見に行って臨んだ。

 全校生徒と教師たちが集まったアリーナ。これだけの人数が集まっているというのに妙にシン…としていて、変に噛んでしまったり読み上げる行を間違えたらどうしようと足がすくみそうになった。

 普段は校長先生や生徒指導の先生が話すことが多い壇上の演台の前。智はマイクに拾われないように小さく小さく深呼吸をして目の前に原稿を広げ置いた。

 これを読み上げ、無事に生徒会長に就任したら再びここに立って話す時が来る。今日はそれの予行演習だと思おう。

 彦瀬たちや神崎のように智に票を入れるよと言ってくれる人はたくさんいた。それは嬉しかったし頑張ろうと張り切ることができた。

 しかし一騎打ちの相手は別のクラスで智とはタイプの違う、明るくて爽やかな男子だ。同じ学年なので話したことがないわけではない。笑みを絶やさない、誰とでも仲良くなれてしまういい人で智も認めている。彼だったら負けても悔しくないと思わされるような男子だ。

 だがここで負けてはいられない。もし今後ひなみのような生徒が現れた時にどんな方法でも学校生活を楽しめるように、少しでも力になりたいのだ。せっかく入った高校なのだから。

 演説をしている間、無数の顔に注目されて気恥ずかしくて表情が凍りつきそうだったが、自分の学年のエリアで恋人が“大丈夫だよ”と言いたげにずっとニコニコして聞いてる様子に安心して表情筋が和らいだ。



 全員の演説が終わるとその場ですぐに投票が始まり、投票箱に入れた者から教室に戻っていった。

「みーちゃんお疲れさま」

「ありがと! おかげで最後までちゃんとしゃべれたよ…」

「でもマイクの調節してる時に手ぇ震えてたっしょ?」

「うん。あんだけの人数にガン見されたらね」

 無事に一仕事を終えた瑞恵の表情は開放感にあふれている。腕を伸ばしてのんびりと歩き、両隣で夜叉と彦瀬が彼女の肩をそれぞれ揉んだ。

「トシちゃんはまだ戻らないの?」

「全生徒が投票するのを見守ってからにするみたい。それにしても演説中のトシちゃんはすごかったな~」

「なんかびっくりするほどずっと穏やかだったよね。他の立候補者達はあんなにガッチガチに緊張している中で」

「…愛の力じゃよ」

「うわあぁぁぁッ!?」

 夜叉の真後ろでしわがれたねっとりとした声が響いて彼女は飛び上がった。振り向くと神七と神児しんじの神コンビが目を輝かせて両手を組んでいる。

「トシちゃん絶対ひなみちゃんのことを思いながらしゃべってたと思うよ。あんな顔のトシちゃん見たことない!」

「は~尊いわトシひなカッポー…」

「相変わらずね神コンビ…」

「やーちゃんのもあるよ? アシュヤシャとか朝夜叉とか」

「はい?」

「神七、そこは思わせぶりな態度を取ってるだけと見せかけて実は好きすぎてたまらんっていうやーちゃんもありだと思うからヤシャアシュがいい」

「はぁ────」

 2人の話すことにはいつもついていけない。夜叉はとりあえず2人の額をぺちんぺちんと叩いてさっさと教室に戻ろうと足早にその場を去った。
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