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3章

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 生徒会選挙の結果は次の日の朝にすぐに張り出された。

 夜叉は彦瀬と瑞恵と共に登校してすぐに職員室前の廊下へ見に行こうと話していたのだが、教室でクラスメイトに囲まれてガッツポーズをしている委員長の姿で全てを察した。

「おめでとう、次期生徒会長」

桜木さくらぎ …ありがとう」

 お祝いの輪に加わるといつもよりずっと晴れやかな笑顔を浮かべている智が小さく頭を下げた。

「一番最初にひなみんに伝えた?」

「うん。登校してすぐに2人で見に行った」

「そしたらトシちゃんたらねー、その場でひなみちゃんのことを抱き上げてくるくる回ったんだよ! デ○ズニー映画を見てるみたいだった…」

「また取材してたなやまめちゃん…」

 人の告白大作戦を取材したがった過去を持つ小説家志望の彼女は、夜叉に呆れられた視線を向けられたがドヤ顔で親指を立てた。その後ろで智は真っ赤な顔をしている。

「さてはやまめちゃん、そのデ○ズニー映画を撮ったでしょ」

「もちろん。でも消せって言われて消しちゃった」

「当たり前だろ」

 智の真っ赤な顔と目を潤ませて眉を垂れ下げる顔に一同は爆笑した。



 その日、夜叉は1人で下校することになった。いつもの瑞恵と彦瀬はまた委員会の仕事で急遽呼ばれたり提出物を忘れて居残りすることになったらしい。

 タイミングが合えば和馬と帰ることもあるが他の男子と話していたので特に声をかけずに校舎を出た。

「なぁあんたどこの学校?」

「なんか用でもあんのか?」

(チンピラ…クソガキ…)

 夜叉は校門で他校の生徒と思しき生徒にガラ悪く絡んでいる男子2人を見て顔をしかめた。この学校に不良はほぼいないのだが時々イキった1年生が頭の悪い事をしていることがある。

(結城さんを呼んでこようかな────)

 この学校の守護神と呼ばれる喧嘩屋の結城。ひなみほどではないが小柄な女子で、年上の男を震え上がらせるほどのオーラを持ち合わせている。この学校に不良がないのは彼女のおかげでもある。

 しかし結城のクラスに行くまでそれなりに距離があるし、そもそもまだ学校にいるかも分からない。

 夜叉はため息をつき、スクールバッグの持ち手を握りしめて足音をわざと立てて校門を飛び出た。

「こーら1年坊主! あんたら何してんの!」

「うわっ、桜木先輩…」

 どうやら相手は夜叉のことを知っていたらしい。2人の男子生徒は震え上がりながらも頬を染めた。

「偉そうなこと言うつもりはないけど変に他人に絡むのはやめなさい! まだ中学生なの!? あ、ちなみにこうして騒いでたらそのうち生徒指導の先生が来るかも────」

「ごめんなさーい!!」

 2人は大声を上げて必死に逃げていった。1人は慌てるあまり蹴躓いている。

 夜叉は持ち手を握る手を緩めると息を吐いた。立ち向かってくるようなおバカでなくてよかった。いざ喧嘩となったらそれなりに罰を与えられる可能性がある。これでも戯人族として鍛えているし、力が覚醒してからは同い年の男子とも渡り合えるほどの腕力を手にしている。彼らをボコボコでは済まない怪我をさせる可能性があった。

(暴力はいざという時だけにしたいし)

 彼女はやれやれと首を振るとその場から立ち去ろうとした。

「待って!」

 振り返ると先ほどまでおバカ2人に絡まれていた男子生徒が夜叉のことを見つめていた。彼女とばっちり目が合うと顔を赤くしてぎこちなく微笑んだ。

「ありがとう。話が通じなくて困ってたんだ」

「いえ。こちらこそバカな生徒がごめんなさい」

「いいんだ────君みたいないい人がいるのも知れたし」

「それはどうも…」

 唐突に“いい人”と言われて照れ臭くなる。

 しかもよく見ると目の前の男子生徒は結構どころかかなり顔つきがいい。黒髪で身長が高くて優しそうな杏色の瞳。夜叉のことを見下ろして微笑み染めた頬は可愛らしくもある。

 ちょっと朝来に似てるかな、と思ったがそうでもない。共通点は黒髪くらいだ。

 しばらくお互いに黙っていたが気まずくなり、夜叉は“じゃ”と短く告げて今度こそ帰路についた。



「先輩? 岸田きしだ先輩」

 聞き覚えのある声にはっとすると目の前に後輩がいて首を傾げていた。

「あの…どうかしました?」

 同じ中学出身で今日、生徒会選挙の結果が出た智だ。中学の頃に生徒会長を務めていた岸田に色々聞きたいと言われて最近連絡を取り合っていた。

 こうして今日は結果を聞いて祝いに来たのだがそれが吹っ飛んで忘れてしまうほど彼は、今去ってしまった少女に心を奪われてしまった。

 綺麗な長い紅緋色の髪、瑠璃と区別がつかなくなりそうなほど透き通った瞳、艶やかな桃色の唇。美少女なのに性格は勇敢で、困っていた岸田のことを助けてくれた。

「トシさ…あの女の子のこと知ってる?」

 微かな希望を込めて夜叉の後ろ姿を目で追うと、智はあっさりと頷いた。

「クラスメイトです」

「マ!? 連絡先教えてくれ」

「俺はちょっと分からないですね…」

 岸田はその時、かつてないほどがっついて智のことを困らせた。

 眼帯をしているのがもったいないほど綺麗な瞳を持った少女に再び会いたい。あわよくば眼帯の下を見たい。彼は智がドン引いてるのにも関わらず彼女ともう一度会いたいと必死に頼み込んだ。
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