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3章
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昨日の夕方のことを一応結城に報告しておこうか、と夜叉は昼休みに彼女の教室に訪れた。
「やっほー結城先生────あら」
昼休みの賑やかな教室を覗き込むと先客がいたらしい。結城は3人の女子に囲まれ紙袋を渡されている。早速彼女が中をのぞいて手で触れると“言うことなし”と言うように親指を立てた。
女子達は結城の高評価に歓声を上げ、口々に別れの言葉を告げて手を振りながら出ていった。すれ違いざまにもう一つ紙袋を持っているのを見つけたのでまた誰かに渡しに行くのだろうか。
「やーさん。どうした?」
女子たちの後ろ姿を見送っていたら結城の方から声をかけられた。
「ちょっと耳に入れておきたいことがあって」
「ほう?」
珍しい、と言いたげな結城を廊下に連れ出して昨日のことを伝えると、大きなため息をついて首を振った。
「やっぱりいるか…。中学生の時にもそういうことは結構あったんだ」
「へぇ。ウチの中学にもやんちゃ坊主がいたけど、結城という存在がいるとこでもいたんだね」
「あぁ。やーさんが言うようにイキった下級生ばかりだった。いつの時代でもいるんだな…」
「嫌だね。絡まれた高校生には謝っておいたけどこの学校ってヤバいって噂を流されたらどうしよ…」
「それはそれで放っておけばいいんじゃないか。噂で判断するようなヤツはそれまでの人間ってことだし」
「そうっちゃそうかな…」
この話題はそんなに長く話すものでもないな、と夜叉は結城が手にしている紙袋を指さした。彼女は軽く持ち上げると中を開けて夜叉に見せた。
「私の冬服だ。手芸部が衣替えの時期にデザインを工夫して作ってくれるんだ」
そう話す彼女は他の生徒と違って長ランにホットパンツにフィンガーグローブという出立ち。彼女は真冬でもホットパンツで寒がっている素振りを見せることはない。
「私のファンだって言って1年生の頃から作ってくれているんだ。あの子らは手芸部で本当は家政科のある学校に行きたかったけど家庭の事情で行けなかったんだって。でもこうして私や早瀬たちの服を作ることができて楽しいって」
「そういえばそんなこと言ってたね」
「これでも私も彼女たちには感謝しているんだ。こんなんだから最初は誰も寄り付いてくれなかったから…。彼女たちが私の格好を好きだと話しかけてくれたおかげで私にも友だちと呼べる人がたくさんできたんだ」
そう話す結城の横顔は藍栄の守護神と畏怖される女子高生の姿はなく、ただの女の子に見えた。
「私もきっかけはどうであれ結城さんと仲良くなれて嬉しいよ」
夜叉がニコニコと話すとそのきっかけ思い出したのか結城は吹き出し、すぐに目の下にクマを作ってアゴに手を当てた。
「そういえばやーさん…。例の男とは進展は無いんだろうな…」
「…例の男とは」
「響高の影内朝来に決まってるだろう。悔しいが顔がいいのは認める────だが付き合うのは反対だ! あーさんと同じで私は反対派だからな」
「阿修羅とそんなこと話してたの…」
「あぁ。仮にも敵対していた男だ。あいつはどうにも胡散臭い気がしてならん。どんなに柔和そうに見えても喧嘩屋としてのあいつは人間ではない。鬼とか────妖怪のように思える時があった」
彼女の冷静な分析に半分は当たっているんだろうな────と夜叉は内心、冷や汗をかいていた。
彼はもともと邪神だったし今も普通の人間ではない。わかる人にはわかってしまうのかもしれない。
(もしかしてこういう人が巫女の気質があるのかな?)
夜叉は結城が難しい顔で空中を睨むのを見つめながら先日の出来事を思い出していた。
よく考えたら結城は幻のような紫髪の口調によく似ている。もちろんそれだけではどうにもならないことはわかっているが、結城の静かな怒りのオーラなんかは触れたらこちらがケガをしてしまいそうな鋭さがある。彼女の放つものは他の人には無い芯の強さがある。軸がブレない強さは彼女自身の精神が関係しているのだと思う。
「結城って…神社の娘だったりする?」
「いや、違うが」
夜叉の突拍子も無い問いかけに結城は面食らったが真顔で返した。“そうだよね、へへ…"と夜叉はヘラヘラしてごまかし、“おバカな後輩はよろしくね"と告げて自分のクラスへ戻った。
「やっほー結城先生────あら」
昼休みの賑やかな教室を覗き込むと先客がいたらしい。結城は3人の女子に囲まれ紙袋を渡されている。早速彼女が中をのぞいて手で触れると“言うことなし”と言うように親指を立てた。
女子達は結城の高評価に歓声を上げ、口々に別れの言葉を告げて手を振りながら出ていった。すれ違いざまにもう一つ紙袋を持っているのを見つけたのでまた誰かに渡しに行くのだろうか。
「やーさん。どうした?」
女子たちの後ろ姿を見送っていたら結城の方から声をかけられた。
「ちょっと耳に入れておきたいことがあって」
「ほう?」
珍しい、と言いたげな結城を廊下に連れ出して昨日のことを伝えると、大きなため息をついて首を振った。
「やっぱりいるか…。中学生の時にもそういうことは結構あったんだ」
「へぇ。ウチの中学にもやんちゃ坊主がいたけど、結城という存在がいるとこでもいたんだね」
「あぁ。やーさんが言うようにイキった下級生ばかりだった。いつの時代でもいるんだな…」
「嫌だね。絡まれた高校生には謝っておいたけどこの学校ってヤバいって噂を流されたらどうしよ…」
「それはそれで放っておけばいいんじゃないか。噂で判断するようなヤツはそれまでの人間ってことだし」
「そうっちゃそうかな…」
この話題はそんなに長く話すものでもないな、と夜叉は結城が手にしている紙袋を指さした。彼女は軽く持ち上げると中を開けて夜叉に見せた。
「私の冬服だ。手芸部が衣替えの時期にデザインを工夫して作ってくれるんだ」
そう話す彼女は他の生徒と違って長ランにホットパンツにフィンガーグローブという出立ち。彼女は真冬でもホットパンツで寒がっている素振りを見せることはない。
「私のファンだって言って1年生の頃から作ってくれているんだ。あの子らは手芸部で本当は家政科のある学校に行きたかったけど家庭の事情で行けなかったんだって。でもこうして私や早瀬たちの服を作ることができて楽しいって」
「そういえばそんなこと言ってたね」
「これでも私も彼女たちには感謝しているんだ。こんなんだから最初は誰も寄り付いてくれなかったから…。彼女たちが私の格好を好きだと話しかけてくれたおかげで私にも友だちと呼べる人がたくさんできたんだ」
そう話す結城の横顔は藍栄の守護神と畏怖される女子高生の姿はなく、ただの女の子に見えた。
「私もきっかけはどうであれ結城さんと仲良くなれて嬉しいよ」
夜叉がニコニコと話すとそのきっかけ思い出したのか結城は吹き出し、すぐに目の下にクマを作ってアゴに手を当てた。
「そういえばやーさん…。例の男とは進展は無いんだろうな…」
「…例の男とは」
「響高の影内朝来に決まってるだろう。悔しいが顔がいいのは認める────だが付き合うのは反対だ! あーさんと同じで私は反対派だからな」
「阿修羅とそんなこと話してたの…」
「あぁ。仮にも敵対していた男だ。あいつはどうにも胡散臭い気がしてならん。どんなに柔和そうに見えても喧嘩屋としてのあいつは人間ではない。鬼とか────妖怪のように思える時があった」
彼女の冷静な分析に半分は当たっているんだろうな────と夜叉は内心、冷や汗をかいていた。
彼はもともと邪神だったし今も普通の人間ではない。わかる人にはわかってしまうのかもしれない。
(もしかしてこういう人が巫女の気質があるのかな?)
夜叉は結城が難しい顔で空中を睨むのを見つめながら先日の出来事を思い出していた。
よく考えたら結城は幻のような紫髪の口調によく似ている。もちろんそれだけではどうにもならないことはわかっているが、結城の静かな怒りのオーラなんかは触れたらこちらがケガをしてしまいそうな鋭さがある。彼女の放つものは他の人には無い芯の強さがある。軸がブレない強さは彼女自身の精神が関係しているのだと思う。
「結城って…神社の娘だったりする?」
「いや、違うが」
夜叉の突拍子も無い問いかけに結城は面食らったが真顔で返した。“そうだよね、へへ…"と夜叉はヘラヘラしてごまかし、“おバカな後輩はよろしくね"と告げて自分のクラスへ戻った。
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