たとえこの恋が世界を滅ぼしても6

堂宮ツキ乃

文字の大きさ
13 / 31
3章

しおりを挟む
 昨日の夕方のことを一応結城に報告しておこうか、と夜叉は昼休みに彼女の教室に訪れた。

「やっほー結城先生────あら」

 昼休みの賑やかな教室を覗き込むと先客がいたらしい。結城は3人の女子に囲まれ紙袋を渡されている。早速彼女が中をのぞいて手で触れると“言うことなし”と言うように親指を立てた。

 女子達は結城の高評価に歓声を上げ、口々に別れの言葉を告げて手を振りながら出ていった。すれ違いざまにもう一つ紙袋を持っているのを見つけたのでまた誰かに渡しに行くのだろうか。

「やーさん。どうした?」

 女子たちの後ろ姿を見送っていたら結城の方から声をかけられた。

「ちょっと耳に入れておきたいことがあって」

「ほう?」

 珍しい、と言いたげな結城を廊下に連れ出して昨日のことを伝えると、大きなため息をついて首を振った。

「やっぱりいるか…。中学生の時にもそういうことは結構あったんだ」

「へぇ。ウチの中学にもやんちゃ坊主がいたけど、結城という存在がいるとこでもいたんだね」

「あぁ。やーさんが言うようにイキった下級生ばかりだった。いつの時代でもいるんだな…」

「嫌だね。絡まれた高校生には謝っておいたけどこの学校ってヤバいって噂を流されたらどうしよ…」

「それはそれで放っておけばいいんじゃないか。噂で判断するようなヤツはそれまでの人間ってことだし」

「そうっちゃそうかな…」

 この話題はそんなに長く話すものでもないな、と夜叉は結城が手にしている紙袋を指さした。彼女は軽く持ち上げると中を開けて夜叉に見せた。

「私の冬服だ。手芸部が衣替えの時期にデザインを工夫して作ってくれるんだ」

 そう話す彼女は他の生徒と違って長ランにホットパンツにフィンガーグローブという出立ち。彼女は真冬でもホットパンツで寒がっている素振りを見せることはない。

「私のファンだって言って1年生の頃から作ってくれているんだ。あの子らは手芸部で本当は家政科のある学校に行きたかったけど家庭の事情で行けなかったんだって。でもこうして私や早瀬はやせたちの服を作ることができて楽しいって」

「そういえばそんなこと言ってたね」

「これでも私も彼女たちには感謝しているんだ。こんなんだから最初は誰も寄り付いてくれなかったから…。彼女たちが私の格好を好きだと話しかけてくれたおかげで私にも友だちと呼べる人がたくさんできたんだ」

 そう話す結城の横顔は藍栄の守護神と畏怖される女子高生の姿はなく、ただの女の子に見えた。

「私もきっかけはどうであれ結城さんと仲良くなれて嬉しいよ」

 夜叉がニコニコと話すとそのきっかけ・・・・思い出したのか結城は吹き出し、すぐに目の下にクマを作ってアゴに手を当てた。

「そういえばやーさん…。例の男とは進展は無いんだろうな…」

「…例の男とは」

「響高の影内朝来に決まってるだろう。悔しいが顔がいいのは認める────だが付き合うのは反対だ! あーさんと同じで私は反対派だからな」

「阿修羅とそんなこと話してたの…」

「あぁ。仮にも敵対していた男だ。あいつはどうにも胡散臭い気がしてならん。どんなに柔和そうに見えても喧嘩屋としてのあいつは人間ではない。鬼とか────妖怪のように思える時があった」

 彼女の冷静な分析に半分は当たっているんだろうな────と夜叉は内心、冷や汗をかいていた。

 彼はもともと邪神だったし今も普通の人間ではない。わかる人にはわかってしまうのかもしれない。

(もしかしてこういう人が巫女の気質があるのかな?)

 夜叉は結城が難しい顔で空中を睨むのを見つめながら先日の出来事を思い出していた。

 よく考えたら結城は幻のような紫髪の口調によく似ている。もちろんそれだけではどうにもならないことはわかっているが、結城の静かな怒りのオーラなんかは触れたらこちらがケガをしてしまいそうな鋭さがある。彼女の放つものは他の人には無い芯の強さがある。軸がブレない強さは彼女自身の精神が関係しているのだと思う。

「結城って…神社の娘だったりする?」

「いや、違うが」

 夜叉の突拍子も無い問いかけに結城は面食らったが真顔で返した。“そうだよね、へへ…"と夜叉はヘラヘラしてごまかし、“おバカな後輩はよろしくね"と告げて自分のクラスへ戻った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

ふしあわせに、殿下

古酒らずり
恋愛
帝国に祖国を滅ぼされた王女アウローラには、恋人以上で夫未満の不埒な相手がいる。 最強騎士にして魔性の美丈夫である、帝国皇子ヴァルフリード。 どう考えても女泣かせの男は、なぜかアウローラを強く正妻に迎えたがっている。だが、将来の皇太子妃なんて迷惑である。 そんな折、帝国から奇妙な挑戦状が届く。 ──推理ゲームに勝てば、滅ぼされた祖国が返還される。 ついでに、ヴァルフリード皇子を皇太子の座から引きずり下ろせるらしい。皇太子妃をやめるなら、まず皇太子からやめさせる、ということだろうか? ならば話は簡単。 くたばれ皇子。ゲームに勝利いたしましょう。 ※カクヨムにも掲載しています。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

処理中です...